遂に始まります。連載物語PR計画。
定期的に掲載していく予定なので、
お時間のある時にでもまとめて読んでやってください。
題して「求人広告物語」。
読みながら、効果の出し方もわかっちゃいます。
とりあえず、第一話。
夕焼けが綺麗だなぁ。
中村ゆかりは赤が広がる頭上を見上げてそう思った。
足早に横を通り過ぎるスーツ姿の男たちは、
立ち止まっている彼女を見ると誰も彼も邪魔そうに怪訝な顔をしたが、
ゆかりにはそれを気にしている余裕すらなかった。
今日の商談も失敗だった。
商談の後には必ず空を見上げるようにしている。
そうすれば少しだけ気持ちが軽くなる。
自分がすごくちっぽけな存在だとわかるからかもしれない。
世界は広いのだ、こんなにも。
ゆかりの仕事は求人広告の営業。
アルバイトや社員を採用したい企業や店舗などがお客さんだ。
中には変わったお客さんや嫌なお客さんもいる。
そんな時は空を見上げて、広い広いそこにいくつも愚痴を浮かべてみる。
今日の奴も最悪だった。
開始5分で「もう商品の話はいいよ」。
「それよりも君は普段どんなことして遊んでるの?」
いやらしい目でそう聞いてきた。せっかく久しぶりに取れた新規のお客さんのアポだったのに。
あーあ。空に浮かべるつもりがいつの間にかうつむいてた。私、この仕事向いてないのかな。
私の存在に早く気付け。そう言わんばかりに鞄の奥でぶぶぶ、と揺れだした携帯電話。
あっ、上司だ。
「すいません、今回もやっぱり駄目でした」と素直に謝った。
優しい言葉を期待していたのに、電波を通じて耳の奥へ届いたのは怒声だった。
「バカ野郎。契約取るまで帰ってくんな」しゅん。
足は自然に飲み屋へ向かっていた。
もう仕事なんか辞めてやる。
神田のガード下。下を向きながらぶらぶら適当に明かりの点いている店へ足を踏み入れた。
今日はとことん飲んでやる。携帯の電源を切ってしまおうかと思ったが、その必要は無かった。
電波外。落ち着いて周りを見渡すと、15席ほどのお店の中に、お客さんはたった一人。
カウンターの向こうにはおばあちゃんがちょこんと座っている。
このお店、駄目さ具合がなんだか私と似てるな。
失礼だけど、ゆかりはそう思ってちょっと楽になった。
おばあさんの薦めてくれたいくつかのおつまみを友に、勢いよく2杯目を飲み干して、
もう一度周りを見渡した。
やっぱりお客さんは入っていない。
カウンターに座っていくつかのつまみを肴に日本酒をちびちびやっている男が一人。
さっきまでと変わらない光景だ。ふいに入り口を見た。ビックリした。
そこにはお客さんが入ってこない、確かな理由があった。
衝撃の第二話へつづく。