男の子は例外なく鉄道が好きだ。

 一度ぐらいは、運転席に座って電車やバスを自分の思うままに動かしたいと思ったことがあるだろう。


 路面電車は、ほかの鉄道とは違って運転席が手の届くような距離にある。

 だから、最前列に座れば、乗客は運転士になったかのように感情移入できるわけだが、やはりと言うべきか、子供たちも運転士気分を味わいたくて、運転士の真後ろに陣取って、じっとマスコン捌きを見ていることがある。


 以前、終点の早稲田まで用事があって都電に乗車すると、二人の小さな乗客が最前列を占領していた。

 幼い兄弟は、フロントビューを独占し、巧みにマスコンを操る運転士さんになりきったかのような仕草をしていた。傍らでは、兄弟の祖母と思しき老婆が、「もうすぐ降りるよ」と声をかけていた。

 

 しかし、兄弟にとっては都電はどこかに移動する手段ではなく、あくまでも乗車して楽しむものだった。

祖母がかけた声に、「もっと乗る」とだだをこねて、祖母を困らせ、結局は3駅ほど余分に乗車してから下車していった。


 自動車のハンドルとはまた違う路面電車のマスコン。

 こうした鉄道好きの子供たちが18歳になって、自動車免許を取得する時に、果たして「路面電車は通行の邪魔だから、撤去せよ!」と言い出すことなく、むしろ「都電は自動車よりも優先して道路を走るべし」と言ってくれるだろうかと思うのだった。


 

都電の運転席


二人のチビちゃんたちは、祖母に手をつながれて電停に立ちながら、今乗ってきた電車を見送っていた。