雨は降っていなかったが、雲が出ていた。
それでも、空が高くて
ところどころ青い。それに暑い。
駅に向かう人の群れは
制服の学生とか
スーツ姿のサラリーマンとか。
その流れに逆らって、ゆっくりと
歩く。
右足と左足を
交互に前に出す。前進する。
前進している、あるいは前進していると思われる。
間違っても、後退していてはほしくない。
昨日よりも今日、
今日より明日が、
少しだけ、ほんのちょっぴり
前進していればいい。
家の近くの都立高校の
すぐ横に
トウモロコシ畑がある。
もうすでに、刈り取られたとうもろこしの木は
無残に倒れ
茶色く枯れていた。
それを横目に歩いていると、
ガツンと急に
目の前が真っ暗になった。
電信柱の横の『前方注意!』とでかでかと書かれている
看板に
見事にぶつかった。
注意深く生きる事に、意味なんて無い。
いつだって、注意しなければいけないことは
そのあとに注意すべきだったと気付くものだ。
だから、注意深く生きる事なんかに
ちっとも意味なんてない。
もし、注意深く生きるならば、
『前方注意!』の看板の1メートル手前に
『前方注意!の看板に注意!』さらにその1メートル手前には
『前方注意!の看板に注意!の看板に注意!』の看板がいる。
トウモロコシ畑の横の、都立高校のとなりの一本道に、看板は途方もなく延々と続く。
それを想像すると、
やっぱり、注意深く生きる事なんかに意味は無いんだと
南の空の雲の隙間の青い空を見ながら
もう一度、しみじみと、しつこいくらい
思ってみる。