暑いと感じない。
平常心でいると常に外気温と
同化することができる。
ちょっと用事があって朝5時に家を出た。
まだ辺りは薄暗い。
僕は寒くない。
バス停に向かう途中の道路沿いに、
シルバーのメルセデスが停まっている。
その周りに20代前半の男が3人いる。
体格のよい、丸刈りの男がボスらしい。
一目でわかった。
僕はボスに話しかけた。
「【888】なんて縁起の良いナンバーだね、
買ったの?」
「ネットっすよ」
とボス。
僕:「ネット?」
ボス:「そう、ネットで当たるんです、
当たりますよ。」
僕:「・・・。」
ボスは当たることが当然であるかのように言い切った。
僕はネットで車のナンバーの抽選会があることを知らなかったが、そんなに簡単に【888】が手に入るとは思わなかった。
ボスは潔く礼儀正しい。迷いがない。
メルセデスがボス個人のものなのか他人名義なのかはわからないが、若くしてメルセデスに乗る人間は、やはり何かを持っているのかもしれない。
僕はタバコに火をつけ一本吸った。
「でも多摩ナンバーが気に入らないんだ」
とボス。
僕:「どうして?」
ボス:「やっぱり横浜ナンバーがいい」
僕:「多摩より横浜か・・・」
僕は、やっぱりボスもまだまだ若いのだと思って微笑ましくなった。
ふと3人の足元を見ると、3人とも足首におそろいのミサンガをしていた。
「おそろいのミサンガか・・・。ちょっと待ってて」
と言って僕は家に引き返し、龍のミサンガを持ってきた。
「これあげるよ。ひとつしかないからボスにあげる。東日本大震災復興祈願の龍のミサンガだ。」
ボス:「・・・ども。」
僕:「ところで、これ捨てたいんだけど・・・」
僕はタバコを吸うために火をつけたマッチの燃え殻をみせた。
「ここに捨てればいいんすよ。」
と言ったのは子分のひとりで、その子分はマッチの燃え殻をすぐそばにあった自動販売機の空き缶用のゴミ箱に捨てた。
「そこは捨てちゃだめなところだろ(苦笑)」
と僕。すると
「なんか寒いなあ・・・」
「寒いっすね・・・」
と子分達。
だから僕も言った。
「俺も寒いよ。」
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ボスは黙って龍のミサンガを手首に巻いた。

