『EX MAX!』(ぶんか社)、『サイゾー』(インフォバーン)で取材をさせていただいた木村裕子 さん。


 そうした縁から、東海道本線全駅下車達成 の5日間にも同行取材させてもらえることになったのだが、帰京すると、彼女を待っていたのは新聞や雑誌、テレビの取材ラッシュだった。


 そして密着した私にも、彼女を取り上げたいと言う出版社やテレビ局から、再三


「木村さんのマネージャーではないことは重々承知しているんですが、木村さんの東海道本線全駅下車に密着したときの写真をお借りしたいのですが……」


 といった連絡が10社以上のテレビ局・出版社からあった。こういった連絡は、全駅下車に挑戦中のときからもあったが、東京に戻ってくると、数は急増した。それだけ、鉄ドル・木村裕子が注目されているということなのだろう。


 帰京後、東海道本線全駅下車の旅の写真を渡すために木村さんと一緒に出版社や新聞社を訪問するのだが、主役は木村さんなのだから、インタビューに同席してはいるものの、写真を渡せば仕事は完了。後はずっと黙っているだけ。


 木村さんと会話をするのも、出版社から出版社への移動のときぐらい。


 某日、電車に乗って移動していると、高架下に都電が見えた。

 鉄ドルとして活躍している木村さんだが、都電にはどうしえかあまり興味を示さない。まぁ、人それぞれ路線や車両への思い入れがあるわけだから、すべての路線が好き!というのも、逆にあり得ないわけだが……。


 京成町屋駅から都電を眺める


 木村さんを鉄道マニアの種類に分類すると、「乗り鉄」「車両鉄」ということになることは密着取材をしていたときからわかっていた。「車両鉄」の木村さんにとっては車両の種類が豊富であることは、かなり重要なことだ。


 現在の都電は7000形、7500形、8500形、そして新しく登場した9000形の4タイプしかない。9000形は一両しかなく、同じく一両しかない7000形の特別塗装された7022形を別枠計算しても5種類。たくさんの車両を見たい「車両鉄」として都電は物足りないだろう。


 しかし、私はどちらかというと、沿線に集う人々やそこから紡ぎ出される文化を都電を通して見ているわけで車両の種類が多いことにこだわりはない。



 同じ鉄道好きでも、こうした大きな違いはどこから来るのだろう?


 それは恐らく、鉄道と接した原体験、好きになった原風景にあるのかもしれない。


 木村さんは幼少時代に祖母との散歩コースに鉄橋があり、そこで行き交う列車を眺めた。大人になってもJR東海の車内販売員を2年間経験している。車内販売員は新幹線や特急にしか乗車しない。だから木村さんが新幹線や特急列車にシンパシーを感じることは、原風景・原体験をそのままトレースしてるわけで、当然のことと言える。


 私は取材で都電沿線を歩き回ったことから都電にのめり込むきっかけになった。その話はすでに、いろいろな雑誌で書いたし、このブログでも書いたので繰り返さないが、こうした原風景が鉄道を好きになるには必要不可欠なのだ。



木村裕子とワイドビューひだ

(東海道本線全駅下車時の一コマ。右後に見えるのはワイドビューしなのが撮影できなかったかわりのワイドビューひだ)


 

 鉄道ブームが起こり、「鉄道が好き!」と公言する女子も増えている。それにも関わらず、既存の鉄道マニアである男子が「ブームに乗じただけの鉄道オタクが増えた」と、喜ぶよりも嘆き、鉄道好きを公言するタレントを糾弾してしまうのも、こうした原風景に裏打ちされた「何かが」ないからなのだろう。


 胸の中で育ててきた大事な原風景を軽々しく他人に踏み荒らされたくないという郷愁めいた思いが、既存の鉄道マニアにはあるのかもしれない。

 だが、一部のマニアの趣味が、市民権を得て一般にも浸透することは、そうした洗礼を受けなければならないこともまた事実なのである。


 木村裕子さんと、鉄道マニアの原風景を求めて鉄道博物館を訪問した記事が掲載される『R25』(リクルート)は10月25日の配布です!