厚生労働省年金局が、7月3日に開催した第16回社会保障審議会年金部会の会合に、2024年財政検証とオプション試算の結果を報告しました。(資料はコチラから)本ベル

  財政検証の概要

 今回は、長期の経済前提について、長期的な経済状況を見通す上で重要な「全要素生産性(TFP)上昇率」を軸に

❶高成長実現

❷成長型経済移行・継続

❸過去30年投影

❹1人当たりゼロ成長

の4つのケースを設定し、4通りの試算結果が幅広く(人口の前提などに分けて)示されています。えー

 

 その内人口の前提を、「中位推計」で試算したものでは、モデル年金(夫婦2人分の基礎年金(満額)と1人分の平均的な賃金で40年就業した厚生年金)の所得代替率は、現在の61.2%が、マクロ経済スライドによる給付水準調整終了後に、❶のケースで56.9%、❷のケースで57.6%、❸のケースで50.4%、❹のケースは、2059年度に積立金が亡くなり(この時点の代替率は50.1%)その後も機械的に調整を続けた場合2063年度の調整終了時は45.3%で、いずれのケースにおいても5年後の次期財政検証(2029年)までに所得代替率50%を下回っていない(❶及び❷が60.3%、❸が60.1%、❹59.4%)ため、法律上の見直し規定には該当していないとされたようです。口笛音譜

 ⇒健康診断の結果は、一部に異常値(❹が50%未満)があるものの、正常値との乖離は大きくはなく概ね健康と言えると判断されたと言うところでしょうか?・・・前提が変わってくると悪化するかもしれないので、どういう予防を行っておくかが次の年金制度改正で議論されることになりそうです。

 なお、財政検証では、その前提を変えたものの試算もしていますので、その検証結果は資料から確認することが可能です。

 

【個人的な感想です。】

 今回の検証は前回の検証より所得代替率が改善していますが、この主な要因は年金積立金の運用が好調だったことにあるようです。また、労働力の前提もプラスになる影響を与えているようですが、新聞などのメディアの論評は、100年安心は綱渡りの甘い想定で、各自で備えるのは必須の状況等と厳しい内容でした。

 私は、積立金の運用や経済状況がどうなるかを100年先まで見通すのは不可能なので、複数のパターンで推計していくのは妥当だと思います。また、人口の前提は国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」を、労働力の前提は独立行政法人労働政策研究・研修機構が3月に公表した「労働力需給の推計」を用いているのであり、これらの最新の資料が誤っているとは言えませんし、また、審議した委員が政府寄りの委員ばかりだと断じる根拠もありません。

 ただ、1つ疑問に思っていることは、人口の前提です。今回も前回と同様合計特殊出生率の「中位推計」を前提にしているようですが、前回の「中位推計」と「実績」との解離はどうだったのか?私の記憶では「実績」は「低位推計」の少し上だったのではないかと記憶しています。そうすると、人口の前提を「低位推計」で検証した内容では、❸過去30年投影コースでの所得代替率は「中位推計」の「50.4%」から「46.8%」へ下がるみたいですので、これに対する予防を講じる改正を行う又は個人で備える必要があると考えます。

  オプション試算

これは、こういう改正を行ったら、どのように改善するかを検討したもので5つあります。

1⃣厚生年金保険の適用拡大

2⃣基礎年金の保険料拠出期間の5年延長

3⃣マクロ経済スライドの調整期間の一致

4⃣在職老齢年金制度の撤廃

5⃣厚生年金保険の標準報酬月額上限の引上げ

 

2⃣については、今回の財政検証結果を受けて厚労大臣が早々に検討しないと公言しましたので、改正は見送りとなると思われます。びっくり

3⃣を行えば、上記❸のケースでの所得代替率は「50.4%」➡「56.2%」へ上昇し、スライド調整は2036年度で終了するようですが、国庫負担が増えるのでその財源をどうするかが問題となりそうです。えー

4⃣を行えば、給付額が6400億円程度増え、上記❸のケースで報酬比例部分の所得代替率が「▲0.5%」低下するようです。

5⃣で現在の上限の「65万円」を「75万円」「83万円」「98万円」に引き上げた場合、上記❸のケースで報酬比例の所得代替率が、それぞれ「0.2%」「0.4%」「0.5%」上昇するようです。

1⃣の適用拡大ですが、ここでは4つのパターンを試算しています。ニヤリ

 

 ⑴ 企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所の非適用業種の解消(約90万人拡大) ➡ 上記❸のケースで所得代替率が「50.4%」→「51.3%」

 ⑵ ⑴に加え賃金要件の撤廃又は最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合(約200万人拡大)➡ 上記❸のケースで所得代替率が「50.4%」→「51.8%」

 ⑶ ⑵に加え5人未満の個人事業所にも拡大(約270万人拡大)➡ 上記❸のケースで所得代替率が「50.4%」→「53.1%」

 ⑷ 所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者へ拡大(約860万人) ➡ 上記❸のケースで所得代替率が「50.4%」→「56.3%」

 

【個人的な感想です。】

 先ず、4⃣5⃣の「98万円」に引き上げた場合で所得代替率が「▲0.5%」と「0.5%」で「±0」となり、同じ報酬比例部分なので改正しやすいと思います。

 3⃣は、できれば改正したいのですが、増える国庫負担をどう手当てできるかにかかっていると言えそうです。

 1⃣では、「被用者保険の適用在り方懇談会」の取りまとめ案を踏まえると、⑴の改正が段階的に行われる気がします。⑵は、最低賃金の引き上げに期待するのではないかと思われます。⑶と⑷は、今後の検討課題として先送りされる可能性が高いのではないかと考えます。

 なので、次回年金改正では、1⃣の⑴の経過的適用拡大と4⃣と5⃣の改正はほぼ確実では?そしてメインは3⃣のマクロスライド調整期間の一致がどうなるかだと思います。もし、3⃣の改正が行われると、人口の「低位推計」でも所得代替率が単純計算で「46.8%」から「52.8%」に増加して「50%」を安定して維持できる可能性が高くなりますが、2兆円を超える国庫負担をどうやって賄うかが難点ですね。財務省は財源を含めて改正をするよう言ってくるでしょうから。

 

これから財政検証を踏まえて、年金改正の議論に入りますので、今後も社会保障審議会の議論を追って書いていこうと思います。OKOK