裏口からスタッフルームへと駆け込んで、手に持っていたエプロンを放ると急いで着替えをする。
白シャツのボタンを外すのももどかしい。
黒のスラックスを一気に下ろしてロッカーから濃紺のジーンズを出すと、その奥で携帯が光っているのが見えた。
とりあえずジーンズを履きながら携帯を確認すると、メールが1通届いていた。
差出人は貴島。

(何で……?)

自分の今の格好が中途半端なのはわかっているが、どうしてもメールの内容の方が気になって…
慌ててカコカコと決定ボタンを3回押して、新着メールを開いた。

文章は簡潔に一文のみ。
『ここに来い。』
添付されていた画像を見て、俺は少々驚いた。

(何でここなんだ?だって今日はあっちのテーマパークにいるはずじゃ…)

画像に写る景色は、いつか最上さんと二人で見た海。
半月型の人工の渚と、そこへ続く橋が証拠だ。
貴島は何故この場所を送ってきたんだろうか…

(ダメだ、考えてたら時間がなくなる。)

この場所へは、乗り継ぎ時間を入れると小1時間くらいかかるはずだ。
白シャツを脱ぎ捨てて、朝着てきたカットソーに着替える。
荷物を適当に鞄の中へ放り込むと、急いで部屋を飛び出した。



夕方からの催しの為にテーマパークへ入ろうとする人達が、うきうきとした表情で乗り合わせる中、1人手前の駅で下車する。
水族館の閉園時間も近いため、公園内から戻ってくる人達で駅は少し混雑していた。

この時間は家族連れの帰りが多い。
カップル達は、この時間になってやっとライトアップされた観覧車に並んでいるのだろう。
小さい子供に気を付けながら、人の流れに逆らって改札を出、公園へ続く階段を2段飛ばしで降りていく。
広々としたベージュの石畳でできたメインストリートも、もちろん駆け足だ。
半分くらい進んだところで、石のベンチにに腰掛けながらアイスコーヒーを飲む貴島を見つけた。

「よお。案外早かったなー。」

のんびりとした口調で、貴島は声を掛けてくる。
普段と全く変わった様子が見られなくて、俺は何故自分がここに呼ばれたのかわからない。

「何でこの場所?今日は隣のテーマパークにいたんじゃ……」
「そりゃあ、向こうでデートしてましたよ?でもさぁ…ま、いいや。写メの場所にお姫様はいるよ。」

そう言うと、アイスコーヒーのカップをペコペコ押しながら、駅の方へ歩いていった。
貴島の考えてることが本当に読めなくて、しばらくその場に立って駅に向かう貴島の後ろ姿を眺めていたが、今は一人でいるであろう最上さんが気になって、先を急ぐ。

夏休みが始まったあの日、二人で一緒に見た景色の中に最上さんは一人立っていた。




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原作でも願いたい。
貴島氏のキラーパス!
彼は案外いい協力者になってくれると思うんですよねー^^