猫好きのブログ

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資格試験とその応用

 まず営業所の定義をしておく。営業所と事務所との違いは?倉庫との違いは?

 

 どんな部署名、建物名を付けようが自由なので、名称に拘ると雑多な不動産を同じジャンルで扱うことになり、却って混乱する。

 

 そこで営業所を事務所と倉庫の両方の性質を持つ施設と定義する。営業員が外販するための拠点だけなら事務所、注文が入って配送するだけの施設なら倉庫としておく。

 

 元々は営業員がセールスと製品を届ける仕事をやるのが当然であったが、1900年代後半から商物分離、つまり商流(売買に関する事項)と物流との分離が進み、製品の輸配送については物流センターが関わるようになった。

 

 とは言え、古いタイプの営業所は今でも残っている。広い在庫スペースを抱えてトラックが出入りする。敷地も比較的広い。かといって倉庫オンリーではなく、営業員がテリトリー内の顧客を回ったり、新規セールス活動を行っている。

 

 営業所はこのような機能を持つから、経営・管理機能を持つ自社ビルや複数のテナントが入る貸事務所ビルとは異なっている。

 

 立地場所は都心部には少なく、アーバンや郊外地区が多い。セールスで巡回する関係上、郊外の工業団地よりも、人口が比較的多い場所に目立つ。

 

 比較的規模が大きいので大抵は自社所有である。企業の直営部門、地域販売子会社の看板が出ていることが多い。特定事業用不動産ほど個性的ではないが、賃貸を想定していないので、自社の機能に合わせた造りをしていて、汎用性を欠いている。つまり代替不動産は少ないということだ。

 

 不動産評価の面から見ると、賃貸収益還元法、事業収益還元法のいずれも当てはまりにくい。また原価法で市場性減価のはっきりした根拠を持てないという特徴がある。各手法を更に見てみよう。

 

1.原価法

 

 周辺利用と必ずしも一致していないため、地域と営業所の収益性が異なっている(一般的に低い)可能性がある。ということは、もしそうならば営業所の収益性が低くても高い価格で土地を取得せざるを得ないという訳で、現況を安易に最有効使用と判断してはいけないことになる。

 

 A営業所は大手コピー機メーカーの地域販社営業所だ。2階建で敷地が300坪。駅から徒歩15分以内で広い土地には主に高層マンションが建てられている。恐らく対象地の最有効使用は高層マンションだろう。

 

 B営業所はアパレルメーカー直営の営業所だ。準幹線道路沿いにあり、周辺は中規模病院、配送センター、タクシー営業所、アパート、小規模の店舗などが混在している。どちらかというと郊外と都心を結ぶ通り抜け道路といった感じだ。このケースだと地域の標準的使用がはっきりしないので、地域の標準用途⇔地価水準 と対象地との関係が不明である。精々、比較的広い土地を使う非工業用建物ぐらいの共通性しかない。

 

 

 地域の相場から更地価格を求め、これに再建築費を加算し、減価修正を行うことで正しい積算価格が出るであろうか?

 

 アパレル卸の営業所を想定してみる。土地単価を坪50万円、500坪あれば土地値は2.5億円。再建築費を坪60万円、400坪とすれば、再建築費は2.4億円で合計4.9億円だ。減価を再建築費の半分とすれば、計3.7億円となる。

 

 評価対象不動産の簿価が低い為、周辺の地価相場が高くても赤字にはなっていないが、もし現在、不動産を時価で購入したとすれば、積算価格だと採算に合わないかもしれないのだ。従って収益還元法を併用する必要が出てくる。

 

2.収益還元法

 まずは賃貸収益還元法を行ってみる。類似用途が少ない為、事務所と倉庫の賃料を相場からそれぞれ求め、面積按分を行う。

 

 事務所  坪8000円×面積0.25+ 倉庫 坪4000円×面積0.75=坪5000円/月

 

 年間賃料=5000円/坪・月×400坪×12月=2400万円

 

 収益価格=年間賃料2400万円×(1-0.15)÷0.07=2.91億円

 

 

 卸売業は粗利益率が低く、平均で11.8%である。小売業の43%、製造業の53%しかない。アパレル卸売り業はこれよりも高く、20~30%ある。その理由は返品の慣行が多いからであろう。

 

 仮に25%とすると、この中から家賃を含む販管費と営業利益を負担することになる訳で、不動産経費は最大で20%、出来れば15%しか負担することが出来ない。

 

  0.25×0.20~0.15=4.00~3.75%(真ん中を取り3.88%とする)

 

 年商は10億円なので、負担可能賃料は3880万円となる。上記の査定賃料だと負担可能ですね。

 

 以上をまとめると

積算価格  3.70億円

収益価格  2.91億円

 

 やはり積算価格が高く出ました。因みに積算価格ベースで年間賃料を求めると、

 3.70億円×7%÷(1-0.15)=3047万円で一応負担可能です。

 

 今回の場合、自用の営業所なので、必ずしも収益価格が基準となる訳ではない。自社使用の自由度があるからこそ、不動産所有を選ぶ企業が多い訳で収益還元法はその価値を全て示さないのだ。

 

 ただ原価法の減価の中身を吟味する必要はある。

 

 現在築20年、残存経済的耐用年数を20年。内訳を

・主体 60%  耐用40年

・内装 25%  耐用20年

・設備 15%  耐用20年

 

  とすれば、現在の減価は

 0.6*20/40+0.25*20/20+0.15*20/20=0.70となる。これに機能的減価も加わる。ここでは再建築費の10%としておこう。

 

 土地 2.5億円

 建物=再建築費2.4億円×(1-物理的減価0.7)×(1-機能的減価0.10)=0.65億円

 計  3.15億円

 

 当初の概算値は3.70億円だったが、15%低下し、収益価格の2.91億円に接近した。減価をより細かく出さないとそれ以上のことは分からないので、ここでは3億円前後ということにしておこう。

 

 建物のパーツには定期的に大修繕される部分があるので、部分的に耐用年数を短く見積もる必要がある。例えば屋根のアスファルトルーフィングなら10年とか。また壊れていなくても旧式化、機能低下、デザインの陳腐化といった機能的減価も必要だ。工事は機能的更新が伴うことが多いので、更新時期が到来していれば残価はゼロとなる。また機能更新と同時に天井や床の張替えも行われやすく、周辺部分の残価にも注意する。

 

 更に改造不能な部分も減価の対象となる。例えば天井を上げることは吊り天井になっていて空間に余裕がない限りは無理なので、執務性の低さが賃料の低下・空室率の増大を招きやすい。従って純収益の低下分を機能的減価額とする。

 

 更に地域の衰退による需要の低下といった経済的減価も減価修正の対象となるが、これは数値化が難しい。類似不動産の取引でもない限り無理であろう。