8月に入ると、この海も人出はますます多くなる。
家族連れやカップル、仲間で来る人…一夏の思い出作りにみんな精を出す。
俺たちはそのささやかなお手伝いをしているわけで…
しかし仕事内容は訪れる人が増えれば増える程、『ささやかなお手伝い』レベルを超えてなかなかハードになっていった。

「なあなあ、お前ってキョーコちゃんと付き合ってるの?」

3時を過ぎてやっと休憩に入れた俺を迎えてくれたのは、一足先に休憩に出た社だった。
その手には、最上さんが差し入れてくれたコロッケ。

「別に…」
「そうかあ!?じゃあお前、何でキョーコちゃんの手作り弁当いつも貰ってるんだよ。」

はむはむとコロッケを頬張りながら喋る社は、俺の手にある小さな弁当包みをビシッと指差した。
深い青の包みの中身は、今朝最上さんが渡してくれた弁当箱だ。

「これは、前にあんまり食べないって話をしたら作ってきてくれるようになって…」
「ああ、さぼって二人っきりでデートに行っちゃったあの日ね~」

ぐーふーふーと嫌な笑いを浮かべる社。
…遊ばれるのは不本意だ、無視を決めてかかる。

「でもな、蓮。好きなら好きでさっさと動かないと、キョーコちゃん取られちゃうぞ!キョーコちゃん本当に綺麗になったしさぁ…」

確かに、社の言う事は最もだった。
髪を切り、明るい色に染めた彼女は真夏の熱い日を浴び、更に輝きを増した。
幼さをほんの少し残しつつも少女から大人へと一気に花開いた様は、あの貴島でさえ黙らせた。
加えて元来の性格の良さ。
客からもスタッフからも人気を集めている。
しかし本人が恋愛にまったく興味がなく、尚且つ他人の好意に鈍感な為、今のところ告白や口説き文句を全てスルーしているのが現状だ。
つまり、俺が告白しようとも結果は見えているわけで……考えただけで凹む。

「光さんとかは結構本気だぜ?真面目な話、本腰入れたらどうなんだよ。」

休憩時間が終わりなのか、社は「じゃな」と言って部屋を出ていった。
光さんか……
背が少し低めでベビーフェイスなのが、女子の母性本能を擽るらしい。
大人しめな性格で誰にでも優しいお兄さん。
俺も去年は色々とお世話になった。
可愛い同士でお似合い……とかあんまり思いたくないな。
社が残っていたら「闇の国の蓮…!」と怯えそうな、物騒な雰囲気を出しながら弁当を食べる。
味付けもあっさりだし、量も適量。
本当にいくらでも食べれてしまいそうな最上さんの弁当は、今のところ俺だけの特権。
あの日は結局ずっと海を見て、隣のテーマパークで上がる花火を見てから帰った。
肩を抱く事も手も繋ぐ事も出来ず、随分もどかしい思いをしたのを覚えてる。
だけど、あの場での告白だけは卑怯な気がして、どうしても出来なかった。
もっとちゃんと俺の事知ってもらって、好きになってもらってからじゃないと…

弁当も食べ終わり、食後のコーヒーでも買いにいこうかと部屋を出ると、段ボールの束を抱えた最上さんがいた。



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何故かパステルは1話1話が(マックにしては)少し長めなんだよなぁ。
その分話数が減るかというと、そうでもないし。