娘は手鏡を家に持って帰り、言われた通りに綺麗な布で丁寧に磨き、顔を映してみた。
しかし、特に変化はない。
娘は軽く肩をすくめると、机の上に鏡を伏せ、夕飯の準備に取り掛かった。

翌日。
娘は手鏡に自分の顔を映して、目を見張った。
何かが違う。
どこが…とは、はっきりと言えないが、確かに今までの自分の顔と違うのだ。
強いて言うならば、そう、少しではあるが、美しくなっている気がする…。

「きっと気のせいだわ。鏡を磨くだけで、綺麗になれるわけがないもの」

娘はまた手鏡を丁寧に磨き、机の上に伏せ、母の様子を見に行った。

その翌日。
また娘は手鏡を手に取った。

「あっ」

小さく叫んでしまったのも無理は無い。
明らかに、自分の顔が変わっている…。
不思議な事に、どこが…とは、はっきり言えない、だが確実に、前日の彼女より美しくなっているのだ。

「もしかしたら…本当にこの鏡で綺麗になれるのかしら…」

娘は念入りに手鏡を磨きあげ、机の上に伏せた。

それから数日後、村人の間でも娘の噂が囁かれ始めた
「ここ数日で、美しくなった…あの秘密はなんだろう」
と。
娘は、ちょっとした暇を見つけては手鏡を磨き、その度に美しくなってゆく自分を、眺めるようになっていた。
そんな姉の姿を、身体の弱い弟が心配そうに見ている事など、彼女は気付いていなかった………

           
             続く…


作 このは恵
2013年11月8日(金) 掲載。