小説『おやじたちの夢』46

3、活動の動き急

2人で民謡居酒

茨北総合建設の創業者野原海人、息子で2代目社長陽介が会った夜。

2人は民謡居酒屋『いさりび』で一献。

店内は全国の民謡が流れ、棚にはズラリと銘酒。

壁にはなぜか大漁旗、さらに提灯が灯りを灯す。

木材のテーブル、イスも心地よい。

スタッフ全員ハッピ姿。ムードを盛り上げる。平日だというのに常連で大賑わい。

「きょうは素晴らしい1日だった。お互い少しは気心を理解できた。

そして、最後に酒を酌み交わす。久しぶりに。いつ以来だったかな」。

「今年の正月以来dふぁよ、父さん」。

「そうだったかな。時がたつのは早いな」。

 

季節は初冬。

こんな夜は熱燗に限る。2人は美味しい酒が進む。

「なあ、陽介。1つ聞いていいかんさ」。

「なんだい」。

「お前、覚えてるか。

富山市長が高齢者にやさしいまちづくり宣言を進める署名をお前に頼んだとき。

お前はにべもなく断った。あれはどうしてだ。

内容がまずかったのか。それとも何か・・・」。

「うん。企業は政治に首を突っ込んじゃだめだと思って。

それで、父さんの頼みだったけど断った」。

「そうだったのか」。

野原はちょっと寂し気。

 

たった一度の教訓

「ねえ、父さん。覚えてるかな」。

「なんだ。今度はお前の番か」。

「父さんが社長でバリバリやってたとき。いろんな政治家が選挙のたび、あいさつにきて。

“支援してほしい”、“推薦状をお願いしたい”って父さんに迫った。

しかし、父さんは決して応じなかった」。

茨北総合建設は地域のトップ企業。各方面からの信頼もある。

社員数人400人。家族、下請け、関連会社を含めると政治家にとって心強い。

国会、県議会、市議。そして知事、市長選まで選挙のたびに候補者が日参。

あれやこれや人脈を使って近寄って来た。

これに対して野原は会うことはしたが、それまで。

いつしか『あの社長は落ちない。だめだ』との評判が定着した。

 

理由を聞いたおれに何と言ったか。覚えている?」。

野原は考えこんでしまった。

「父さんがたった一度、おれに言った教訓だよ」。

「すまん、陽介。そんな大事なこと思い出せない」。

「だと思った。

父さんはこう指摘したんだ。

自分は経済人。地域発展には協力を惜しまない。

でも政治ちょは一線を画す。

経営者が政治家と関係をもつのは良くない。

政治家を頼ってしまう。こうなったらお終い。経営そっちのけで政治家とつるんでしまう。

自分が偉くなったような気になってしまう。

いいか、陽介。経営者は』謙虚でられ。

父さんは厳しい顔でそう言ったんだ」。

 

市を応援するから長

野原は穴があttら入りたい気持ちに。

「そんな偉そうなことを口にしたか。すまんかったほんとに」。

「謝ることなんかしなくていいおよ。

あれそのとき思ったんだ。父さん、かっこいいと。

口にはしなかったけど、あれから父さんを尊敬するようになった。

おれも政治には首を突っ込まないようにしてきた。

あの富田市長に会うまでは」。

陽介rは意味深なことを言った。

おやっと思う野原。

「陽介、富山市長に会ったのか」。

「うん。10月下旬に会った」。

「そうか。で、どうだった。あの市長さんは」。

「うん。普通、アポを取ってから来るよね。でもあの人は違った。

急に思いついて朝、いきなり一人でやって来てね。こっちが驚いた。

それで、いろいろ話して。理解しあった。

父さんの教訓はその日で終わり。おれは市長を応援するから」。

陽介は言い切った。

(つづく)