本当はもっと遅い上がりのはずだった。
だけど、百瀬さんとの久し振りの共演は息ぴったりで、撮り直しもなくあっさり終わる事が出来た。

『敦賀さんは行くつもりらしいわ。演技のスキルアップにもなるし、そんないい話し普通は断らないわよね?でもいつから撮影なのかしら…』

百瀬さんの言葉が頭から離れない。
ハリウッドで演技の勉強…それは俳優なら誰でも憧れる道よね。
敦賀さんだって、もっと高みを目指しているはず。
なら、私は応援するべきなのに……行ってほしくない。
寂しいだなんて思ってしまう。
こんな事思っちゃうなんて、敦賀さんの彼女失格だよね………

気が付いたら敦賀さんの部屋の前に立っていた。
インターホンを鳴らしても出ない…まだお仕事から戻ってないのね。
だけどこんな気持ちの私が、彼女面して合鍵で部屋に入るだなんておこがましく感じて、ドアの前で敦賀さんを待つ事にした。



「キョーコ…っ!どうして……」

聞きたかった声が慌て近寄ってくる。
そろりと顔を上げると、眉を寄せて心配そうに見つめてくる敦賀さんがいた。

「…つるが、さん……ハリウッドからのオファー、本当ですか…?」
「……うん。黙っててごめん。」

手を取られ、ゆっくり立つよう促される。
何を言えばいいのかわからなくて、背中にぎゅっと手を回すと、敦賀さんも力一杯抱き締め返してくれた。
痛む胸が敦賀さんでいっぱいになる。

「いつからなんですか…?」
「うん…明後日の午後には出発になるよ。」

明後日……そんなに早い出発だったの?
どうして何も言って……私に言ってもしょうがなかったのかな?
だって私、行かないでほしいなんて思ってる。
重たい女になんかなりたくないのに…敦賀さんの邪魔なんかしたくないのに。

(お願い、置いてかないで…)

言ってはいけない言葉の代わりに、腕に力を入れる。
すると、つむじのあたりからリップ音が聞こえてきて、顔を上に向けると苦しそうな、切ないような…複雑な表情をした敦賀さんの顔があった。

「「………………。」」

暫く二人とも言葉が出ない。
何か喋らなきゃいけないのかもしれないけど、敦賀さんのそんな表情を見たら何も言葉にならなくて。
黙っていたら、敦賀さんの唇がそっと降ってきた。
額に、瞼に、鼻のてっぺんに、頬に………。
唇には最初遠慮がちに触れたけど、離れていくのが嫌で追い掛けようとしたら、次は急に荒々しく塞がれた。
息まで全て奪われるんじゃないかと思うくらい激しくて、あっという間に身体の力が抜けていく。
それでも置いていかれたくなくて、握り締めたジャケットは離せない。
敦賀さんも離す気はないらしく、片腕の拘束は解かずにもう片方の手を後頭部に当てて逃げ道を塞いでいる。
そうして長い事、家の前でキスを交わしていた。




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あれ?お家入ろ…?
限定頻出でホント申し訳ないですが、次は限定公開です。
しかも洗礼よけきれないかも、今度こそ…
結構頑張ってるんですけどね?