〈じじじ…っ〉
「よし、衣装はこっちに……」
メイドのコスチュームから、慣れたショッキングピンクへと着替える。
胸元のファスナーをきっちり閉じると、休憩後にまた着る予定のフリフリなメイド服をハンガーに丁寧に掛けていく。
今日の収録はクイズ番組、私はそのアシスタントだ。
クイズ番組のアシスタントなのに何故メイド?とも思うけど…
でも衣装は可愛いから、割と気に入っているお仕事だ。
出演してくださる大学の教授の都合で、毎週火曜日、午前中と夕方からの2回に分けて撮影する。
そして敦賀さんは次クールのドラマ撮影が始まった。
だから1週間のうち1日は、必ず一緒のTV局で仕事をしてることになる。
『お昼を一緒に食べたいな』
ドラマの撮影が同じ局だとわかった時に、敦賀さんにそう言われた。
敦賀さんが珍しく食事の事を言ってくれるから、OKを即答で出した私。
だけど………
これに着替えていかないとものすごい面倒な事になるって、2週間前に気づかされたわ。
「……ああっ!今思い出すだけでも恐ろしい…っ!!」
二週間前の惨事を思い出すと、体が勝手にブルリと震えた。
思い出しただけでも鳥肌が立ってくる。
でも本当に色々と怖かったんだもん。
もうそれは色々と………
「はあ。着替えたし、行きますかー。」
着替える前に確認したメールでは、小道具等の確認でCスタジオに呼ばれたって話だったな…
私はお弁当を入れた鞄を持って、自分の楽屋を出た。
*
Cスタジオはセットが既にしっかりと組まれていて、小道具で溢れかえっていた。
うっかり踏んで壊さないように、慎重に前へと進む。
「え…!?京子ちゃん?どうしたの?」
顔見知りの小道具さんが、ふと私に気がついて声をかけてくれた。
「こんにちは、敦賀さんにお弁当を届けるようにお願いされてまして…」
「ああ、社さんに?京子ちゃんも大変だねぇ。あっちのセットの奥で監督と打ち合わせ中だよ?」
「はい、ありがとうございます。」
指差された方へ向かうと、後ろからヒソヒソ声が聞こえてきた。
「え、あのド派手なピンクの子、何?」
「ああ、お前は最近入ったばっかだから知らないのかー。敦賀くんの後輩で、タレントの京子ちゃん。敦賀くんのお弁当を時々届けに来るんだよ。」
「え…まさか敦賀くんと付き合ってんの?」
『付き合ってんの?』…その言葉に、一瞬ドキッと心臓が一拍だけ大きく打つ。
ヤバい……バレる!?
内心タラリと垂れる冷や汗。
だけど、二人の会話は私が望んだ通りの言葉を発してくれた。
「まっさかぁ!確かに京子ちゃんは可愛いし礼儀正しいけど、まさかあんな目に痛いピンクツナギを着るような子、敦賀くんが彼女にはしないでしょ~!」
「だよなぁ、あの『敦賀蓮』だもんなぁ!」
「「あのショッキングピンクはないない!!」」
ワハハと笑う声が聞こえてきて、私は詰めていた息をふうっと吐き出した。
(良かった、今回もバレなくて…)
こういう時、本当にこのピンクのつなぎは役に立ってくれるわぁ。
本当に感謝してもしきれないわ!
まぁ、私が『可愛い』だなんて、あの小道具さんもちょっと変わった好みの持ち主だったみたいだけど……
「(あっ!キョーコちゃん、こっちこっち…)」
その時、進行方向にいた社さんが先に私に気がついて、ジェスチャーでおいでと手招きをしてくれた。
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あれ?蓮さんの側に来たのに出てこなかったわ。
ピンクツナギのキョーコちゃん…
それもまた可愛いと思うんだけどなー。
きっとツナギ着てても「可愛い」と思っているスタッフさんは多いはず←キョーコはスルーしそうですけどね。