仕事のことを少し。僕の仕事はクレームアジャスターと呼ばれる損害保険会社の支払い査定業務をしている。最近では「査定」という言葉を対外的に使わないようになっていて、損害サービスと呼ばれるようになっている。損害保険の損害サービスは大きく分けると二つ。契約者に保険金支払いをするものと、相手側に保険金支払いをするものだ。前者は例えば傷害保険や医療保険、後者は自動車保険などの賠償保険だ。僕の専門は後者、The査定業務を言われる自動車事故の示談代行が主な仕事だ。お年寄りには保険屋さんなんて呼ばれる。
この自動車事故の示談代行はかなりストレスが溜まる。そして簡単ではない。軽微物損事故から死亡事故まで一通り対応しているが、なんでこんな知らない人が起こした事故の知らない被害者に怒られなければいけないんだろうぁ・・・なんと毎日思っている。しかし、慣れは怖い。今では被害者が亡くなろうが、大けがして入院しようが、あまり何も思わなくなってしまった。「ええ、そうですよね、ええ、ええ、大変ですよね、ええ、ええ、、そうですよね。うんうん、んー、あー、はー、ええ、、ええ。はい、ええ、お大事にしてくださいね。」なんて具合に合わせている。実際に病院にお見舞いに行って目の前で痛そうにしている人がいれば、その場では本当にかわいそうに思うが、病院を出て会社に戻る際にはそんなこともう忘れている。そんなことより、備金(将来的に支払わなければいけない金額を予め見積もって用意する金額)いくらにしようかなぁ、、、なんて考えている。うーん、仕事人間。
そしてこの仕事をしているといろいろなことに耐性が付く。例えば「弁護士、裁判、訴訟、訴える」こんな言葉だ。こんな言葉を聞いたらびっくりして焦ってしまう人が多いだろうが、こんなことは日常茶飯事、逆に笑ってしまう。例えば被害者に「もう訴えてやる!」なんて言われることも多いが、それには「わかりました。訴状をお待ちしております。」とか「では弁護士先生からの受任通知をお待ちしております。」なんて返して終わりだ。それから正直なところ、一般の被害者と直接話をするより、弁護士を通した方がはるかに示談交渉が楽になる。一般の人は自動車事故にも民法にも道路交通法にも全くといっていいほど理解がないので、単なる被害者感情でものを話す。
「ぶつけられたんだ!」「事故してから首が痛いんだ」なんて具合だ。
「お互いに過失があります。」「ただの捻挫ですよね?3か月も病院に通う必要がありますか?」と返すのが仕事だが、当然余計に怒らせてしまう。しかしこれが弁護士になると、「過失割合は・・・」「なんとか6か月くらいは・・・」なんて具合に進む。保険会社も結局いくら払えるか、弁護士はいくら払ってもらうか。当然無駄な話は必要ない。
ちなみにここだけの話、交通事故で出てくる弁護士(損保の顧問弁護士を除く)は弁護士の中では仕事ができない方だ。仕事ができる弁護士は企業案件、当然儲かる仕事をする。そして仕事ができない、もしくは仕事がない弁護士は成功報酬型の過払い金が返ってくるような案件か、交通事故の案件を対応する。基本的に大きく儲けることはできない。そんな裏側も分かってしまっているので、「先生、先生、ええ、勉強になります、ええ」なんて煽てながら適当に示談して終わる。弁護士は法律のプロだが、我々査定マンは保険と自賠責のプロだ。土俵がこちらなら負けることはない。
それから被害者対応で日々溜まっていくストレスは柔道整復師をいじめて発散する。今巷で不正請求横行で話題の接骨院・整骨院は自賠責保険を食い物にしている。おそらく自賠責保険がなくなれば半分以上の整骨院がつぶれるだろう。それほど儲かる。そしてぬるい。しかし我々損保が間に入る限り、そんなおいしい思いはさせない。
そもそも柔道整復師はだいたい「患者がまだ痛いっていうから施術してるんですが?なにか?」なんて偉そうに言ってくる。決まってお返しして差し上げる。「ええっと、先生、それはすれですばらしいと思うんですが、それって今回の事故とどう関係があるんですか?患者の愁訴なら患者にご請求いただければいいんじゃないでしょうか?」だいたい黙ってしまう。中には何を勘違いしたのか、「事故で頸椎捻挫で触診したらまだ腫れが」なんて言ってくるやつもいる。「え?柔道整復師の先生ですよね?医師免許もお持ちなんですか?診断されたんですよね?」なんて具合にいじめてやる。
相手が弁護士でも同じだが、結局支払う方が強い。
少し賢い柔整師は「なんとかあと1か月くらいは・・、お願いします。」なんて翻してくるので、「よしよし、仕方ない。支払ってやろうじゃないか。」と満足して終わる。こんな毎日です。
っていうかガッキーかわい過ぎ。