一般的に、私たちは自分の内面(心の世界)は、他人からは見えないと思っています。心の動きは、自分ではわかっているのに他人にはわからない、そう考えているようです。
しかし、著者によれば、自分しかわからないと思っている心の動きは、すべて体に正直に表われると述べています。
「心で思うことや頭で考えること、体で感じることは、それを隠しているつもりでも、その一端がポロッと外へ漏れてしまうことがある。その時、私たちは人の内なる世界を垣間見ることができるのだ」
では、そうした心の動きは、どのように外に表われるのでしょうか。著者は本の中で、お弟子さんである或る母親の面白いエピソードを紹介しています。
「大学生の息子が帰宅するなり、ドタッと寝転んだ。『しんどいの? ちょっと体をほぐそうか?』と言って、母親は息子の背中に触れて、軽く揺すった。すると彼の肩身、すなわち肩甲骨と肩甲骨の間だけが柔らかい。母親はピンときた。『あれ、好きな人ができたのかな?』と言った。息子は立ち上がって、『母さん、なんでわかるの?』と叫んだ」
これは、体に触れて心に気づく一つの例だという。ちなみに、右が柔らかければ、惚れた方、左が柔らかければ惚れられた方。彼の場合は両方柔らかかったので、相思相愛というわけです。このことは、著者が多くの若者の背中に触れて、経験的に知ったことだと語っています。
著者によれば、息子の例のように喜びの感情は体を弾ませる(柔らかくする)そうです。しかも、体のどの部分が柔らかくなっているかで、どんな感情が影響しているのかもわかるというから驚きです。
逆に、悲しみや苦悩は体を収縮させ、シコリを作ったり、歪めたりすると言っています。
「人は心に悩みが生じると、脳に苦しみのイメージを作り、その苦しみに対応する筋肉の、ある部分を収縮させる。不快なものを見ると、眉の付け根が縮んで、いわゆる『眉を曇らせ』たり、不平不満があると『口をとがらせ』たり、おびえると仙骨を内に引っ張ったりするのだ」
この本のタイトルにもあるように「体をみれば心がわかる」というわけです。
しかし、なかには悲しみや苦悩によって、うつ症になり、自力では立ち直ることが困難になるケースも出てきます。少し長くなりますが、引用させていただきます。
「失恋であれ、家族の死であれ、悲しみのイメージが脳裏に飛び込んでくると、悲しみの感情は意識の中で漂い始める。水面上を意識の世界、水面下を無意識の世界とすると、悲しみのボールが水面上に浮かんでいる時は、ヒトは感情を露わにする。この時点では悲しみから生じる体のしこりもほぐしやすいのだが、悲しみがさらに重たくなって、ボールが水面下へ沈み始めると大変だ。悲しみのボールを意識の世界へあげないようにし始めるからである。そして体の感覚を鈍くして悲しみを感じないようにしていく。この状況をボディートークでは『体に鍵をかける』という。そうしてしっかりと水面下に押さえ込まれた悲しみのボールが、自らもジッとして動かなくなる。すなわち悲しみの感情も意識に上げないようにすることを『心に鍵をかける』といっている」
本書は、「体を通して心に気づく」ことを、ボディートークという視点から、わかりやすく解説しているばかりでなく、こうした「心に鍵をかけてしまった」人たちをボディートークの手法を使って、数多く救ってきた事例も紹介されています。ぜひ、一読をおすすめします。
【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)