表参道のメインストリートは、青々と繁った木々によって歩道に日陰ができ、歩く人々を真夏の日差しから守ってくれている。
喧騒の並木道沿いにあるミュージックショップ、その脇道を入っていけば、そこはアーティスト達の店舗が並ぶ静かな別世界だ。
俺は何も喋らない最上さんの手をつないだまま、1軒の小さな店に入っていった。

「あ、蓮ちゃん。待ってたわよー。」
「こんにちは、テンさん。今日はよろしくお願いします。」
「いいのよ別に!蓮ちゃんの頼みだもの!」

ここは知り合いのMiss.JellyWoodsこと、テンさんのセレクトショップ。
家族揃ってお世話になっているテンさんに、最上さんの髪をお願いしたのだ。

「こんにちは、キョーコちゃん。私の事はテンって呼んでね♪」
「あ、あの…最上キョーコです。よろしくお願いします…」
「じゃあキョーコちゃん、早速変身行くわよー!」
「えっ!あの、ちょっと…えぇ~~~っ!?」

突然理由も告げられずに連れてこられて、おどおどしている最上さん。
テンさんはあっという間に彼女を奥の部屋に連れ去ってしまった。

………強引に連れてきてしまって、申し訳ないとは思う。
だけど、電車の中で不破との関係を聞いた時、最上さんは黙秘を選んだ。
だから俺も、行き先は告げなかった。

(どうせ時間がかかるよな…)

そう思い、一度テンさんの店を出てメインストリートをブラブラ散歩する。
不破と最上さんの関係………。
不破は『婚約者』と言い、最上さんは『元』と言った。
あの言葉から推測するに、婚約関係にあった事は間違いないのだろう。
しかもそう遠くない昔の話で…。
何故だろう、すごくイライラする。

(この間から、俺変だ……)

バイトが始まってから、最上さんが他の男に声をかけられる度。
最上さんが他の男に笑いかけているのを見る度。
胸がムカムカする。
面白くないと思ってしまう。
こんな気持ち、今まで感じた事なかったのに…これは一体何なんだろう………。
(あ、これ…最上さんに似合いそう…)

ふと見たショーウィンドウの中。
ピンクトルマリンで出来た小さな薔薇をペンダントトップにした、シンプルなピンクゴールドのネックレス。
小粒だが可憐な輝きは彼女のようだ。
誘われるようにフラフラと店に入り、そのまま買ってしまった。

(うーん…こんな事も初めてだ、俺。)

今まで女性に贈り物…は付き合った彼女達にしかしてこなかった。
それも、季節行事とか何か特別な時だけ。
自主的に何かをプレゼントしたいと思った事も初めてだ。

この初めてだらけでよくわからない感情を持て余しながら、カフェに入ってコーヒーを飲んだり、インテリアショップを見て回って時間をつぶした。


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まぁ行き先はミューズしかないんですよね。
誰か王道と言って!(あわあわ)
今まで場所は適当にはぐらかして書いてましたが、ミューズが店を出すなら何となく青山とか表参道な気がして…
昔の記憶を引っ張りだして書いてみました。
表参道…何年行ってないんだろう。
主婦になると益々遠いお洒落の街(涙)