三井化学岩国大竹工場で爆発事故 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

昨日未明、山口県の三井化学岩竹工場で爆発事故があり、社員1名が亡くなられました。

中国新聞の記事
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201204230092.html

(引用開始)
 22日午前2時15分ごろ、山口県和木町の三井化学岩国大竹工場で、タイヤの接着剤の原料などを製造するレゾルシンプラントが爆発し、火災が起きた。現場付近で同社社員の砂川翔太さん(22)=和木町=が遺体で発見され、コンビナート内で作業員ら計11人が重軽傷を負った。和木町、岩国市、大竹市の住民11人も爆風で割れた窓ガラスで切り傷を負うなどした。

 岩国地区消防組合などがプラントへの放水を続け、火災は発生から15時間後の同日午後5時15分にようやく鎮圧した。同消防組合などによると、有毒ガスは確認されなかった。

 山口県警捜査1課と岩国署は23日、業務上過失致死傷の疑いで工場の家宅捜索に乗り出す方針。

 三井化学などによると、爆発したプラントで蒸気設備のトラブルがあり、21日午後11時半ごろから停止に向けて作業をしていた。亡くなった砂川さんも爆発現場付近で作業をしていたとみられる。

 同社はプラントの酸化反応タンクが激しく損傷していることを確認。酸化工程で生成される過酸化物が何らかの過剰反応を起こして爆発につながった可能性もあるとしている。

 火災はプラントに隣接する設備や配管などにも延焼。22日午前8時5分ごろにも、同じプラントのタンクが再び爆発した。同社は近く社内に事故調査委員会を設置する。

 同社によると、工場の敷地内には触媒に使う放射性物質の劣化ウランが200リットルドラム缶で3379本貯蔵されていた。貯蔵する倉庫の窓ガラスが一部割れたが、同社は「ドラム缶に影響はなく、測定した放射線量も爆発前と変わらない」としている。

 山口県内では昨年11月に東ソー南陽事業所(周南市)で社員1人が亡くなる爆発、炎上事故が起きたばかりだった。
(引用終わり)

亡くなられた方のご冥福と、怪我をされた方の回復をお祈りいたします。

化学産業に実を置く者として、他人事ではないです。どこの化学会社でも、安全は何よりも優先し、設計においても運転においても万全の注意を払っているはずですが、人間の行うことは残念ながら万全ではないので、ときとしてこのような悲しい事故が起きてしまいます。

レゾルシン(Wikipediaではレゾルシノール)はこのような物質です。

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(構造式はWikipedia英語版より)

その製造法は、Wikipediaによると、

(引用開始)
樹脂や、ベンゼン-1,3-ジスルホン酸を溶融アルカリで処理することで、レゾルシノールを得ることができる。また、プロピレン、ベンゼンを原料とし、1,3-ジイソプロピルベンゼンから製造することもできる。
(引用終わり)

ニュース記事で「酸化反応」と書かれているので、1,3-ジイソプロピルベンゼンを空気で酸化して中間体としてパーオキサイド(過酸化物)を製造し、これを分解することでレゾルシンとアセトンとを得るプロセス(類似物質であるフェノール(OHがひとつしかない)のよく知られた製造法(キュメン法)と同様)だろうと考えられます。

このような過酸化物は不安定な物質であることが広く知られています。自然に自己分解するので、冷却し続けて低温に保たないと、分解反応によって発生する熱によって次第に温度が上がり、ますます分解反応が早くなって熱の発生がさらに加速され、ついに温度上昇を制御できなくなる暴走反応につながります。

「蒸気設備のトラブル」が最初に起きたようですが、ここではコージェネ(熱電併給)で蒸気発生だけでなく発電もしていたものと考えられます。電気が供給されないと、単純に考えると冷却ができなくなります。しかし、もちろんボイラープラントの非常停止は当然想定しておくべきトラブルの筆頭のひとつであり、そんなときでもこのような暴走反応につながらないように、何重もの対策が取られていたはずと考えます。

記者会見で工場長が「想定外の爆発が起きた」と発言されたようですが、(今、最も使うのを避けるべき言葉ですね)、実際、関係者にとっては想定外の何かの要因があったのでしょう。

ただ、つい今見たテレビのニュースによると、昭和59年にもこのプラントで爆発事故が起きていたとのことです。この製造プロセスは本質的に危険なものであり、それを十分に押さえきる対策が取られていなかった、甘かった可能性もあります。そうすると「想定外」では済まないかもしれません。

なお、以上はあくまでも部外者の想像に過ぎませんので、その点ご認識ください。
とにかく、事故原因の究明を待つしかありません。

「失敗」の情報は、類似の失敗を二度と起こさないために非常に重要ですので(畑村洋太郎先生の「失敗学」)我々も今回何が起きたのか、ぜひしっかりと知りたいと考えます。
(ただ、刑事事件になる可能性があるので、三井化学さんが情報の完全な開示には抵抗を示すかもしれません。)


さて、さらに中国新聞の記事で「放射性物質の劣化ウラン」が保管されていたことが書かれています。
これは、アクリロニトリルという製品(アクリル繊維やABS樹脂の原料)の、昔の製造法(ソハイオ法)で触媒として使用された使用済みの劣化ウランが、今も保管し続けられているようです。

今回の事故が起きて間もなく、「劣化ウランが飛散して危険なのですぐに逃げろ」などというデマがインターネット上で飛び交っているのに気づきました。この新聞記事はそのようなデマを止める目的で書かれたのでしょう。

それにしても、愉快犯の頭の回転の速さ(不愉快ですが)には恐れ入ります。何が楽しくて、あるいは何の意図を持って、このようなデマを流すのでしょうか。
一般の人は、特にネットをよく活用する人ほど、デマに踊らされないようにしなければなりません。

(ECRRの危険デマも同じ構造です。こちらはそう簡単に止められていません。)


少し話がそれました。

化学産業に携わる者として、このような事故を絶対に起こさないように肝に銘じて、自分の業務にしっかり取り組もうと、改めて身を引き締めた次第です。



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