「トコロジスト」という言葉は、「場所の専門家」という意味だが、もう少し別の言い方をすると「場所にこだわる生き方」という意味だ。


 つまりこの言葉は、自然に関心のある一部の人たちだけのことではない。現代人にとって重要な生き方のヒントを指し示している。


 ぼくが子ども時代を過ごしてきたのは、高度経済成長による高揚感と公害による暗くよどんだ不安感が同居しているような時代だった。


 企業戦士だった親父の転勤によって全国様々な土地で少年時代を過ごしてきたが、どこの土地でも遊び場だった身近な自然が徐々に失われていく経験をした。


 その後、青年期ではバブルの狂乱とその崩壊の中で、世の中の浮き沈みに踊らされることのむなしさを思い知らされた。そして長引く不況の中で親になった。



 これから先、子どもたちが生きていく時代はさらに大きく変わっていくだろう。


 円熟した経済状況と少子高齢化社会。そして、これに加えて「環境」という待ったなしの制約要因とも戦っていかなければならない。



 これまでの国づくりりの根本が揺らいでおり、この先どんなふうに人の暮らしや価値観が変わっていくのかちょっと予想がつかない。


 こんな時代に子どもたちを送り出すひとりの親として、ぼくは子どもたちになんとかこの厳しい時代を幸せに生きていくための力を身につけてほしいと願わずにはいられない。


 時代の浮き沈みに影響されず、自分の感覚でをたよりに身のまわりのことを感じ取り、この先どこの土地に住んでも、その場所に根ざした生活を送ることができる人になってほしいと思っている。その基礎となる力が、トコロジストなのではないか。


 ぼくは、トコロジストは第2の仕事だと思っている。もちろん収入が得られる仕事ではないが、仕事と同じくらいの責任を自覚しているという意味だ。


 子どもたちにトコロジストを伝えていくためには、まず大人から見せていかなければならない。


 何を信じていいのかわからないこの時代だからこそ、土地に愛着を持ちながら幸せに暮らしていく大人自身の姿を見せていかなければならない。


 トコロジストを実践しながら、地に足のついて生活をしようと思う。