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「春を呼ぶ指揮棒」第二回


「春を呼ぶ指揮棒」   第二回 
                      薫葉豊輝



 その時、私の座った席に面する階段を上がってくる人影が見えた。


 さらに近づく影。

 目線だけで、画面と影とを交互に追いかけていると、影は私の真横で立ち止まり、そのまま座席に落ち着いた。
 そう、私の横に着席したのだ。正確に言うと、一つ空席を挟んだその真横。年齢は高校生ぐらいだろうか、髪の毛はロングで、暗いからわからないけれど、銀色のワイシャツに、ネクタイをはめているみたい。
 クラスでも、男の子とそんなに話さなくなって久しい私なだけ、ちょっと胸キュンしちゃったんだね。

 でも、変なロマンスとか期待しちゃってもあれだしさぁ。映画に集中しなきゃあ。

 顔を前へ向けると、折れた絵筆の散らばる狭い部屋の中で、キャンバスに向かう画家の憂いを帯びた横顔が映り、鳥かごの隙間から零れ落ちた鳥の羽根が、床に投げられた一通の封筒の上に落ちていくシーンが目の前で展開されていた。
 その手紙は、田舎に住む彼の両親から届いたものらしく、その後、彼がその手紙に書かれてあった両親からの願いに対し、ある約束を交わす。そんな画家の人生が私の目の前を流れていく。

 ふと、横に座る学生風の少年を見ると、その瞳が恐いぐらいにまっすぐで、映画の中へ入り込んでいる。そんな様子だった。


 でも、ちょっと気になるのは、彼の鞄から覗く一本の指揮棒。彼も私と同じように吹奏楽をやっているのだろうか。


 映画もクライマックスを迎え、故郷へ帰ってこいと度々手紙を寄越す両親との約束を賭けた最後の展覧会を行うシーン。ここで、ある集客数に届かなかったら、田舎へ帰る。
 それが、彼が両親と交わした約束だった。


 ラストシーンで、画家の展覧会に訪れた両親と再会する彼の目には、彼が今までの人生で一番、意味のある嬉し涙を流しているみたいに私には感じられて、すごく胸が一杯になってくる。


 それに、バッググラウンドに流れるムソルグスキーの「展覧会の絵」と、とっても合っていて、私の胸は嘘偽りなく映画の世界の中に吸い込まれていきそうになってしまった。
「ああ、とっても綺麗な映画だったわ」
 ムソルグスキーの曲と共に字幕が流れる画面を見つめながら、私はふっと心の声を漏らした。

「春を呼ぶ指揮棒」第一回

待望の新連載開始!



 

 

 


「春を呼ぶ指揮棒」 



                薫葉豊輝(カオルハ・ヒロキ)



 千本の針の降るような雨。
 グレーの空。
 チェック状に並ぶ石畳の道蹴って、駅前のロータリーを曲がった私は、市内最大の映画館「シネマ・キッド21」の入り口で、ピンク色のパラソルに付いた雨粒を払った。


 私の名は岩崎奈留美。

 市内「聖悠中学校」で吹奏楽部に所属する三年生の乙女。

 今日は今話題の映画であり、私の好きな音楽を題材にしている「最後の展覧会」を鑑賞するために、休日を使って映画館へとやってきたの。

 実は、その主題歌に使われているムソルグスキー作曲「展覧会の絵」が、今度我が聖中吹奏楽部も参加する県の吹奏コンクールの候補曲にもなっているし、今回の鑑賞って、結構合理的な鑑賞ってわけなのよね。

 この日のために新調したスーツの裾を汚さぬよう、受付へと向かい、美味しそうにココアを飲んでいたお姉さんに前売り券を渡す。

 エレベーター・ホールで、エレベーターを待ち、ドアが開いた途端、イチ、ニイ、サンで中へ向かって、ふぅわり、ポン。

 目的地の三階に到着した私は、雨のせいで体を冷やしたせいか、お手洗いに行きたくなってしまった。

そういうことで、廊下の右手にあるお手洗いへと駆け込む。

 どっっくんっこっ。

 突然のアクシデント。
 気が付いたら、肩に激痛。

「大丈夫。お怪我はない」
 お手洗いの扉を右手で開いた瞬間、中から出てきた黒スーツを着たお姉さんの左肩と、自分の左肩とをごっつんこさせてしまった私は「私の方こそ、不注意ですいません」
 そう頭を下げることにした。はしたないことに、ぶつかった拍子に声を上げてしまったし。

 回りを見渡すと、周囲には、(端の方で)廊下を清掃中の二人の清掃婦と、左斜め後ろ数メーターの位置にある自動販売機の前で、買ったばかりらしい缶ジュースのプルタブを開けようとしている帽子を被った中年男性ぐらいか、なのでほっとした。(図参照)

 だって、大勢の人の前で、自分の失態を見せることほど、恥ずかしいことはないもの。


 お手洗いを済ませ、すぐに上映室へと駆け込む。

 何故って、それは今が上映開始時刻の一分前だから。

 

 


               OL
―――――――― o ――――――――――

               \ ←トイレ・ドア

              o 

                岩崎奈留美

―――□――――――――――――――――

 自動販売機

 

 

 (上映室の)ドアを開閉後、暗黒の大星雲の中に呑みこまれるような感覚に襲われた私は、ハイヒールの音に注意しながら、席を探した。

 一階は割と埋まっているけれど、二階の方は比較的空いているみたい。

 目線だけで、めぼしい席を見つけた私は、ずれていたハンドバッグを掛け直して、一歩一歩階段を上った。

 席に着いたと同時にブザーが鳴り、背後から一筋の光が銀幕を目指して、進んでいく。

 まるで航路を行く船のように。

 なんてね、私も結構詩人なんだわ。最近、シェリーの詩集とかを図書館で借りて読んでるしね。


 今、学校で話題になっている「三人のマドンナ」っていう映画の予告編が始まり、続いて三本ほど予告編が続いた後、待望の「最後の展覧会」が始まった。

「第3回ブログ・ミステリー賞」は締め切りました

皆さま、こんにちは(こんばんは)。ご無沙汰しております。司凍季でございます。
15日に締め切りました「第3回ブログ・ミステリー賞」にご応募くださいました皆さま、どうもありがとうございました。
私のほうで2作品に絞り、これから石井先生にも読んでいただく予定です。決定次第こちらと「司凍季Blog」の両ブログにて発表いたします。
 
今回は、応募数は少ないものの完成作品が多く、書き手の皆さまの意気込みを感じることができました。
 
次回がありますかどうかは、読者の皆さまの反応により決まりますので、受賞作決定の暁には、ご意見よろしくお願いいたします。

スマート・スマート(11)

題「青空の下の鎮魂歌」

 

 

場所:百間川一声の探偵事務所。

 

百間川一声「なるほど、(高級)車を盗難されたんですね」

A「ええ。ショッピングを終えて、屋上駐車場へと行き、車の鍵を開けようとしたんですが、あぁ、鍵と言うのがですね。端末を車内へと置いて、外からガラス越しに手をかざすことで、(端末の)液晶画面に表示される4桁の数字を合わせるものでして」


百間川一声「あぁ、以前某TV(TV東京「WBS」)で放映されていた、あの鍵のロックをオン・オフと切り替え、作動させる機器のことですね」

A「ええ、そうです。液晶に数字が表示される度、登録しておいた数字の所で(車外から)手をかざして(一桁ずつ)数字を止め、4桁合わせると、車のドアのロックが外れるという、あの鍵のことです」

 

百間川一声「続きをどうぞ」

 

A「はい。その鍵の作動装置の端末を作動させようと、窓ガラス越しに手をかざしていたんですが、開かなかったんです。そこで一度、車を離れて(携帯電話も車内へと置いていたので)公衆電話で端末を購入したお店へと連絡しようと、階下へと降りて公衆電話を探し、やっと見つかったところで連絡。屋上へと戻ってみると、車が消失。というわけです。

 あぁ、一つ付け加えておくと、鍵端末を取り付けると共に、ドアの鍵穴へは、自動車鍵を挿せないようにしておいたんですが、それだけに、何故鍵のロックが外れたのか……」

百間川一声「なるほど。しかし、何故、壊れた鍵作動機がうまく作動したんでしょうかね?」

A「あっ。実は私、ついうっかりと、数字を揃えても機器が反応しないので、『おかしい、9371の所で止めたはずなのに』と口にしていました。実は私、失敗すると、つい声に出して状況を言ってしまう癖があるので」

百間川一声「癖ですか……もしやこの盗難事件。あなたの癖を知っている人物の犯行かもしれませんね。
その車も事前に盗難しようと考えていたのかもしれない」

 

A「何ですって」


百間川一声「周囲に不審者はいなかったでしょうが。あなたの癖を利用して、番号を耳に出来るチャンスを窺っていたんですよ」

 

A「ま、まさか。でもちょっと待って下さい。鍵の作動機は壊れていたんですよ。

じゃあ、窓ガラスを叩き割って……しかし、車内へと入れても鍵が無い限りエンジンは掛からないでしょう」

 

百間川一声「Aさん、鍵を落とされたことは無いですか?あるいは車を貸したことは」


A「いや、まだ購入仕立ての新車ですから……あっ、この間、友人に貸しました、ほんの一時間ほどですが」

 

百間川一声「なるほど。その人物が怪しいですね。その際に盗めばバレバレですから、次の機会を狙ったんでしょう。そしてその際に合い鍵を作っておいた?」

A「しかし、もう一度言いますが、あの鍵の作動機は壊れていたんですよ。じゃあ、どうやって鍵のロックを解いたんです」」

百間川一声「いえ、だからこそ作動機は壊れていた。そう考えられるかもしれません」

 

A「?」

百間川一声「そのご友人は、あの作動機。いえ、正確には窓ガラスの方に、ある細工をしていたのではないでしょうか? 窓ガラスへと、特殊溶液を塗るか何かしておいてね。赤外線に反応する機器であるのならば、赤外線をシャットアウトする溶液の類を」

 

A「何ですって」

 

百間川一声「そうすれば、手をかざしても、手の反応を妨げるはずです。そうやって、手の反応を妨げて、あなたが公衆電話を探しに行く隙を窺っていた。

 もちろん、このデパートも事前に調査していたのではないかと思われます。駐車場から公衆電話までが出来るだけ離れているデパートであることなど、ここは好都合な場所だったのではないでしょうか?ああ、駐車券の問題は、券を落としましたと窓口で伝えればクリアできるでしょう。そうすれば後は、料金を支払えば通してもらえるはずですから。それらを踏まえ、そのご友人こそ最有力容疑者。そう私は考えます」

 

A「そこまで手の込んだことを……。いえ、私も責めることができないかもしれません」

 

百間川一声「と、申しますと」

A「実は彼は、世界から自動車を無くす運動をしている人間なんですよ。エコカーはまだ認めると言っているようなんですが。だからこの間。車を貸してくれと言ってきた時は、妙だとは思ったんですが……」


百間川一声「車を無くす運動家……ですか……」

A「ええ。しかもその原因がですね、一年前に私と息子と、彼の息子の三人を乗せて、あるテーマパークへと行く途中、事故に遭い、私たちは軽症で済んだのですが、彼の息子だけが……亡くなってしまった……。

それ以来、連絡も寄越さなくなったんですが。一年間、追悼の気持ちもあってか、安い中古車に乗り換えていたのをこの間やめて、新車を買うことにしたのです。

 そう、購入した直後です、突然、彼から連絡が入り、車を貸してくれないかと……」


百間川一声「なるほど、一年前に、動機の根が出来ていたと言うわけですね」

 

A「え、ええ。百間川さん。ではこれから彼のところへ行き、一年前のことも踏まえてよく話し合ってみます」


百間川一声「是非そうしてください。あぁ、行く前に自動車神社へと参るといいですよ。すべての罪が洗われ、許されますようにと」

A「自動車神社ですか?」
百間川一声「 ええ、私の提案で丘備市内に造っていただいたんです(今年の一月に完成)。私もある交通事件の被害者ですからね。
 その話(春を呼ぶ指揮棒)を知りたい場合は、私の自伝を書いている薫葉豊輝という三文書き手のブログを読んで見て下さい。私はやめてくれと言っているんですが、明日から、私の少年期の物語をそのブログで連載を開始すると、さっきメールが入ったので」

 

A「アドレスは、わかりますか」

 

百間川一声「ええ。http://toki-t.ameblo.jp/ 。ブログ名は『BLOG MYSTERY NOVELS』です」

 

 スマート・スマート(10)

題「メディカルの新星」

 

 とある個人病院。

病院長「百間川のエジソンさん、うちの病院。

お年寄りばかりで皆、元気ないんですね。

何か元気を出させるアイデアってないでしょうか」

 

百間川一声「そうですね、人間だけではなく

お花にも音楽を聴かせるとα波が出るっていいますし、

音楽を使った方法で何か考えてみましょうか」

 

病院長「お願いいたします」

 

百間川一声「ご期待に応えられるよう、努力してみます」

 

 頬杖をして、思案する百間川。

 

 約一分が経過した。

 

百間川一声「そうだ、こんなのはどうでしょう」

 

病院長「もう、ひらめいたんですか」

 

百間川一声「ええ。

カルテにですね、メロディーをつけるっていうのはどうでしょう?

単純に、音声記憶のできるICチップをカルテの隅っこに取り付けるだけで

実用可能だと思いますし。
 それならば、カルテを書いている際に、心地よいメロディが流れてきて、

患者さんの心理を緩和させることに貢献できるのではないかと。
 そして、患者さんごとに曲を変えても面白いかもしれません。

 癒しを求める患者さんには癒しを、元気を求める患者さんには、元気を!

 まず手始めに、モーツアルトあたりから始めてみられては」

 

病院長「それは、清清しいアイデアですね。早速、実践してみます!

ありがとうございました」

 

 


 注釈=百間川のエジソンこと、百間川一声は、私立探偵の顔。警視庁捜査一課特別捜査官という顔、企画プランナー件発明家という顔を持っていることを付記しておきます。

タイトル変更!

タイトルを下記に変更しました!

 

BLOG MYSTERY NOVELS

 

今後ともよろしくお願いします!

                    薫葉豊輝

スマート・スマート(9)

題「トランプ小説」

 


 ある村に、父(キング)母(クィーン)息子(ジャック)の三人家族がいました。

 しかも、人間界のトランプの形、模様とそっくりの家族なので、

人間が見たら、トランプの絵札が巨大化したものが立って歩いていると、

びっくりしてしまうかもしれません。

 

 それはさておき。

 そのトランプ一家が、旅行中。
 道に迷って、運命の森へと紛れ込み、

出口付近にある「悪魔の池」に棲んでいる108つも頭を持つ大蛇が、

池から浮上してきて、一家をにらみつけながら、こう言いました!

 

「出口に向かうには、この池の上の橋を通らねばならない。

しかし、タダで渡らせることはできない。

そこで、ワシと、クイズで勝負しろ。そう、ロジック勝負を!」

 と、難問をぶつけてきました。

 弱った家族は(渋々ながらも)仕方なく、

勝負を受けて立ちました。

「では、問題じゃ。お前たちの体に記されてある数(キング、クィーンなど)をワシが見たところ、

11は11。12は12。13は13と数えることは、アンフェアだと思うのだが、
さて、その意図がお前達にはわかるか?」

 

「…………」

 

「そう、その数え方が不正確だと、ワシは言いたいんだ」

 

「ど、どういう意味です。私たちにはさっぱりわかりません。
……何かヒントをいただけませんか」

「では、一つだけヒントを教えてやろう。

ここにいるお前たち全員のシンボル数を足すと、13+12+11=36になると、

お前たちの世界では共通認識されているようだが、

正確には、全部を足すと72になるのじゃ」

 一家は、大蛇から与えられた一時間の猶予を使って、

問題に取り組むことにしました。

 

 しかし、さっぱりわかりません?
 
 そこで、こっそりと逃げだした「ジャック」が、

白と黒の洞窟に住むというトランプ探偵の元へと行き、

相談をして戻ってきました。

 

「なるほど、そういう理屈か!」
 父(キング)がヒゲを撫ぜる。

 

「大蛇殿。答えがわかりましたぞ」
 ジャックが、口を開きます。

 

「では、申されよ」

 

「これは、我々の灯台下暗しを突いた引っ掛け問題だったんだ。
 まず、トランプの数字というのは、トランプの単位ごとで、その数字が決定するが。
 しかし、よく見ると、我々トランプには、左上と右下の二箇所に、数字が記載されてある。
 そう、つまり、二箇所あるから、正確に数えると数字も二倍。
 ゆえに、13は、13と数えるのではなく、正確には左上の13と右下の13を足して26。続いて、12は倍化して24。11は22。
 それを全部足すと72。
 それが私たちのはじき出した解答です」

 

「正解じゃ。よしっ。ここを通るがいい」

 

 そう言うと 大蛇は池の中へと沈んでいきました。

 

 そして一家は、池を渡り、運命の森を脱することができました。

 

 めでたし、めでたし!

スマート・スマート(8)

題「スキンシップ」

 


 ふと気付くと、あれは誰だったのか?

 

 確かに母だったが、声を聞いた記憶がない。

 しかし、今戸籍を調べると三歳までいた母は、

 僕が生まれると同時に死んでいたことを知ってしまった。

 

 しかし、僕の頭には母に抱かれた記憶がある。


 それも、いつも頬をぺろぺろ舐められる記憶が。

 

 よし、お父さんに、勇気を出して聞いてみよう。

 

「実はね。あれは、
スキンシップ系子育てロボットだったんだよ。
何故、舐められた記憶があるかって?

それはね、2004年に発見されたラットの実験にて、

 

母親が充分な時間をかけて舐めたラットは生涯に渡り、

ストレスに強くなることが実証された。

どうも、母とのスキンシップにより、

脳の海馬にて特定に受容体を作る遺伝子が活性化して、

長期的にストレスレベルが制御されるというらしいんだが、

 

その理論を応用して何か作りましょうと言ってくれた、

百間川のエジソンという発明家が作ってくれたんだよ。

 子供の肌を舐めて、子育てをする子育てロボットを。

もちろん、お前を膝に乗せたまま、唇と腕以外は動かないんだが、

なかなか精巧な物を造ってくれたのさ」

「百間川のエジソンさんって、

あのモーツアルトのお墓の地下に作った音楽堂で指揮をしている最中に、

強盗事件が発生したので、
指揮棒に仕掛けていた特殊銃で犯人の足を射撃したことで、 

海外の警察から表彰された人だよね」


「そうだよ。 

ちょっと奇想天外な発明家なんだが。

 なかなかいいところがあってね」


「あの人って、僕の母親まで造ってくれていたんだね。

 だけど、舐められた謎が解けてよかった。

 だけど、父さん。
もうあのロボットはないの」


「いや取ってある。倉庫の中だ。 

見たいか」


「うん」


 その夜。

 僕は、押入れの中の母親と再会した。

スマート・スマート(7)

題「黒の広場」

 

 

 これから我輩が、焚書を行なう。

 さぁ燃やせ。

 

 時の権力者による焚書が、

 今まさに行なわれようとしていた。


 権力者のお眼鏡に止まらなかった作品は全て
「黒の広場」へと集められて、

 今まさに火が点けられようとしていた。

 

 今日はその第一回目で、

 厳選された百八冊が投げ込まれた。


 ちなみに「黒の広場」とは、

 某公園に付けられた新名称で、

 中央に蟻地獄のような円形の穴が開いている強行裁判の行なわれる悪夢の地。

 

 さらにその穴は真っ黒をしている。


 本をショベルに積んだショベルカーが穴へと一振り。
 が、色とりどりの装丁をした百八冊は、

 どういうわけか、黒い穴に入って、しばらくすると、
 一冊、そして一冊とその姿を消していった。

  そう、落下した時点では、明確な色を持っていたにも関わらず、

(今の今まで色の確認ができていた)本達は、突然、消失してしまった?

もちろん、本の上に土は被せてはいない。

 

 これから火を点けようとする直前の出来事だっただけに、

 高台から見学していた権力者は、

「何事だ」
  そう叫んだ。


「私が見てきます」

 リーダー格の書籍審問官である黒衣の青年が、

 穴の方へと駆け足で向かう。

「閣下、何もありません。どういうわけか、投げ込んだ本はどこかへと消えてしまったようです」

 

「何だと!?」


 翌日。

「ありがとうございました。書籍審問官様。
これで良書たちを救うことができました。しかし、何故、本は消えたのでしょう」


「ええ。実はあの本のカバーには皆、温度により色の変わる特殊塗料を塗っておいたんです。

 いや、正確には急遽、前日にカバーの付け替えを行なっておいたんですが。
 一般にはサーモクロミック(オフセット)インキとかが知られていますが、

そういう特殊インキを扱うことで、穴の色と同化させたと言うわけです」

「そうだったんですが。しかし、温度変化はどうやったんです。

まさか、ショベルカーにも仕掛けを」


「いえ。さすがにそこまでは。実は、昨日の焚書儀式を行なう前、
まだ誰も人気のいない広場へと向かった私は、事前に熱しておいた黒土を、

ダンプにて秘密裏に運搬。投じておいたと言うわけです」


「なるほど、だから、本たちは、突如として色を変えたんですね!」

 

「ええ。それと、温度変化の設定温度にせよ、割と常温に近いラインに設定しておきましたからね、

色の方も比較的早く変化してくれたと言うわけですよ。

念には念をと思いまして、変色促進剤の方も混ぜておきましたが」

 

「審問官様、感謝いたします。それでは、次回の焚書イベントの際も、

この調子でお願いいただけますか。それが全国の書店員たちの願い。

その代表として、私から再度お願いいたします!」

「ご察しします。が、同じ手を二度、三度とは使えませんので、

別の手を考えてみましょう。努力してみます」

 書籍審問官、一礼。
 


「おしまい」
 パチパチチ。

「えーっ、本日は、百間川のエジソンさん作『黒の広場』の朗読会にお集まり下さり。ありがとうございます。さらに本人による朗読の方も楽しんでいただけたかと思います。

さらにさらに、本日は、このA書店本店にて、一日書店長も行なってもらいましたから、
このイベントに参加された皆さんは、きっとご満足していただけたのではないでしょうか?

いかがでしたでしょうか、皆さん」

 

第3回ブログ・ミステリー賞開催中!

題「ザ・パズル」

 

 

 風が吹いている。
 ミステリはミステラレ、
 ミステリアスな闇に隠れる前に、

 何か考える術はあるはず。

 

 探偵小説という型は、
 型ゆえに、小説の土俵の上では闘えないと言うのだろうか?


 その問いに対し、未来の人は言うかもしれない。

「型が脆弱だったんだ。型の完成を目指さなかったんじゃないのかい?
 何故?と考える人がもっと出ていれば、違ったかもしれないね」

 空耳が聴こえた。


 んっ?待てよ、それも一理あるが、型の問題だけだろうか?
 分類に関する問題って、型だけの問題だろうか?

 

 

 型だけなら、他ジャンルに受け渡し、
 一度崩壊してみた方がいいかもしれない?

 骨だけになって、何が残るか、それを知るために。

 一度、消滅すれば、皆が欲し、恋焦がれる時が来るだろう。

 誰もが忘れた「探偵」の名を。

 

 「そして、パズルはいなくなった」

 

 さて、この空っぽの館で、

 誰が、何故、何のために、いかにしてパズルを消したのか語り始めたとする。
 そう、彼こそ、彼こそが、名の無い探偵。
 世界に秩序を戻す救世主。

 

 ただ間違ってはいけないのは、

 世界を救う救世主ではなく、

 状況から原因を探り、そこで行なわれた事実を推測するパズラー。

 その役割におけるスペシャリスト。

 ただ、それだけの存在であることを。


 そう、それがこの世におけるパズラーの存在価値ではないだろうか?

(未来は未知数ながら)少なくとも現時点では。


 さて。現在。当サイトと、 司凍季 Blogでは、

「第3回ブログ・ミステリー賞」を開催中です。 

 

 

 皆さんの投稿、お待ちしております。

 私も下読み(コメント書き)と同時に投稿も致します。

 一緒に盛り上げていきましょう!