広明日記 ~ クァン ミョン イルギ~

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財布に無害!家計に無害な無害流 券術 麺許皆伝

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「前失礼しまーす!」

俺は、いつもより大きめの声で、

お地蔵様の前を横切った。


(さ。来い!「キモっ」!!)


ナナコこと「みずき」と初めて出逢った同じ曜日の同じ時間に 同じ事をしてみたが、ナナコの姿は何処にもなかった。


公園の脇でナナコが消えてから二週間が経った頃、「親類縁者一人もなし」「天涯孤独」「お夕飯は大型のペットボトルの水だけ」。そんな高校生がコロナにでもかかって、ひとりぼっちで熱と咳に苦しんでいるのだろうか?と、ネガティブな発想が脳裏を駆け巡った俺は、いてもたっても居られない感情を抑えきれずに、ナナコが消えたあの公園に駆け出していた。
 


(居るわけないか...)
 
(まるでストーカーだな。俺は)
 
両膝に両手をついて、
あがった息が治まるのを待って、
公園のベンチに腰を降ろした。
 

 

 


ボーッと眺める先には、気のよさそうな奥さんが「痛々しい耳をした人懐っこい野良猫」に、餌をあげていた。巷で云う地域猫だ

ペーパーソーサに盛られたソレは、カリカリで不味そうなキャットフードではなくて、ツナフレーク風の ご馳走だ。
器に顔をくっつけて、あっというまにたいらげた猫を見ていて、ナナコみたいだと思った。
 

 

 


俺の目と鼻の先では、地面から楕円形に顔を出した鉄柵に腰掛けて図鑑のような本を見ている男の子の一人が大きな声をあげた。
 
「キモっ!」
 
また、別の子は
 
「凄いスゴーイ!」と奇声を上げた。
 
小学生高学年位のキモっ少年達に紛れて、駄菓子屋の名前が印刷された茶袋から駄菓子を取り出す腕白坊主っぽい少年の所作が目に留まった。
 マシュマロ風の三つ入りの餅のような菓子を、悪魔が餌のネズミをつまみ上げるかのように素手でソレ掴むと、ジャイアン風の腕白は天を仰いで鷲掴みの餅菓子を口の中に入れた。

「んまっ。♪」


そして...そのすぐあと、
隣のベンチの会話が聞こえてきた。


「太田神社のカキツバタもそろそろ終わりね。」
 

「そやね。もうあかんやろなぁ...」


この「お達者倶楽部」か、「さわやか老人会」みたいな聞き覚えのある会話に、俺はハッとした。
 


そして更に、道路を挟んだ向かい側のお宅の前に置かれていた古着の入ったダンボールが俺に追い討ちをかける。
 

 

 


泥のついたナナコカード。
大型のペットボトルに入った水。
三角巾で片腕を吊ったピンクの口紅つけたおませな高校生。



...!!


「ナナコ。キミはいったい...」


ナナコの台詞や所作が走馬灯のように俺の頭の中のショボいスクリーンにリプレイされる。

あの子は確かに『みずき』と名乗った。
そして俺の耳にいつまでもこだました
『あの時はありがとう』のフレーズ。
 
 


太田神社のカキツバタが見頃を迎えた頃、俺は、この公園の片隅に ひっそりと佇む若い木の枝が折れているのを哀れに思えて
 

 

 

 
「かわいそうに」と、地面に落ちてる小枝を拾って添え木にして、引き千切った不織布マスクの紐を使って傷口を手当てしてあげたことがあった。
 

 

 

 

 
「治るといいね」と、公園を後にしながら....も、
 

(ヤバイな俺。)
(花水木と喋ってる...)
 
 
そ思ったよ。
 

 

 



(本当に大切なものは目では見えない。か...)



ナナコ。


キミは、妖精だったのか...


道理で綺麗な筈だ。






〔おわり〕










 







 

 

 


Love.day after tomorrow
「届け私の思い」