動脈硬化などとの関係が指摘されているトランス脂肪酸って、何?
マーガリン、ショートニングって何? どうして常温で固体なの?
ということを、遠回りでも基本から解説して理解してもらおうという野心的な試み、第4回目です。
今までの記事は、
第3回目は こちら
今日は脂肪酸の説明です。
Wikipediaによると、脂肪酸は、「長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である」となっています。
まず、「酸」とは、何でしょうか?思い出してみましょう。
学校で、リトマス試験紙が赤くなると「酸性」と習いましたね。酸性の水の味は「酸っぱい」です。
酸性の強さを表す尺度がpH(ピー・エイチまたはペー・ハー)で、これは「水素イオン濃度」のことです。
「酸」には、学問の世界では色んな定義があるんですが、ここでは簡単に、水の中で水素イオンH+ (「+」は本当は右上に書きますが、手抜きです)を出す物質、と考えていいと思います。
主な酸には、塩酸・硫酸・硝酸・酢酸などがあります。
これらの中で、酢酸(いわゆる食用のお酢の主成分)は、「カルボン酸」と呼ばれる酸のグループのひとつです。
いよいよカルボン酸が出てきました!
Wikipediaでは、カルボン酸とはカルボン酸構造 (R-COOH) を酸成分とする化合物である、と書いてあります。
(Rは、炭素と水素の任意の結合を示します)
先週までは炭化水素だったので、登場した原子は炭素(C)と水素(H)だけでしたが、ここで新たに酸素(O)が登場します。
それぞれの原子が持っている結合の手は、炭素原子が4本、水素原子が1本でしたが、酸素原子の手は2本です。
酢酸の分子構造をいろいろな描き方で描いたのが下図です。
まず、酢酸分子を構成する全ての原子を描いて構造式を書くと、左図のようになります。
右側の炭素原子に、ひとつの酸素原子が二本の手で結合し、もうひとつの酸素原子はひとつの手で結合しています。そして後者のもうひとつの手は、水素原子とつながっています。水素イオンとなって酸の性質を示すのは、この -O-H の方の水素原子です。
左側の3つの水素原子と炭素原子との結合は安定していて、離れてイオンになることはありません。
左図のように全ての原子をひとつずつ描く方法では、分子が大きくなるにつれて描くのが大変になってきます。そこで一部省略したのが、真ん中の図です。このくらいの省略だと、まだ理解しやすいですね。
さらに、もっと省略した描き方が右図です。第二回でも説明しましたが、もう一度繰り返します。
・各直線(線分)の両端(折れ曲がったところや、ぶつかったところも)には、水素以外の何らかの原子(または原子群)があります。
・その原子が炭素である場合は省略します。炭素以外の場合は描きます。
・最後に各原子の結合の手が足りない分は、水素原子と結合されていると考えます。
これで一番右が酢酸を表していることが理解できるでしょうか?
さて、いよいよ脂肪酸です。
脂肪酸は、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸でした。
1価とは-COOHの部分が分子内に1個だけあるという意味です。
長鎖とは、炭素が鎖のように長く連なり、枝分かれ(分岐)していないということです。
脂肪酸と呼ばれるのは、一般に炭素数4以上のカルボン酸のようです。
そこで、最も単純な脂肪酸は、次の物質(酪酸 らくさん)になります。
左がちょい省略したもの、右が線分で示したものです。
理解できますよね。ね。ね。
これは飽和脂肪酸です。
長鎖の炭素の結合部分に1つ以上の二重結合があれば不飽和脂肪酸、全部が飽和結合であれば飽和脂肪酸になります。飽和炭化水素・不飽和炭化水素の場合と同じ考え方です。
ここまで準備したところで、(油脂とは何かの話は先送りして、)いよいよ、実際に油脂に含まれる具体的な脂肪酸のいくつかを見てみましょう。
なお、ここからは専門外ですので、完全にWikipediaからの受け売りです。ご了承ください(汗)。
まずは、飽和脂肪酸。
・ラウリン酸
炭素数12の飽和脂肪酸。
ココナッツオイルやヤシ油に含まれる。
・パルミチン酸
炭素数16の飽和脂肪酸。
ラードやヘットに多い。
・ステアリン酸
炭素数18の飽和脂肪酸。
動物性・植物性脂肪で最も多く含まれる飽和脂肪酸。
ステアリン酸ナトリウムは、石鹸や洗剤として使われる。
次は、不飽和脂肪酸。
・オレイン酸
炭素数18、二重結合がひとつの不飽和脂肪酸。
動物性脂肪や植物油に多く含まれる。オリーブの油から単離されたのが名前の由来。
・リノール酸
炭素数18で、二重結合を2つ持つ不飽和脂肪酸。
植物油に多く含まれ、特にベニバナ油(サフラワー油)やコーン油に多い。
・エイコサペンタエン酸(EPA)
炭素数20、二重結合を5つ持つ不飽和脂肪酸。
魚油に多く含まれる。健康目的でサプリメントに用いられている。
・ドコサヘキサエン酸(DHA)
炭素数22、二重結合を6つ持つ不飽和脂肪酸。
魚油に多く含まれる。健康増進効果があるとされ、EPAとともにサプリメントとして利用されている。
・・・いやいや、何気なく食している油脂も、こんな小難しい化学式で描かれるような分子なんですね。
他にもいっぱいありますが、今日は主なモノだけとします。
さて、ここで忘れてはいけない重要な点(本題!)は、これら、天然の不飽和脂肪酸の分子内にある二重結合は、全てシス型であることです。
前回説明しましたが、飽和結合は自由に回転できますが、二重結合は回転できません。
そして、二重結合の両端の炭素原子、およびその炭素に結合しているそれぞれ2つずつの原子の合計6つの原子は同一平面上にあります。
そして、不飽和脂肪酸の場合、二重結合の両端の炭素原子には、それぞれ炭素原子と水素原子がひとつずつ結合していますが、ふたつの水素原子が二重結合の同じ側にある場合をシス型、反対側にある場合をトランス型と呼びます。
そして、上記の不飽和脂肪酸の二重結合は全てシス型です。
・・・というようなところで、長くなりましたので、今日はおしまいにします。
あ、最後に、
「ココアバターを構成する脂肪酸のうち、95%がオレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸の3種類の脂肪酸である。」
という、バレンタインデーにちなんだ、どうでもいい情報をとってつけたように追記しておきます(笑)。
次回は、植物油が液体、バターやマーガリンが固体である理由を考えたいと思います。