ここ数日、敦賀さんの様子が変だ。
食欲がなかったり、体調が悪そうだったり…と言った類ではない。
何かを思い出した様子もない。

…触れる事に戸惑っているような……
いつも通りのハグとかはあるが、どこかよそよそしさを感じるのだ。

(どうしたのかしら?私何かしたかしら……)

変だと感じたのは、敦賀さんが仕事に復帰した夜からだった。

(最初は事故の事、あちこちで聞かれて疲れたかと思ったんだけど、そうじゃないみたいだし。
…やっぱり私なんかが側に居たら疲れちゃうのかな…)

理由が思い付かなくて、思考がどんどんネガティブな方向に走っていく。
どんなに傷付いてもいい、敦賀さんの側にいたい。
自分でそう望んでいた癖に、落ちた気持ちを浮上させられない。
ぐるぐる思考の小箱に閉じこもっていると、またしても早野さんに声をかけられた。

「京子ちゃーん?もう休憩時間に入ったよー?みんなもう飯行っちゃったよ?」
「………え?ホントですか!?すみません、私ったらボーッとしてて」

またも撮影スタジオの隅でボーッとしていたらしい。
慌てて辺りを見回すと、すでに半数以上の共演者やスタッフがいない。
今日は食堂の混む時間に休憩が入る予定だったから、みんな急いで出ていったのだろうか。

「京子ちゃん、最近考え事してる時間多いねぇ。何か悩み事?」
「あ、いえ。そういう訳では…」
「じゃあさ。これから夕飯の買い出し付き合ってくれる?今日はちょっと気分を変えて、近くのカフェに行こうと思ってるんだ。」
「あ。この間、間宮さん達にもお薦めしてたベーグルサンドですか?」
「そうそう!とにかく美味しいからさ、京子ちゃんもそういう時は美味しいものいっぱい食べて、お喋りして元気になるのが一番さ!」

敦賀さんより2つ年上な早野さん。
彼も、ファンからだけでなく、スタッフや共演者からも好感の高い俳優の一人だ。
誰にでも優しく、場の空気を読んで明るくしてくれる。
共演している同い年くらいの女の子達は、みんな「早野さんの妹役なんて羨ましい!」と言っていたし、私自身もこんな兄弟が欲しかったと思ってしまったくらいだ。

「それに、京子ちゃんが相談ないなら、俺の『友達』の話を聞いてもらいたいなぁ。」
「…『友達』?」
「うん、そう。『友達』。」

そう話す早野さんの雰囲気から、それは恐らく早野さん自身の話なんだろうと推察できる。
私を気遣ってくれての事なんだろうな。
本当に敦賀さんのカインと言い、私の『兄』は私を甘やかしてくれるのだろう。

「…じゃあ、しょうがないから一緒に行ってあげてもいいわよ?お兄ちゃん?」
「それは良かった。ではお手をどうぞ、『リカ』。」

パイプ椅子から立ち上がった私と早野さんは、目線を合わせるとクスクス笑いあった。





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間宮さん…ヒロイン役の人。
でも名前だけ参加よー。

ネガティブ思考は止まらないんですよね。
自分がネガティブちゃんだからよくわかります。