「調べることは、考えること」 ~三宅島トコロジスト養成講座~
3/7は、三宅島トコロジスト養成講座「島の暮らし発見隊」(最終回)。今回は、これまで約10か月間受講生が調べてきた神着地区のことを発表する報告会でした。 三宅島は、2000年噴火の後、5年間におよぶ全島避難を余儀なくされました。その間に長年培ってきた島暮らしの文化や歴史にぽっかりと大きな空白期間が生まれ、その後の2005年の帰島から10年が経過した今、ふと気づくと島の生活は以前とはずいぶん変わってきています。三宅島トコロジスト養成講座は、帰島後10年という区切りの時期にある今、もう一度以前の島暮らしをふりかえってみようと、三宅村郷土資料館が昨年6月に開講しました。 島民が自らが、トコロジスト(その場所の専門家)として、集落やその周辺を歩き、あらためて不思議だなと思うことや面白いなと思うテーマを決めて調べてゆきます。お年寄りから話を聞いたり、地図に情報を書き込んだりしながら、今まで見過ごしていたことやものをあらためて見つめ直してみようというわけです。 この10か月間、15名の参加者は3つのテーマについて神着地区を調べてきました。発表会では、お話を聞かせていただいた神着の方々や助言をいただいた小学校の先生、先輩トコロジストである野鳥や郷土史の研究家の方にもご出席いただきました。 冒頭の三宅村教育長のあいさつに続き、各グループの発表が行われました。「神着の神様」 1つ目のグループは「神様」。集落の中に点在する祠や神社について調べたグループです。都道沿いにある祠を地図に落として「神着神様聞き取りマップ」をつくったり、それぞれの祠の由来を調べたりしました。 現在島の人口は約2,700人ほどですが、昭和30年代のピーク時には約7,000人の人が暮らしていた時期があります。当然、この間の人口の増減に合わせて、島の中の土地利用は大きく変わってきました。そして祠は人がそこで集落をつくって暮らしていた証でもあります。今でも、やぶや森から、数え切れないほどの祠が出てきたりします。 調査を始めてすぐに、神着地区には本当に無数の祠があり、とても調べきれない、ということがわかってきました。本当は都道沿いだけでなくもっと広範囲に調べようという話も出ていたのですが、一年ではとてもやりきれない。そこで今回は都道に絞って調べたというわけです。それにしてもあらためて地図に落とした祠を見ると、すごい密度です。さすが「神が着く」と書いて神着。名前の通りの場所でした。「神着地区の食ごよみ」 2つ目のグループのテーマは「食」。島暮らしの楽しみの一つは、近所を散歩しながら季節の山菜を積んできて毎日の食卓をいろどることです。このグループは、集落の人たちがどこでどんな山菜を採っているのかを調べて発表してくれました。 「本当は教えたくないのよね。」と言いながら、集落の人しか知らないとっておきの場所「グルメロード」を地図に表して発表してくれました。そしてそれだけでなく、その集落の中での調理法についても調べてくれました。調理法については集落ごとに違うそうですので、実際に作っていただいて食べ比べて見たりしたら楽しいですね。「沢」 3つ目は「沢」のグループです。島の大きな動線となっているのは海岸線に沿って走る都道です。「沢」のグループでは、あえて横軸の動線ではなく、山頂から海に向かって縦に移動する沢に着目しました。いつもとは全く違う動線で見たときに、どのような島の姿が見えてくるのか。実際に沢を踏査したグループのメンバーが自分の体験を生き生きと語ってくれました。 三宅島は溶岩と火山灰で作られた険しい地形の島です。雨が降るとその直後はすごい勢いで水が流れますが、すぐにしみ込んでしまい水流は消えてしまいます。水不足に悩まされるという反面、崩れやすい地形の中で水流をどうやって逃がすかという悩みもあるのです。沢に着目するとそうした三宅島の一面が見えてきて、なるほどなと感心してしまいました。 出席された神着の方々からは、発表に関連して思い出したエピソードを話してくれたり、別の視点からの意見を聞かせてくれました。調べることは、考えること。その場にいる皆さんの島暮らしへの認識が何層にも厚く重なっていくような感覚でした。 これまでも三宅島では様々なイベントや学習会が行われてきましたが、参加者の多くは新住民の方々で、島で生まれ育った旧住民の方々は参加することがなかったと聞いています。今回の講座の一番の成果は、旧住民と新住民が一緒に島の話ができたということだと思います。 次年度も三宅島トコロジスト養成講座は継続します。神着のトコロジスト活動は、今回の参加者の皆さんが引き続き調べてくれるものと思いますが、講座としては今度は神着からお隣の伊豆地区に場所を移して、伊豆地区の島暮らしを調べていきます。神着のみなさん、お世話になりました。そして伊豆地区の皆さんどうぞよろしくお願いします。また新たなトコロジストの皆さんとお会いできることを楽しみにしています。