登場人物
夏川美海なつかわうみ(26)主人公
松雪冬樹(31)初恋のヒト
秋山斗希(31)冬樹の双子の弟。人気モデル。
夏川里美(42)美海の母 シングルマザー
雨宮太陽(24)美海の婚約者夏川一郎(70)祖父
夏川和枝(66)祖母

4、秘密

家に入ると中に、太陽がいた。
「おっせーな。美海」
いつも通りなのに涙が出た。
「太陽」
わたしは何も言わずにおじいさまがいるのに太陽に抱きついていた。
安心した。
弟みたいな……
おじいさまの咳払いが聞こえて我に返った。

「帰ってくるなり、ただいま帰りましたもなく、礼儀を弁えなさい」

「失礼しました。おじいさま」
わたしは慌てて太陽から離れた。
「2人とも就職したことだし、披露宴の日取りでも」と言ったとき、お母さまが帰ってきた。

「……」
またしてもわたしと同じように無言で。

「親子揃って」
おじいさまはまた咳払いをしたけど、お母さま気づかない。

もう一度、おじいさまが咳払いをする。

しかし、お母さまは見向きもせずに階段を上っていく。
「里美。待ちなさい」
おじいさまの機嫌は最高潮に達していたが、お母さまのただドアがバタンと閉まる音だけが響いていた。

おじいさまがこちらに戻って来たとき、太陽はもういなかった。

何かを察したようだ。

「夕食の準備はまだか?家政婦は?」
「今日は家政婦は有休ですのでおばあさまが何かを作ってくださっているはずですが」
キッチンにおばあさまがいる気配がない。
「早くしろ」
「はい」

仕方なくキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。

おじいさまは煮物が好きだったわと材料をなんとか揃えて作ろうとした。
が作ったことが今まで1度もないのだから、作れるはずはもちろんなく、残骸となった。
おじいさまは呆れ、結局近くの出前を頼んでくれた。2人でおじいさまの頼んだお寿司を無言で食べているとおばあさまが帰ってきた。
「ただいま帰りました。あらっやだ。キッチンが大変じゃないかしら」

「今まで何をしていた?」「今日は1ヶ月に1度のお茶会の日よ」
「夕飯の準備は?」
「里美に頼んでおいたのに。あの子は?」
「知らん。わしが聞きたいくらいだ」
「帰ってきてすぐに部屋にとじ込もって出てこないんです」
「そうなの。何かあったのかしら」
おばあさまは心配そうだったけど、わたしはとりあえず、お寿司を食べて部屋に戻った。

1人になると怖かった。

気づくと、病院に電話していた。
看護師さんが電話に出た。
「松雪先生をお願いします」
「お名前をお願いします」「あっ、夏川です」
「夏川先生ですね。失礼しました。少々お待ちくださいませ」
わたしはドキドキしていた。先生の声を聞けるのが。でも、第一声で先生は。
「里美先生。電話貰えて良かった。急に具合が悪そうに帰っていったから心配だったんだよ。電話しても出ないし。大丈夫?まだ具合が悪い?」
わたしは耳を疑った。
松雪先生が親しそうにお母さまのことを……

あわてて電話を切った。

当直代わって貰おうとしたのはお母さまだったのかな?
電話が鳴った。

家のね。
わたしは出なかったけど……
怖くて。

登場人物
夏川美海なつかわうみ(26)主人公
松雪冬樹(31)初恋のヒト
秋山斗希(31)冬樹の双子の弟。人気モデル。
夏川里美(42)美海の母 シングルマザー
雨宮太陽(24)美海の婚約者夏川一郎(70)祖父
夏川和枝(66)祖母

3、のんきなわたし

わたしの唇に彼の唇が重なったような気がしたとき、チャイムがなった。

わたしは安心した。

誰かが来たような気がしたから。

でも、彼は止めようとせず、唇と手でわたしの体を触った。
怖くて目を閉じたとき、おっきな声とチャイムが勢いよく何回か聞こえた。

「おいっ。斗真。いるんだろ。返事くらいしろ」

彼は仕方なさそうに立ち上がり、
「続きは兄が帰ったら」
とわたしに言った。

わたしは怖くて、体が震えてる気がした。

しばらくすると、松雪先生がこっちにきた。

「うちの斗真が悪かった」

先生が優しく支えてくれて、駐車場に向かった。

すねたように彼は何も言わなかった。

駐車場でやっと落ち着いて、聞いた。

「当直なのに大丈夫ですか?」
って。
精一杯の笑顔をして。

「辛かったらないていいよ」
先生のその声に緊張の糸がスッと切れてわたしは先生の胸で大声で泣き叫んだ。

少しして「すみませんでした。先生は忙しいのに」
「大丈夫。代わってもらったから。明日、日勤と当直だけどね」
「ホントにご迷惑おかけしました」
「悪いのはあいつだから。ゴメンね」
「はい。先生が来てくれなかったら、と思ったら今も震えてます」

「今日は家まで送るから。ゆっくり休みなよ」

わたしが説明しなくても松雪先生はスッとわたしのお家まで送ってくれました。

わたしは勘違いをしてました。
助けてくれたし、家まで送ってくれたし、わたしのこともしかして……好きなの?ってね。
登場人物
夏川美海なつかわうみ(26)主人公
松雪冬樹(31)初恋のヒト
秋山斗希(31)冬樹の双子の弟。人気モデル。
夏川里美(42)美海の母 シングルマザー
雨宮太陽(24)美海の婚約者夏川一郎(70)祖父
夏川和枝(66)祖母
2、ミステイク

わたしは夜、仕事が終わって躊躇わずに松雪先生に話しかけた。
「松雪先生」
先生は「あー、新人の子。院長のお孫さんで里美先生の娘さん」

「よくご存知で。先生。わたしと何処かで会ったことはないですか?」
聞いてみた。
もしかしたら、覚えてるかもって。
「ごめん。何処でかな?覚えてないかな」

ちょっと、ショックだった。確かにわたしも覚えてはいなかったのですが……
「高校のとき、教育実習に」

「あー。それもよく間違えられるけど、それ、オレの双子の弟。斗希(とうき)」

「斗希……ってもしかして」
「そう。モデル。大学卒業してから本格的にしてる」「凄いですね。お母さまもお父様もお鼻が高いことでしょう」
「別に。親、オレが大学を卒業する頃に離婚して。みんなバラバラになったから。オレはお袋の方に入ることにしたけど。斗希は親父の方に入った。名字変えたくないってな」

「そうですか。それは大変でしたね。家より大変です」

「大変なんてものじゃなかった。オレ、一度教育学部卒業して、教師になろうとしたわけ。でも、採用試験に落ちたのもあるし、両親の離婚もあるし、両親が教師だったのもあり、反抗して、夢だった医師になってしまおうと医学部に編入する試験受けたら受かって今に至る感じかな。初対面の子に話しすぎた。叔父さんの戯言だとでも思って。だから、美海ちゃん。帰ってゆっくり休みな。じゃあね」

「はい。松雪先生。さようなら」

わたしは松雪先生から離れた。

駐車場に向かって歩いて行くと太陽がいた。

「おせーな。美海」

「先に帰れば良かったのに。今日は別々に来たじゃない?」

そこに院長。
「けしからん。美海。その話し方はなってないな。自己紹介もあれでは家柄に傷がつく。もう少しまともに話せないのかね」

「おじいさま。どうしてそれをご存知で?いなかったは」

「全て録画で拝見させてもらったよ」

頭を押さえるわたし。

「太陽くん。不束な孫ですがよろしく頼むよ」

「はい。院長」

おじいさまは高級車で去っていった。

「何か疲れるよな。美海ん家の家族」
「ゴメンね」
「別に美海が謝ることじゃないし。とりあえず、乗って。送るよ。ご飯でも食べて」

わたしはいつも通り、太陽さんと高級フレンチレストランに行って夜景を見ながら食事をして。
彼に車で病院に送ってもらって。
車があるからね。

午後0時過ぎ、わたしは家に着いた。
どうしても、松雪先生が気になる。
机の上に斗希の雑誌。
珍しい。
おじいさまが怒らないなんて、そっと掴んで、自分の部屋に。

似てる。
双子だからそうだろうけど。
絶対に分からないな。

出会ったとしても。

次の日は松雪先生が当直だったから、朝はいなかった。
外来は院長と他の先生でわたしと太陽さんは入院棟で研修を行った。

3時頃に運ばれてきたのが、松雪先生で。
処置が終わって、ただの貧血ということでしばらく休んでから家に帰ることになって。
5時過ぎだったから、わたしが送っていくことにした。
太陽さんは手術が長引いてまだ帰れなそうだったから。

わたしの車に乗せて、何かちょっと松雪先生とは違う感じがしたけど、気にせずに家に送り届けようとエンジンをかけ、ぐったりしている彼を乗せて走り出した。
何とか道案内をしてもらって、マンションに着いた。
「サングラス」
って彼が言うから、かけてあげて。
「1405号室」

までわたしが連れていった。

部屋に秋山って表札になってたけど。特に気にせずに中に入れてあげて、
「ベッドまで連れていって」とかすれた声で言うから何とか連れていった。
そしたら、何か彼に引き寄せられて、ベッドに倒れこむ。
上に先生がいる。
「もしかして、本気で気づいてないのかな?美海」
「あなたは先生じゃ」
口を手でふさがれる。
「僕のファンなんだろ?」わたしは状況が掴めない。先生はわたしの口から手を離し、唇が近づいてきた。怖くて目を閉じて背けようとした。
誰か助けて。