「ちょっ!?何やってんの!離しなさいよ!」

後ろから抱き付かれて動きが制限されてしまったが、何とか逃げ出したくて必死で身を捩る。
が、それも許さないつもりなのか、ショータローの腕にますます力が入ってどうしようもなくなってしまう。
ショータローの吐く息が耳に掛かると、ぞわっと背筋に冷たい何かが走った。
敦賀さんの時とは違う…悪寒、嫌悪感。
ふと敦賀さんの言葉を思い出した。

『好きなヒトに触られたら、誰だってそうなるんだ。』

あれは、本当に敦賀さんだから体が反応したのね…
あの時は気持ち良かったぞわりとした感覚も、今は吐き気が来そうなほど嫌だ。

「本気で離して!ショータローってば、聞いてるの!?」
「本当にアイツじゃなきゃだめなのかよ!?アイツ…敦賀のヤツとやったのかよ…」

はぁ!?なんて事聞いてくるのよこいつは!

「あっ、あんたには関係のない事じゃない!ほっといてよ!」
「関係なくなんかねえよ!」

突然肩を捕まれたかと思うと体をひっくり返され、壁に押しつけられてしまった。
両手首を掴まれ、肩の横に縫い止められる。

「なぁ、答えろよキョーコ。」
「ショータロー………?」
幼なじみとして一番知っていたはずのその顔は泣きそうに歪んでいて、プライドの高いショータローが一度も私に見せたことのない表情だった。
思わずこちらまで黙ってしまう。

「今更って思うだろうけど、おまえの事は本気で後悔してるんだ…俺の入る余地はもうないのか?」
「………は?何言って…」

訳のわからない話をするなぁと思ったら、ショータローの顔が近づいてきた。
………え!?これってもしかして、もしかしなくてもキスされる!?
うそ…やだっ!

「いい加減に目を覚ましなさい…っこのバカショー!!」

目の前に迫っていたショータローの額に、思いっきり頭突きをかました。

「いった……!!」

怯んだがまだまだ人の手を離さないショータローに、離せと言わんばかりに股間を蹴り上げる。

「~~~~~~~~~っ!!?」

相手が完全に崩れ落ちたところで、すかさずドアへ向かって逃げた。
それと同時にコココンっと慌ただしいノック音の後、すぐにドアが開き祥子さんが入ってきた。

「やっぱりここに尚は来ていたのね!ごめんなさいキョーコちゃん!」
「祥子さん!コイツさっさと仕事に連れていってください。毎度ながら迷惑ですっ!」

蹲って悶絶するショータローは、さすがに祥子さんでは引きずって連れ出す事も難しい。
何とか祥子さんに立たされて、宥められてヨロヨロとドアへと向かう。

「もうっ、勝手にいなくならないで頂戴ね。収録時間早まったら困るわよ?」
「…祥子さん、ちょっと待って。…キョーコ…もう俺はダメなのか?」

廊下へ出る直前で一度止まったショータローは、振り返る事なくぽつっと言葉を発した。

「………。」
「……それが答えか。手荒な真似して悪かったな……」

そのままショータローは祥子さんに付き添われ、静かに楽屋を後にした。

「……………敦賀さん。」

何でか理由はわからないけど、ふっと無性に敦賀さんに会いたくなった。



************

でもね、キョーコさん。
お忘れのようですが、多分恐らく絶対大魔王です。