不景気のため、退職率が下がり、会社にぶら下がるローパフォーマーが増殖中。人事部長たちが人事の裏側を明かす。
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■何の取り柄もない文系学生はキツいね
[化学] 昨年の12月1日現在の大学生の就職内定率が68.8%。1996年度の調査開始以来最低の水準と言われている。でも騒がれているわりに、上位校はむしろ状況がいいのではないか。大手企業は上位校に採用が集中し、逆に下位校は内定率がどんどん下がっているのが実態だ。うちも採用数が減少する中で、早い段階で上位校の学生を囲い込み、その中から絞り込む傾向になっている。
[金融] 上位校の学生がすべて欲しい人材というわけではないが、確率論として質の高い学生が下位校に比べて多い。うちは会社主催の説明会に参加しないと面接試験に進めない。エントリーした学生に対し、普通は一斉に説明会の通知を出すことになるが、最初からオープンにすると、わずか1日で定員が埋まってしまう。だから上位校の学生から段階的に通知を出して、席がそれなりに埋まってきたところでフルオープンにして募集をかけている。説明会に応募者全員を呼ぶ余裕がない。
[サービス] 今、大学側や経済同友会などは選考を8月以降にしようと言っている。もちろん教育上はいいかもしれないが、逆に下位校は後がなくなり、未就職者が増えるのではないか。
[IT] そう。現状の就職戦線は4月の選考で上位校中心に有名企業の内々定が決まり、ピークを過ぎた5月の連休明けから中堅・中小企業の選考に中堅・下位校の学生が参加するという構図になっている。仮に8月以降の選考開始になると、すべての大学が一斉に動きだすことになる。しかも、勝つのは上位校であり、中堅・下位校は後がないだけに、後ろ倒しの選考は避けたいという思いもあるようだ。
[通信] 上位校と下位校の二極化傾向だけではなく、学生の質自体も二極化している。企業のグローバル化が避けられないのに、日本の学生は、海外に行くのは嫌だとか、評価されて差がつくのは怖いから年齢で給料が上がっていく公務員がいいとかいう人が多すぎる。中国の大学に直接出向いて採用活動をしているが、たとえば北京大学の学生はものすごく勉強している超エリートで、会う人間すべてが日本の東大生と違ってハングリーなんだ。彼らと話していると、ああこのままでは日本は危ないなと思ってしまう。
[サービス] 海外拠点の拡大により、うちは去年から新卒にグローバル採用枠を設けている。選考では語学力はあったほうがいいが、絶対的な基準ではない。TOEICの点数が高くなくても、様々な国・人種の考え方を受け入れ、それを融合していけるセンスやスキルを持つ異文化受容力を重視している。日本人でも、海外の大学に留学していた人、幼少時代から海外に住んでいた人、あるいは日本の大学で留学生の受け入れ係をやっていたという経験など、いろんな異文化体験を聞いて見極めている。今、海外の売り上げ比率は4割弱だが、グローバル採用枠もそれに近い3割程度に増やしている。
[IT] 理工系はともかく、何の取り柄もない文系大学生はキツいね。うちは2年前から事務系総合職枠以外に財務・経理とマーケティングの二つの職種別採用枠を設けている。これは財務・経理やマーケティング知識など専門性を重視した、いわば即戦力採用だ。ただ、マーケティングをやりたいです、という人は採らない。
■新卒より手取りが低い部長
[金融] はっきり言って、昇進がますます厳しくなっている。最大の理由は国内の事業そのものが縮小傾向にあることだ。今後の成長性が見いだせない中で、自身の将来にあまり夢を持てなくなっているミドルマネジャーが多いな。
[化学] うちは組織の縮小・改編でポストも減少傾向にあり、ラインマネジャーから外されて部下なしのスタッフマネジャーが増えている。その分、ラインマネジャーの責任が重くなってきている。昔は部下に号令をかけて、俺についてこい的なやり方でよかったが、今は部下のケアからコンプライアンスまですべてラインマネジャーの責任として押しつけられている。しかも、近年は会社の方針としてプレーヤーは評価しない。ラインマネジャーはマネジメントに特化しろと言われている。でも、そう言われても自分自身のスタイルはなかなか変えられない。
[通信] マネジャーの役割が変化してきて8割が課長にすらなれない。スタッフに教えたり、任せてじっとがまんしていることがなかなかできない。部下を1から10まで手取り足取りして育てられないマネジャーはラインから外されている。今まで先頭に立ってチームをぐいぐい引っ張り、成績も挙げてきた営業バリバリのマネジャーは評価されなくなっている。それよりも現有スタッフをまとめ上げ、目標達成へのプロセスも含めて管理できるマネジャーが求められている。しかし、その上の部長たちはプレーヤー上がりが多いから相談しても、「スタッフの面倒をそこまで見る必要はないよ」と言われる始末だ。
[IT] リーダーシップの質が変わってきている。部下が失敗したら部下に代わって上司が謝罪することも給与に含まれていると昔は言われたが、今は謝罪して済むというような情状酌量で許される時代ではない。失敗したら即座に降格させる。実際にうちの会社でもそうしているが、もちろん、降格してももう一回上がるチャンスがある。これが機能しないと人事は活性化しない。
[通信] 責任が重くなり、結果を問われる優勝劣敗の時代になると、人事を活性化しようとするなら、当然、逆転人事なり復活人事なりをせざるをえないと思うね。昇格・降格をフルに活用しないといけない。
[金融] うちは典型的な日本の保守的企業の部類に入ると思うが、2年前から新制度を導入し、ずっとラインマネジャーをやってきた人をスタッフマネジャーに降ろすケースが増えている。等級は下げないので降格ではないが、それでも外された瞬間はショックだ。もちろん返り咲くチャンスはあるが、なかなか這い上がれないで鳴かず飛ばずになった人もいる。
[IT] うちは、あえて上のポストにつけてチャレンジさせる。ダメなやつは一度降ろして、よければ戻すということはすでにやっている。本社でダメなら関連会社に飛ばすが、そこで実績を挙げればもう一度本社に戻すことも珍しくない。入れ替え戦はしょっちゅうやっている。たとえば部長が10人いれば、3人上げたいので3人を降ろすというようにコントロールする。
[通信] うちは管理職に役割グレード制を導入しているが、役割変更という形で、バッサリと入れ替えている。だから降格はかなり多い。どのくらい上がって、どのくらい落ちるかといえば、部署によって違い、イーブンにしたりする部署もある。管理職は2000人ぐらいいるが、毎回350人は降格する。厳密に言うと500人上がって、350人下がるような感じだ。
[IT] うちは降格させるにしてもグレード(等級)を一つ下げるくらいだ。当然、処遇も下がるが、部長クラスだった人の場合、毎月の給料だと20万円は下がるだろうね。しかも毎月の給料がボーナスの基礎給になるので年収ベースで400万円ぐらいは下がることになる。
[通信] うちは管理職には業績連動給を導入しており、部長でもすごく業績が悪いと一気に下がる。毎月の給料の手取りが新入社員の手取りよりも低いというのが毎年一人はいたね。そうすると必ずその人から電話がかかってくるんだ。「仕組みはわかっている。でも、うちの新入社員の手取りは17万円だけど、俺の手取りは知っているよね、15万だ。これってどうなのかなあ」と。
[サービス] うちも以前、業績連動給にしていたからよくわかるよ。評価ランクがSABCDの5段階あるとすれば、前年のS評価だった人が、D評価になると20万円ぐらい下がる。そのほかに税金や社会保険料を引くとそういう現象が起こっても不思議ではないよ。
[化学] 最近は少ないが、グレードが2段階上がることもある。マネジャーが次長を飛び越えて部長に昇格すると500万円ぐらいは上がる。同じ部長でも毎年100万円ずつ上がる人もいれば、100万円ずつ下がる人もいる。下がるような人はいずれ降格させられるから、さらに下がることになる。
(人事部証言!代わりがきかぬ2割か、8割のその他大勢か[2]に続く)
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溝上憲文=構成
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