手招きしてくれた社さんのもとへと、小走りで駆けていく。

「(おはようございます、まだ打ち合わせ中ですか?)」
「(うん。そうなんだ、もうちょっと待ってくれる?)」

小声でこそこそと挨拶を交わす。
そして社さんの視線の先を見ると、監督とヒロインの女優さんと3人であれこれ話し合う敦賀さんがいた。

主人公とヒロインのそれぞれの部屋の小道具について、色々打ち合わせをしているらしい。
セットを見ながら監督と話をしている敦賀さん。
あんな風に真剣な顔もまたかっこよく見えるとは…

(何しても絵になる人ね。ホントずるいんだから……)

ちょっぴり照れちゃうような、悔しいような複雑な気持ちでいると、セット上の敦賀さんと目があった。
瞬間―――

(……う、うわーーーっ)

神々スマイル120%が降ってくる。
あまりにも甘やかなその笑顔に、思わず赤面して目をそらしてしまった。

「れーんー…隠す気ないなぁあいつ……」

隣の社さんに目を移すと、社さんも頬が真っ赤だった。
…あぁ、これもまた『フェロモン駄々漏れ状態』ってやつなんですね。
この笑顔のせいで女の子達が騒ぐんですね、よくわかります。

しかし私は、甘い視線の他に刺々しい視線もしっかり感じていた。
そう。敦賀さんのお隣にいる女優さんの………

(あああ…、まだ疑ってるのね私のこと)

2週間前、うっかりメイド服のまま来てしまった時に、敦賀さんがそれはそれは喜んでしまって。
ベタベタとスキンシップを図る敦賀さんを見て「あなた敦賀くんの何?」と、他の女優さんと群れをなして散々追求してきたことは、記憶に新しい…←恐ろしかったことその1

「色目なんか使って!!」
「色目なんて…そんなもの使ってませんっ」
「じゃあちゃんと色目使ってないってこと、証明して見せなさいよ!」

…のやり取りもあって、ここには必ずツナギで来るようになったのだ。
先週は、まさかこんなドピンクで来ると思っていなかったのだろう。
女優さんたちの顔がひきつっていた。

(でも、敦賀さんが神々スマイル奮発してくれるから、結局まだいちゃもんつけられるのよね……)

ふう、と溜め息を吐くと、セット上の3人が話を終えたのかこちらへと向かってきた。

「おはようございます、打ち合わせの最中に失礼してます。」
「やあ、京子ちゃん!君なら見学も大歓迎だよ!何せ君の演技力は俺も注目してるんだ。さすが敦賀くんが推す後輩だよ。」
「佐藤監督は京子のナツにベタ惚れなんだよ。」

カラカラと笑う監督の隣で、まだまだ神々スマイルの出力を上げようとする敦賀さん。
あんまり褒められ慣れてないことと、神々スマイルのダブルパンチで頬が熱い。
そして…敦賀さんの真後ろから感じる鋭い視線に、居たたまれなさが倍増する。

「はぁ…あの、畏れ入ります。」
「しかし、そのピンクは本当に目に痛いねぇ…この間の〈学んでポン!〉のメイド服はどうしたの?あれ似合ってて可愛いのに。」

ピンクツナギで来たことを若干残念がる監督に、敦賀さんはあろうことか爆弾になり得そうな言葉をかけた。

「あれじゃ可愛すぎて、京子目当ての男が一気に増えるじゃないですか。馬の骨が増えるのは勘弁ですよ。」

ひーーーっ!!やめてやめてヤメテ!!!
そんな「付き合ってる」ともとれる発言!
まだ交際宣言なんか出したくない!!
死にたくないですっ!!
ほら、あなたの後ろの方の目線がますます痛いです…っ!

「いっ、いいんです!!これが普段の私のユニフォームなんです!敦賀さんへのお弁当だって、このセクションでの依頼ですから!(って事にしてる)」
「ハハ、ホント君たちのところの社長さんは変わってるよね。ラブミー部ねぇ…本当に面白いよ、京子ちゃん。敦賀くんがその才能を高く買うのがよくわかる。」
「でしょう?だから変な虫が付かないよう必死なんですよ。」

監督はどこまでわかってて話が進んでいるのか、私には全く察することが出来なくて冷や汗がまた垂れそうになる。
敦賀さんは明らかに隠す気がないし…だから女優さんの顔は般若のようになってるし。

「そんな奇特な方はいらっしゃいません! 敦賀さん!私、休憩時間そんなに長くないですよ。お弁当要りませんか!?」
「ああ…そうだよね、ごめんね? では監督、また後で失礼します。」
「おう、こっちの撮影は15時からだ。よろしく頼むな。」
「はい。」
「ありがとうございます、お邪魔しました。」

これ以上いると何を言い出すかわからないので、必死にお昼休憩へと誘導する。
敦賀さんは話を切り上げ、監督に一礼すると私の手から鞄を取り「行こうか」とスタジオからの退出を促す。

私は敦賀さんと社さんに挟まれて、スタジオの扉を出た。




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何だか書きやすかったので、先に嘘つきアップ。
蓮のおいたも怖い体験ですが…
共演者に囲まれちゃったらねぇ………

そして交際を全く隠す気がない蓮氏。
そんな堂々と…!!
いいのー?



しかし…正直書いてる余裕はまるでゼロでございますorz
が、頑張れ自分!