先月、「みつけよう!緑のライフスタイル 」というテーマで講演していただいた川端裕人さん。
今回ご紹介するのは、その川端さんが2000年に執筆された「緑のマンハッタン」 という作品だ。講演会の中で川端さんが紹介されていたので、気になっていた。
この本は、著者が97年~98年にかけてニューヨークのコロンビア大学留学中に、市内の過激な環境活動家たちへのインタビューを重ねたルポルタージュである。
活動の分野は、ディープエコロジーやアニマルライツ、動物愛護、菜食主義、コミュニティーガーデン、川の活動など本当に様々。
しかし、そのどれもがニューヨークと環境活動という、対極にあるコントラストが浮き彫りになっていて面白い。
中でもボクが食い入るようにして読んだのが、コミュニティガーデンと川の活動。そして最終章の「シンプルな生活」だった。
初めの2つは、場所にこだわる要素が色濃く出ていて、トコロジストと極めて近い関係にあると思った。
そして「シンプルな生活」は、今の「ロハス」という言葉が生まれる直前の状況がリアルに読み取れて興味深かい。
■コミュニティガーデン■
コミュニティガーデンとは、建物の立っていないブロックを利用して、住民たちが自らの手で整地し、緑を植えて作った庭のこと。
イーストヴィレッジ、ハーレム、ブロンクスなどニューヨークでも貧しい地域に多く、全部で800ほどある。
年間百万人以上の人が訪れ、市民の憩いの場になっている。
この活動のミソは、庭をつくる過程で住民の共同体意識が向上し、犯罪も激減し、地域への帰属感、土地への帰属感が育っていくというところにある。
荒廃しきって、場所への愛着など湧きようもない環境を、自分たちの手で庭を作ることにより、自分の住んでいる場所がいとおしいと思えてくるということ。
■川の活動■
その帰属感をさらに強調して紹介されていたのが、川の活動だ。
ニューヨークを流れるハドソン川の保全と川の環境教育の取り組みが紹介されている。
ここでは「流域教育」として、帆船で川を下りながら、ハドソン川の歴史や生態系を学んだり、子どもたちと川に入り生きもの探しとモニタリング調査をしたり、同じ流域内の学校が集まって調べたことを発表しあうといった教育活動が紹介されていた。
そして、これらの学習の結果として、流域という概念を体で理解しながら、自分が属する場所、自分がいる場所の感覚を身につけてゆく。
この点は、「場所への愛着を醸成する」トコロジストとよく似ている、と思う。
■シンプルな生活■
どの章も、「なぜあなたはこうした活動をやっているのか?」という点について深く掘り下げたインタビューがされていて興味深い。そして、その動機の中にはもちろん、環境のこと、生きもののことを見て見ぬふりはできないから、という使命感に駆られている場合もある。
しかし、この本の最終章「シンプルな生活」の中ではそうした使命感だけではなく、消費を抑え、生きものや生態系への感謝の気持ちを持ちながら、環境に負荷をかけないライフスタイルを喜びとする立場(ボランタリーシンプリティ)のことが紹介されている。これはおそらく、この直後の「ロハス」という言葉の元になった考え方のひとつなのだと思う。
川端さんの文章からは、こうした「今いる場所への帰属意識」と「シンプルな生活」という2つの概念との出会いの興奮が伝わってくる。
ボクも、いささか興奮した。10年も前の本なのに、「いいときに、いい本に巡り合えた!」と思える一冊だ。
でも・・・残念ながらこの本、すでに絶版!
手に入らなかったので、知り合いから借りて読んだ。
いい本なんだけどなあ。
トコロジストを理解するには必読の書の一つじゃないかと思う。
なんとか文庫にならないかなあ。