年末、セメスターは終わっていて、

昨年のこの頃は確か

どっかのアジアンマーケットで

そばをゲットできないものか

思案にくれていた筈だ。



思案に暮れている事自体は今年も変わりは

無かったが、考えている事は

昨年のそばを買えるか買えないか‥

なんて事より、トチったら

少々危険な伴う様な事だった。





12月の27だか28だか‥

正確な日付まで覚えていないが、


前回の内容の通り「旅」に出る為、


次郎と出発予定日の前日になって

ようやく行き先の話し合いを

タコベルにて行っていた。




行き先決めてなかったのだ。

出発前日になってもまだ‥


まあ、基本的にどこ行こうなんてのは

どうでも良い事ではあった。


コイツと2人でどっか知らない所へ行って

何か感じれればそれで良かった。






なので2人して何というか‥


こうしてミーティングの機会を

持ったは良いものの、

どこか他人事みたいな

テキトーなテンションであった。







「あーもうなんか‥

 取り敢えず行った事ないトコなら良いよ。

 上か左か右な。」







ミシシッピ州はアメリカの

丁度真ん中の下の方だ、地図で見ると。


そっから地図で見て

どっちに行くのかって意味だ。






「俺、右は行ったんだ。

 あん時‥あの‥ナミに振られて

 やけくそドライブで。


 上は‥流石にヤバくねぇ?

 冬だぞ今。

 雪とかヤバいだろ絶対。


 ‥左‥ねぇ‥」






左方面、行くとこまで行くなら

カリフォルニアとかロサンゼルスとかの

東海岸に着くのだが‥


何かこう‥旅行だったら良い所なのかも

知らないが、今回の「旅」の

コンセプトを考えると、CA‥ロス‥?


イマイチ‥言ったらアドベンチャー感に

欠けるものを感じて、

俺は気が進まなかった。




次郎も次郎で旅先に何を求めるかが

俺以上に超漠然としていて、

終始どこでも良いとしか言わずに

なかなか行き先は決まらなかった。






「取り敢えず‥見てみる?

 地球の歩き方、左方面で」






そう言うので、あー‥みたいに

適当に答えると、次郎は持ってきた

地球の歩き方をパラパラめくり出した。



なんとなく白けたみたいな気分で

次郎が無言でページに目を通す間、

外を眺めたり、カウンターの上の

メニューなんかをぼんやり見ていたら


イキナリ次郎が声を上げた。





「あ!!!RJヤバいよこれ!

 途中にグランドキャニオンと

 ラスベガスとかあるみたいよ左方面!」




「マジで?‥じゃあどっちかで

 年越ししてみるか!」







当時は何も知らなかったので

結構驚いた事なのだが、

東海岸の手前の方にあるのだ。


グランドキャニオンもラスベガスも。


片道で2000マイルくらい。


距離も丁度良い様に思えた。



どっちもザ・アメリカと言った感じだし

ネイチャー感もそこそこありそう。




「じゃあ左で決まりね。

 帰って準備しようか。」






次郎もようやく納得して

晴れて明日、最終目的地ラスベガス

という旅に出かける事に決まった。






生涯多分思い出として残る旅に

なるのだが、前準備はこんな調子で

相当いい加減だったのだ。


えてして案外そういうものなのかも

知れない、思い出のきっかけなんて。






タコベルを後にして

すぐに保存食(旅の最中の主食)を

買い込むべくウォルマートに向かう。


俺は日持ちのしそうなフランスパンと

一応の栄養源的にプチトマトを購入。


前回の旅行の時にお京さんが

サンドイッチを食べてるのを見て

美味そうだったので、

真似してみようと思った。


ハムとか日持ちしないものは

適当に買い足せばいい。



干し肉も欲しかったが

ここで買わずに、コンビニで

よく売っている好きな奴があったので

これも行きがけに買おうと思った。




次郎は‥前回に引き続き

コーンフレークのみを購入。

ストイックすぎやしないか‥







アパートに戻り、入り口の近くに車を停め

すでに真っ暗になっていたところで

旅の荷物の積み込みを始めた。


布団、着替えにカセット、CD‥食い物。

荷積みといってもその程度だったと思う。



そんな風にゴソゴソ暗がりでやってたら

ユッコが来て声を掛けられた。






「こんな暗い中何しとんの?

 夜逃げですか?」




「そうそう、東海岸の方に。

 ラスベガス行ってくる。」




「こっから何キロあんねん。

 相変わらず無茶しよんね。

 そろそろ痛い目見る頃やと思うで。


 あ、ちょう写真撮ろうや!

 生きて帰って来るかも分からんし」






次郎が丁度持ってたカメラを見て

ユッコがそう言ってきた。


なんて物騒なこと言いやがるんだコイツ‥


‥と言うかこんな自分ちの前で

記念写真の撮影もないだろ‥



‥と思って俺は断ったのだが、

何故か次郎は言われるままに

カメラをユッコに渡してしまい、


2人して腑に落ちない顔をした

暗がりでの2ショットが

唯一の出発前の記録として残った。



旅の途中に万が一があったら

日本のニュースでこの写真使われんのかな‥

‥などと不吉な思いがした。


出発前だってのに縁起が悪い‥









さて翌日、

たっぷり寝た後に昼頃‥

一応予定通りに学生街を出発した。


なんせこれから何日も車中泊である。


正直なところ、俺は車中泊では

あまり寝られないタチらしいので

寝溜めをしておくのに越した事はないと

ゆっくり目の出発にしたのだ。



あまり気負うような気持ちも無く、

「あーそろそろ行くか〜」なんて感じの

どことなく行くのが2人してダルそうな

‥まあ言ったら落ち着き目のテンションだ。



ウッキウキの大盛り上がりで

赴く様な旅行ではなく「旅」だ。


食うものまで節約しつつの

修行とかみたいな側面もあるイベントなので

自然とそうなってしまったのかも知れない。



大体からして今回の旅、

往復の距離を考えたら4000マイル以上‥

フツーにアメリカ大陸横断も出来そうな

長距離である。


パワーセーブしながらじゃないと

とてもじゃないがやってられない。








地図を眺めながらの協議の末、


俺たちはまずミシシッピから北上し、

街から6時間そこらで着くメンフィスを

目指す事に決めた。



最短でラスベガスに進もうとするなら多分

迷わず東進してダラスなんかを

まず目指すべきなのだろうが、


今回のナビを担当するのが次郎の為、

初めの方は比較的知っている道を通って

行く事にしたのだ。



何しろこの男‥

どういうつもりなのか知らないが、

運転の出来ない女の人より

地図を見るのが下手という

ヤバいところがあって、


お京さんとの3人旅の時にも

次郎のその辺のスキルがまるで

使い物にならず、止む無く

お京さんにナビを頼む事になる始末だ。




メンフィスからルート20ってのに乗って

ひたすら東進すれば、途中一度だけ

ルート40というのに乗り換えはあるものの

ほぼ一本道で、ラスベガスの近くの

アルバカーキという街まで

辿り着く事が出来そうに見えたのだ。


極力道間違えを回避する為の

メンフィスへの迂回である。





メンフィスまでは今迄何度か

足を運んだ事もあったので、

ほぼ予定通りの時刻に辿り着くことが出来た。



さあ問題はここからだ。


こっから先の東進は、ひたすら

一切通った事のない道の長距離ドライブだ。




栄えた通りから少し離れて、

停めやすい路肩に停車して

車内でまずは腹拵えを済ます事に。




‥いつだかに見た衝撃の光景‥


次郎はコーンフレークの箱を開け

おもむろに手を突っ込み、

そのままパリパリ食いだした。



栄養バランスはバッチリだろ!?

日持ちもするしさ!



‥などと、前回と寸分違わぬ事を

食いながらほざいてはいたが、

前も言ったがそれは牛乳ありきの

栄養バランスだ。



よりにもよって特に味気の無さそうな

プレーンタイプを選ぶものだから、


絶対にそれはトウモロコシを乾燥させた

パリパリでしかないぞお前‥と

何も言わずにいられなくなった。






「お前さ‥マジで帰るまで

 それしかずっと食わない感じ‥?」




「何またその話すんの?

 好きなもん食わせろよ‥

 しつこくない?」




「好きなんだ‥それなら良いけど‥」







流石に奴の健康が心配になり、

俺のプチトマトを薦めてはみるものの


「コレ(コーンフレーク)と

 会わないから要らない。」


などとほざき断りやがった。




途中で体壊されでもしたら堪らんぞ‥


‥と不安になったが、

コレより少しのちに意外な事から

俺も次郎も食事の栄養価を

爆上げ改善出来る出来事が起きた。


まあそれは後日詳細を書くこととする。







12月の終わりである。


アメリカ南部とはいえ、

この時期は普通に寒い。



時刻もとうに遅い時間になっていて、

街灯もない真っ暗な道に

ポツンと俺たちの車のみが

灯りを照らしていた。



冷たい風の音が聞こえていて、

この先の未知への仄かな恐怖を煽っていた




車の外でライトで照らされた

道の先を眺めながら、

長めにタバコを吹かした後に

少し気合を入れて言った。




「よし‥こっからだな‥行くか」





「はい、安全運転でお願いします」








この時俺たちは、既に足下に迫り来る

危険に気付けるはずも無く‥


ここから数時間後、早くも

危うく死にかける事となる。





つづく