エピソード5
その時、私は同じ考古学博士の妻とメキシコで恐竜の化石の発掘をしていた、新しく発見された化石はほぼ完全なものであった。発掘作業は最終段階にはいっていた、化石は研究室に運ばれ入念な分析調査が行われていた。
ある日、研究室に戻るとキャサリンは呆然と化石を見つめていた。
この化石は今までとは違う特別なもののような気がしていた。
「リチャードこれ見て、理解できないわ」
化石の一部分が他の部分と違っていた。
「なんということだ」
黒ずんだ小さな点が僅かに見える。
化石の大腿骨に小さな焼け焦げたような部分があり、その中に小さな2㎜くらいの黒い球体を発見する、それは隕石のようにも見える、その球体は骨の中に食い込んで周りの骨は焼け焦げて炭化していた。その化石のあった地層は 6,550万年前の地層である。その球体を分析するために、洗浄して、焼け焦げて炭化した外側を慎重に削り取っていくと、中から1㎜ほどの白っぽいセラミックか金属のような球体が出てきた、それは全く初めて目にするものであった。
分析機にかけて調べて見ると、その球体は完全な球体をしていて、重量は体積に比べて極めて少なく、その成分はイリジウムを多く含み、他の成分は地球にはないもので出来ていた。X線透過顕微鏡装置で分析すると内部の構造は複雑な形をしているようであるがそれ以上のことは分からなかった。その年代にセラミックの工業部品のようなものはあるはずがない。専門の研究施設に送って分析するために、球体を保存容器に厳重に保管して、研究室を出た。
翌日の朝、研究室に来て容器を確認すると確かに保管したはずの球体が見当たらない、直径1㎜ほどの物なので、研究室の隅から隅まで徹底して念入りに探してみたが、3日間探し続けても見つけることはできなかった。研究室から出て行くことは考えられないことだが、不思議なことにまるで蒸発してしまったようであった。それから一週間ほどして、寝ていると夢に白く光る球体が現れる、変な夢を見るようになった。研究仲間に相談すると、ドクターを紹介された、私は検査のため入院した、健康診断のデータでは、まったく異常はなかった、けれども、症状はひどくなる一方で、睡眠不足に陥った、脳の障害が疑われたので、頭部のCTスキャンで詳しく検査すると、耳の中、鼓膜の近くに1㎜ほどの小さな球体のような物が発見された、それは研究室から消えた球体に間違いなかった。摘出の準備がされ、摘出は無事に終了してその球体は安全な所に保管された。それから退院してもまだ症状は改善されなかった。
摘出された球体を再度調べるてみると、中心部には以前になかったたいへん小さな空間のようなものと表面に続く一本の線が発見された。この変化は何を意味するのかまったく分からなかった。
それから一週間ほどして、深い眠りについていた時、突然に頭の中に白い閃光が広がり、金銀宝石が眩しく輝いて飛び散るような、激しい無数の色彩で大きな光の渦に包まれる夢で起こされた。
妻が驚いたようすで私の顔を覗き込んでいる。
「リチャード、どうしたの?」
「変な夢を見た、大丈夫だ、キャサリン」
その時の二人の表情はお互いに、今まで見たことはなかったものに違いなかった。
キャサリンとは学生時代から考古学の研究を一緒にして来た。二人は何かを求めて長いあいだ研究をしているけれども、その答えはまだ影すら見えない。
その直後から、時々、夢の中にムーンストーンのように白く光る球体が現れて、その球体はどんどん大きくなって、その中に引き込まれ光に包まれると、いろいろな意味のわからないたくさんのイメージが、フラッシュで瞬間的に照らし出されるようになった。
その時の夢は一瞬の光の中に、わけのわからないぼんやりとした、たくさんの場面が見えた。それは次々と断片的にフラッシュで一瞬一瞬に映し出されるようなものだった。自分が今ここに居るのも、周りのものも、何かに突き動かされて、集められて来た、さらに何かを求めて何かが動き出しているという思いが湧き上がるのを感じた。
それから日が経つにつれ、私は今までとはまったく違った興味に惹かれて行くようになった。20年以上考古学の発掘と研究をして来て、いまだに未解決の問題の先が見えて来ない。生命進化の多くの仮説は動物と人類の繋がりを発見出来ていない。それは哲学や神学の領域になってしまっている。そして化石の中から出てきた球体は私の専門分野を超えているものである 。けれどもその球体な確かに化石の中から出てきた、後世に化石の中に入り込むことは考えられない。その化石の恐竜が生きている時に、打ち込まれた真っ赤に焼けた銃弾のようなものが周りの骨の組織を焼きただらせ炭化させていた。それを発見したのは私であり、なぜ私なのかと思った、他の発見の時には感じないことであった。
これまで私は妻と共に、自信ある決断で人生と自分の研究を進めて来た、良きパートナーとして、お互い認め合い問題を解決し生活して来た。けれども、初めて自分がどこに行ってしまうのか、今までにない不安を感じていた。
「キャサリンはどう思う?」
「あなたに出会った時のようね」
「やっぱりな、僕もそう感じたんだ」
なぜ私なのか、考古学者はたくさんいる、このような発見がされた例はない。一つの使命感のようなものが湧き上がるのを感じた。
化石の中からあの球体を発見してから、今までになかった妙なことが起きている、それまで考えつかなかったことを考えるようになっている。
キャサリンはそれまでの私と違うことに気づき始めて、私に今まで以上の興味を示しているように、科学者の目を私に向けてきているようであった。
「何があったの?」
「それが、あの日から自分が何処に行ってしまうのか、不安なんだ」
共に研究をして来て、一向に先の見えない研究に何かの大きな変化が起き始めたことをキャサリンは感じた。
二人は学生時代から同じ研究テーマを持ち良き研究パートナーとしてお互い支え合って、時々論争を戦わせて来た、不思議にも感情的になることはほとんどなかった。
カナダに留学している娘から、久しぶりに手紙が来た。電話はよくあるが、手紙は珍しい。そこに書かれていたことは、夢の話しで、不思議にも私が見た夢ととてもよく似た話しであった。私をたいへん心配して、私が何処かに行ってしまうのではないかと、書いてあった。
私達夫婦は発掘と研究に世界を飛び回り、親らしいこともあまりできなかった、娘は考古学に興味を示さず、独立する自分な道を探して歩んでいる。なぜか急にキャサリンよりも私が気にかかるようになったらしい。
今までにないお互いが引き合うものができたような気がする。