民法(債権関係)改正要綱ですが、今回は賃貸借契約その1です。
基本的には、実務に影響を与えない改正が多いという印象ですが、項目ごとに見てます。
要綱案は⇒
リンク 33 賃貸借1 賃貸借の成立(民法第601条関係)民法第601条の規律を次のように改めるものとする。賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。現在の601条と違うのは、「及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって」という文言が入っているところです。
賃貸借契約の要素として、返還約束が必要であることを明確にしたのみで、実務的な影響はありません。
短期賃貸借(民法第602条関係)民法第602条柱書の部分の規律を次のように改めるものとする。処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。これは、単なる文言の削除です。現在の民法602条では、「処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者」とされているのですが、「処分につき行為能力の制限を受けた者」が行った賃貸借の効力は、民法5条2項(未成年)、10条(被後見人)、13条4項(被補佐人)、17条(被補助人)の規定により規律されるのに、現在の本条の規定では、これらの行為能力制限者も、602条の短期賃貸借の期間の範囲内ならば賃貸借契約が締結できると誤解されるおそれがあるため、文言を削除するものです。
3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)民法第604条の規律を次のように改めるものとする。(1) 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。(2) 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。現在の賃貸借契約の存続期間である20年を50年に改める改正です。
現代社会では、ゴルフ場の敷地など長期の賃貸借契約を認めるニーズがあることに対応したものです。
中間試案段階では、存続期間の定めを削除する(すなわち、賃貸借期間に上限を設けない)という提案があったところですが、長期に過ぎる場合、賃借物の毀損を賃貸人も顧みなくなるという懸念から、50年にされたものです。
なお、一般に多く利用される建物所有目的の借地や建物賃貸借には借地借家法が適用されますので(土地は30年以上で上限は無制限、建物も上限は無制限)、民法の規定が適用されるのは、それ以外の場合となります。
4 不動産賃貸借の対抗力、賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)民法第605条の規律を次のように改めるものとする。(1) 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。(2) (1)、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。(3) (2)の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。(4) (2)又は(3)後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。(5) (2)又は(3)後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、民法第608条の規定による費用の償還に係る債務及び7(1)の規定による7(1)に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。現在の民法605条は、「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物件を取得した者に対しても、その効力を生ずる。」という単純なものですが、判例の積み重ねもあるところであり、その判例法理を明文化するというのが、改正要綱案の考え方です。
まず、前提となる(1)は、現在、「その効力を生ずる」とされている規定を「対抗することができる。」という文言に修正して、効力の問題と、対抗関係の問題を分けて規定しているものです。
契約は、相対的に各当事者間で締結されるので、各当事者間で効力が有効であっても、その効力は当事者間のものです。この当事者間の契約の効力を、第三者に主張し、認められるのか、というのが「対抗できる」「対抗できない」という対抗問題です。
上記(1)は、不動産賃貸借について登記をしていれば、物件を買い受けた新たな所有者などの第三者に賃貸借契約上の賃借人たる地位を主張できる(すなわち賃借を継続できる。)ということを定めています。
(2)は、賃貸借登記がある場合や、借地借家法上、借地であれば登記がある建物が借地上に存すること、借家であれば引渡しを受けていることで、登記の代わりとして、対抗力があるとされている場合には、所有権の移転に伴い、賃貸借契約上の賃貸人たる地位も、特段の事情がない限り、新所有者に移転するという判例法理(最判昭和42年5月2日判時491号53頁参照)を明確にしたものです。
(3)も、同じように、判例法理に基づく改正です。(2)のとおり、賃貸借に対抗力があり、不動産の所有権が譲受人に移転する場合には、賃貸人たる地位も譲受人に移転するのが原則ですが、証券化等では、このような取扱いが不都合である場合があります。
例えば、不動産デベロッパーが商業施設を開発し、テナントと賃貸借契約を締結して、一定の収益が上がる物件とした上で、これを信託銀行などに信託的譲渡をし、受益権を受け取り、受益権を投資家に売却するなどする場合です。
この場合、信託銀行に所有権移転をするとしても、賃貸人たる地位はデベロッパーに残しておく必要があります。その上で、賃貸管理等を行っていく、ということになります。
最判平成11年3月25日判時1674号61頁は、不動産の譲渡人と譲受人の合意のみで、賃貸人たる地位を譲渡人に留保することはできない旨を判示していますが(上述の最判昭和42年5月2日にいう「特段の事情」にあたらない)、一般的には、当事者間の合意に加えて、譲受人が譲渡人との間で賃貸借契約を締結して、転貸借の形式にし、元々譲渡人と賃貸借契約を締結した借主(テナント)が不利益を被らない形式となっている場合は、賃貸人たる地位を留保することも可能(最判昭和42年5月2日にいう「特段の事情」がある。)と解されていますので、その点を条文化するという趣旨です。
もっとも、現在の判例法理では、何が最判42年5月2日の「特段の事情」に当たるかは明確になっておらず、判断は個別の事案によるので、かかる民法605条の改正に関わらず、譲渡人と譲受人が賃貸借契約を締結する場合のみならず、他の場合も賃貸人たる地位の留保が認められる可能性はあるということに留意する必要があるように思います。
(4)は、賃貸人たる地位を留保した後に、譲渡人と譲受人との間の賃貸借契約が終了した場合は、原則どおり、賃貸人たる地位は譲受人に移ることを規定しているものです。
(5)も判例法理の明確化です。敷金は、賃貸借契約に付随して、賃借人から賃貸人に差入られるものですが、判例(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)は,不動産の所有権移転があった場合には、旧所有者の下で生じた延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてのみ敷金返還債務が新所有者に移転するとしています。
かかる判例に対し、実務上は、延滞賃料等の弁済に敷金を充当せずに敷金を移転させていることから、判例法理のうち、敷金の移転の部分のみを明文化したものです。
費用償還債務については,必要費,有益費ともに,その償還債務は新所有者に当然に移転すると解されていることから(最判昭和46年2月19日民集25巻1号135頁参照)、これを明文化しています。
5 合意による賃貸人たる地位の移転賃貸人たる地位の移転について、次のような規律を設けるものとする。不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、4(4)及び(5)の規定を準用する。これも、判例法理(最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁)を明文化しているだけですね。
通常、契約の場合、契約相手方が代わることは、当事者にとって重要な利害があるので、契約上の地位の移転には、相手方の承諾が必要とされています。
しかし、不動産の賃貸借契約があり、賃貸人が不動産を譲渡する場合、不動産の所有者であれば、賃貸人としての義務(不動産を使用収益させること)はできるので、所有権移転に伴い、賃貸人たる地位が移転する場合は、賃借人の承諾は不要というのが、上記判例です。
これが、今回、条文で明確にされます。
6 不動産の賃借人による妨害排除等請求権不動産の賃借人による妨害排除等請求権について、次のような規律を設けるものとする。不動産の賃借人は、4(2)に規定する対抗要件を備えた場合において、次の(1)又は(2)に掲げるときは、それぞれ当該(1)又は(2)に定める請求をすることができる。(1) その不動産の占有を第三者が妨害しているときその第三者に対する妨害の停止の請求(2) その不動産を第三者が占有しているときその第三者に対する返還の請求判例法理の明文化ばかりですが、これも同様です。
物権は、物についての排他的(同一のものに同じ権利が成立しない。)、絶対的な(全員に主張できる。)な権利ですので、かかる物権の効力として、妨害排除請求権や返還請求権、妨害予防請求権が認められると解されています(明文なし。)
賃借権は、賃貸人と賃借人との間の契約に基づくものであり、相対的な権利です。しかしながら、賃借権についての登記がされたり、借地借家法上の対抗要件を具備すると、第三者にも主張できることになり、物権類似の絶対性を持つことになります。
かかる賃借権の物権化に応じて、裁判例は、対抗力ある賃借権にも妨害排除請求権等を認めており(最判昭和28年12月18日民集7巻12号1515頁,最判昭和30年4月5日民集9巻4号431頁)、要綱案ではこれを明文化することを提案しているものです。
したがって、賃借人は誰かがその占有を侵害する場合には、妨害排除請求ができ、占有を奪われた場合には返還請求を行うことができるということになります。
賃貸借契約に関する改正項目は12項目で、うち6項目まで見てみたので、今回はここまで。
いずれも、判例法理を明文化するというものが多く、実務的な影響は少ないですね。
次回は、賃貸借契約その2。