金曜日は酷い日だった。
気に食わない上司に納得できないことを言われ、挙句終電まで残業。
最後の力を振り絞り、家のドアを開けた。
明日は昼まで予定がない。たくさん寝よう。
最低限の寝支度だけ済ませ、布団にダイブした。
10時間睡眠。アラームに起こされ、頭が少しずつ働き始める。
寝ぼけ眼で時間を確認していると、雨音が聞こえてきた。
雨は嫌いじゃないけれど、外に出るなら話は別。
今日、土曜日は外に出る用事があった。最悪だ。
傘をさして用事を済ませて、気付けば夕方。
もうすぐ一日が終わる、何も良いことがないまま。
金曜日から今日まで、なーんにも良いことがないまま。
あー、何かしないとダメだ。
何か楽しいことをしないと。死んでしまう、心が。
じめっとした肌、広がる髪。不快。
このまま外で考えれば考えるほど、不快指数はどんどん上がっていく。
どうしよう、何をしよう。
焦る私に、雷のような閃きが落ちてきた。
そうだ、温泉だ!温泉に入りたい!
このじめっとした空気をすべて洗い流したい!
スマホで調べると、近くに温泉の銭湯がある。
目的地が決まればこちらのもの。少し早足で向かうことにした。
しばらく歩くと、銭湯の看板が見えてきた。
近所の人たちで賑わっており、私もそこに加わる。
お風呂500円とタオルセットを頼んで、脱衣所に入った。
急いで支度して浴場に足を踏み入れると、
絵で描かれた絶景が私を迎えてくれた。
その下には温泉が煌めいて、今か今かと私を待ち構えていた。
壁にはずらっと並んだシャワー。ケロリンのおけを持っていき、体を洗う。
はやる気持ちを抑えつつ、先程まで感じていたジメジメを丁寧に洗い流していく。
さっぱりとしたら、いよいよ温泉!
髪の毛をお団子にして、足先からそっと湯船に浸かっていく。
腰まで浸かると、温泉の温かさが全身に伝わって、なんだかため息が漏れた。
肩まで浸かって、じっと景色を見る。
何をするでもなく、銭湯の音を聞きながら、温かいお湯に身を委ねる。
ワクワクした気持ちはいつの間にか消え、ゆるーっとした心地よい何かが私の心を占めていた。
たまに水風呂に入ったりしながら、二時間ほどだろうか。温泉に揺られていた。
(なんとなく、「揺られていた」が正しいように感じた)
これ以上はのぼせそうだ。名残惜しいが、上がって身支度を整える。
ドライヤーを使おうとしたら、『2分10円』の文字。財布を確認するが、10円玉は無い。
仕方なしに、タオルで念入りに水気を拭き取る。次に来る時は10円玉を用意しなければ。
ロビーに出ると、一目散に牛乳の元へ駆け寄った。
もちろん、瓶のやつ。
番頭さんにお金を払って、椅子に腰掛ける。
蓋をとって、ごきゅっと喉を鳴らして飲んだ。
ほてった体に冷たい牛乳が染み渡る。うまい!
なんでこんなにうまいのだろうか。
もう無くなってしまった牛乳を寂しく思いながら、びんを返却する。
外に出ると雨は止んでいて、こんな小説みたいなことあるんだと謎の感動をしていた。
とりあえず明日、日曜日はいっぱい楽しもう。
そう思いながら帰路についた。
本日の息抜き 銭湯
お風呂、タオルセット、牛乳で870円