ご覧ください……
春日和で、とてもすっきりとした青空の下で…
大きな、とても大きな桜の木がある。
それは、とある村にある…
風音の丘[かざおとのおか]という丘にあり…
村民からは、御神木、御神桜とも崇められて…
村民からは大事にされている。
そして別名[フウネヒメ]とも呼ばれている。
そのフウネヒメ…
いや、わたしは…
村民からは、フウネヒメと呼ばれているが…
わたしは、ただの桜の木である。

このわたしには、とても仲の良い人がいる。
その人とは、今から80年前のこと…
この、わたしの前で…
「あぁぁぁーうぅぅぅぅー」
「うっ、産まれそうか!?今すぐに産婆さん呼んでくるからのう!!」
と、産婆さんを、お父さんが呼んできて…
産声をあげた、その子、その人は…
わたしの仲良しである「フネ」である。
「フネ」という名前は、大体分かるとは思うが、何故その名前になったかというと…
わたしの前で、フネのお母さんから産まれてきて、女の子で…
わたしの名を入れたいということで…
わたしは別名のフウネヒメから、フウネでは、わたしにご迷惑ということで…
「ウ」を取って、「フネ」と名付けた。

そのフネは、すくすくと成長していき…
フネが6歳になった時…
その日、わたしところに会いに来ていて…
「ねぇ…、フウネヒメ。おだんごつくってあげようか?」
そうフネは言うと、わたしの近くにある泥を取りに行き…
「フウネヒメに、いっぱいいっぱいおだんごつくってあげるからね。ちょっとまっててね。」
と、1個…、2個…、3個…、と、次々と作っていき…
「ああ~、つかれちゃった…。でも、フウネヒメのために、もっともっと…、いっぱいいっっっぱぁぁぁーい、つくらなきゃね…。」
と、すでに…、20個は泥だんごを作ってはいたが、フネとしてはまだまだ足らないみたいで…
フネの手と顔は、泥でかなり汚れながら…
わたしのために…
64個の泥だんごを作ってくれた…。そして…
「ふぁぁ~ん。ねむたくなっちゃったから…、おうちにかえるね…。フウネヒメ…、またね。」
フネはヨタヨタしながら、帰って行った。
で、わたしとしては…
泥だんごを作ってくれて、嬉しいのだが…
……………。
有り難く思わないと、バチが当たるな…。
フネ、ありがとう。
それから更に成長していき…
フネが18歳になったある夜…

その日、わたしのところに来て…
「フウネヒメも見てるよね?あの綺麗なお月さま…。」
わたしは確かに見ている。綺麗な月だ。
そして…
「あのね…、フウネヒメ。私ね…、お見合いすることになったんだ…。」
そうか…、フネはそういう歳になったのかと、桜のわたしは思い…
「私大丈夫かな?当然こんなことは初めてだし…、緊張して、相手の人に迷惑をかけないかなぁ…。」
フネは下を向きながら、小さな声で言った…。そして…
「だけど、何とか精一杯頑張ってやりたい。その精一杯頑張っていけるように、フウネヒメに力付けてもらうために、お願いしに来たんだよ。」
そしてわたしに額をつけて…
「フウネヒメ…、私を見守っていて下さい。宜しくお願い致します。」
フネは力強い声で、わたしにお願いしてきた…。
フネがわたしに対して…、敬語をつかって…
ここまでのことをしてきたのは…、
今までで、初めてのことだった…。
それから数日後…
フネが明るい笑顔で、わたしのところに来て…
「フウネヒメ。私を見守ってくれて、ありがとう。私…、お見合いがうまくいって、結婚することになりました。」

「フウネヒメに、すぐに報告がしたくてしたくて…、本当にありがとう。」
そしてその後から来た…
「フウネヒメ、フネさんを幸せにしますので、これからも、私達をどうか見守っていて下さい。」
フネの夫となる人からも、報告とお願いがあった。
それから、フネとフネの夫との幸せな結婚生活の日々は続き…
結婚してから2年後…
二人に女の子が産まれて…
そしてそれから2年後に…
次は男の子が誕生した。
フネとフネの夫に、長女と長男が居て…
家庭円満の日々の時の流れが過ぎ…
どんどん時は流れ…
その長女と長男共に結婚をして…
長女夫婦にも、長男夫婦にも…
子供が産まれて…
フネとフネの夫に孫ができた。
それから時は流れて…
フネが78歳になった時…
フネは、病気を患って、車椅子生活をしていた…。
そして、娘に車椅子を押してもらい…
わたしのところに、会いに来た…。
「フウネヒメ、会いに来たよ…。」
「フウネヒメ、こんにちは…。」

「フウネヒメのところに来ると…、本当に気持ちが優しくなるよ…。」
「そうだよね。私もお母さんと一緒で、気持ちが優しくなるよ…。」
そしてフネは、わたしを下から上へ見上げて…
「ねぇ…、フウネヒメ…、私はあなたのそばで産まれて、あなたと一緒に生きてきたね…。」
そして、フネは満面の笑みとなり…
「私達…、さくらんぼだよね。」
「アハハ、お母さん何言ってるの?」
「フウネヒメと私は、さくらんぼの二つの実で、いつも一緒で、繋がっているってことだよ。」
「そういえばそうだよね…。お母さん、フウネヒメ、笑ったりしてごめんなさい…。」
「別に謝ることではないよ…。ウフフ」
「じゃああれだね…、フウネヒメは当然の桜なので…、さくらんぼなら…、桜って漢字に変えて…」
「桜んぼかい。」
「ちょっ、ちょっとお母さん…、先に言わないでよぉ…。」
「良いね、本当に…、フウネヒメと私は、桜んぼだね…。フフ」
と、二人は笑いながら話をしていたが…
「ねっ、ねぇ…、フウネヒメ…。」
フネは、それまで明るかったのが…
急に声を震わせ…
目に涙を浮かべながら…
「わっ、私は…、このように…、大変な病気で…、くっ、車椅子に乗っているよ…。私はおそらく…、長くはないと思うんだ…。」
フネの目からは…
涙が流れて出した…
「だから…、だっ、だから……、ごっ、ごめんね……。フウネヒメより先に…、あの世に逝くよ……。」
「おっ、お母さん。やっ、やめてぇ。そんなこと言わないで……。」
「ごっ、ごめんよぉ……。もっ、もう……、私は体が辛いんだよ……。」
「おっ、お願いだから……、言わないでよぉ……、そんなことぉ……。」
「なので…、今日がフウネヒメと会うのは最後になると思う……。」
「お母さんいい加減にしてよ…。私怒るよ…。」
フネは泣きながら…、娘は怒り泣きながら…
そして………
「フウネヒメ……。長い間……、私の支えになってくれて……、本当の本当に……
ありがとう……
これからも元気に生きていってね……
さようなら………。。。。」
その言葉の通りで…
その後は二度と…
わたしのところに来ることはなかった…。
そしてそれからフネが80歳になった年に……
フネの娘が、わたしのところに来て……
フネの死去を伝えにきた。
そして、今年も…
わたしの桜の花は…
満開となった。
当然、わたしには…
人のように…
涙を流せないが…
わたしの感情表現は…
フネ……
フネと一緒に過ごすことが出来て……
楽しかった……
わたしこそ……
本当の本当に……
ありがとう……
あの世から……
わたしを見守っていてね……
桜んぼとして……。。。。。。
