「過食と運動不足だけで肥満になるわけではない」
──著者は本書の中で、肥満の根本原因について、次のように述べています。
「たしかに、食べた量が多くて運動量が少ないと、余ったエネルギーが蓄えられて体重が増えるのは当然のことのように思える。しかし、そんな単純なものではないことを、私たちは今やっと理解しはじめているところだ。最近の医学的研究によれば、じつはマイクロバイオータ(腸内の微生物群)が、あなたに代わって、食べ物から余分なエネルギーを引き出すかどうかを決めているのだ」
微生物があなたに代わって食べ物から余分にエネルギーを引き出すのなら、あなたが食べ物から得るカロリー量を決めるのは、標準換算表ではなくあなたの微生物群だ、というわけです。
したがって「痩せた人の腸内細菌群を採取して太った人に移せば、食事療法なしに体重を落せるだろう」と言っています。
ご存じのように、肥満は20世紀半ば頃から急激に増えてきています。肥満ばかりではありません。胃腸疾患、アレルギー、自己免疫疾患、それに自閉症など心の病気も急増しており、いわゆる「21世紀病」と呼ばれています。著者によれば、これら「21世紀病」が増えているのは、マイクロバイオータ(腸内の微生物群)のバランスが崩れていることと深く関係していると述べています。
それでは、なぜ現代人はマイクロバイオータのバランスが崩れてしまったのでしょうか。
その原因の一つは、抗生物質の処方の乱用によるものです。抗生物質という強力な薬は、健康を害する細菌を殺すだけではなく、健康を保つ細菌まで殺してしまうのです。
そればかりではありません。抗生物質の70%が食肉用家畜に使われており、私たちは多量の抗生物質を口から摂取しています。抗生物質を使えば、感染症を心配せずに狭い場所に多くの家畜をつめこむことができるし、おまけに抗生物質には成長促進作用があるので、企業としては、肥えた家畜を大量に生産できるメリットがあるわけです。
また著者は、長い間かけて築いてきた母から子への腸内細菌の移植(自然分娩、母乳)が、帝王切開や粉ミルク使用のため、妨害されてきている事実も指摘しています。
「破水と同時に微生物の入植がはじまる。赤ん坊は産道を通るとき、微生物のシャワーを浴びる。ほぼ無菌状態だった赤ん坊を膣の微生物が覆っていく。母から子への最初の贈り物、糞便と膣の微生物が無事に届けられる」
こうして赤ん坊の腸内に棲みついた初期のコロニー(腸内細菌の入植地)は、数か月あるいは数年かけて発展していくマイクロバイオータの基礎となるという。
「問題は、多くの赤ん坊が母親の膣を通らずに生まれてくることだ。帝王切開で生まれた赤ん坊は感染症になりやすく、アレルギーを発症しやすい」
そこで、帝王切開で生まれてくる赤ん坊に対して、膣の微生物を移す臨床試験も行なわれています。手術前に妊婦の膣に入れておいたガーゼを取り出し、赤ん坊が出てきたらそのガーゼで、口、顔、全身をこするという方法です。著者は「とても単純だが、効果が期待できる介入だ」と語っています。
つぎに、粉ミルク育児の弊害についても指摘しています。
「母乳に含まれるオリゴ糖と生きた細菌が腸のマイクロバイオータの『苗』を育てる役割を果たし、赤ん坊の成長に合わせて変わるのだとすると、粉ミルク育児ではどうなるのだろう。残念ながら現代の粉ミルクは重要な栄養成分がたくさん加えられているが、免疫細胞や抗体、オリゴ糖、生の細菌までは入っていない」
粉ミルクで育つ赤ん坊は、感染症にかかりやすく、また過体重になりやすいという。粉ミルクだけで育った子どもは、大人になってから60%も多く糖尿病を発症するといわれています。
以上、私が印象に残った内容をいくつか紹介しましたが、他にも「心を操る微生物」「微生物に必要な餌」「他人の糞便を分けてもらう」など興味深いテーマがたくさん出てきます。きっと、あなたの中で共生している「仲間たち(細菌)」が愛おしくなると思います。一読をおすすめします。
【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)