夏の日は長い。
それでもこの時間になれば、空はオレンジ色の太陽に少しずつ塗り替えられていく。
まだまだオレンジに染まる気配のない、キラキラ輝く波を見つめながら。
最上さんはポツリポツリと語りだした。

「うち、母子家庭なんだけど、母との仲は悪くてね…ショータロー…不破の家に預けられてたの。
ずっとずっと居候の身は肩身が狭くて…でもショータローが好きだったから、頑張れた。」

最上さんの表情は懐かしい昔話を語る優しい顔をしていたが、声はどこまでも固い。
『ショータローが好きだったから』
俺はその言葉に胸が締め付けられた。

「幼い頃から彼の実家の…旅館なんだけどね、お手伝いをしてたから、必然的に私は女将修業をして…
20歳になったら結婚する事になっていたの。
だけど高校卒業と同時に行方を眩ませて、気付いたら歌手としてデビューしてた。
話をする為に東京に出てきて目にしたのは、知らない女の人を抱くアイツだったわ………」

そこまで言って、彼女はそっと目を閉じた。
両手は間接部分が白くなるほどぎゅっと握りこまれている。
ずっと好きだった人のそんな場面に出くわす…。
俺にはそんな経験ないけれど、最上さんが心に深い傷を負っていることだけは十分に伝わってきた。

「それからは、おじ様方に全部お話して女将修業もやめて、大学受験の為に猛勉強したわ。
そうして1年遅れで私は大学生になったの……」

一度こちらに顔を向けて笑ってくれたが、うまく笑えなくて苦笑いのようになってしまっている。

「今日あいつが来たのは、私が不破の養子になって自分の代わりに旅館を継がせる話の為だったの。
『俺と結婚するのを諦めてないんだったら、籍だけ入れてやってもいいけど』って…言われたら、ついかっとなってはさみを持ってたわ……
ふふっ、結婚式で結い上げられるようになんて、髪伸ばしてたのをまだ切ってなかったから勘違いさせちゃうのよね。
敦賀くんとミューズのおかげですっきりしたわ!本当にありがとうねっ!」

にっこり笑う最上さん。
………だけど、俺は気付いてしまった。
ここ数日ずっと最上さんを見てきたからわかる。
これは………彼女の本当の笑顔じゃない。

「……無理して笑わなくていいですよ。」
「……………え?」

きょとんとした顔で最上さんが聞き返してくる。

「辛い時は『辛い』って言っていいんです。泣きたい時は無理して笑わなくてもいいんですよ…」
「でも………それじゃみんなが迷惑するわ……」
「みんながどうこうするんじゃなくて、最上さんがどうしたいかですよ。
…少なくとも、俺は迷惑だとか思いませんから。」
「………本と…うに?」

次第に最上さんの顔が歪んでいく。

「…泣いても、いいの……?わた、しっ」

最後は既に涙声でうまく言えていない。
俺は今にも泣きそうな最上さんに近付いて、そっと肩を抱きかかえた。



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今回の話はちょっと尚キョ要素入っててすみません。
しかも説明ちっく。
でもパステルでは外せないエピなもので………