
小学生の頃、父に連れられて学生野球を見に行った。
入場口で父がチケットを買うのを待っていたとき、
誰かを待つようにたたずむ、その人を見つけた。
なんて綺麗な人なんだろう。
生まれて初めて、大人の女性に対して感じた憧れのような感情。
そのとき、私は父のお下がりのカメラを持っていた。
きっともう二度と会えないこの人を、せめて写真に残しておきたい。
――写真を撮らせてください。
何度も心の中で反芻するけれど、声にすることができない。
カメラを手に、その人を見つめて逡巡していると、
バットケースを提げたグラウンドコート姿の青年が声をかけてきた。
「あの子の写真、撮りたいの? 撮ってやるよ」
彼はそう言って私のカメラを手にすると、その人に
「よぉ」
と軽く声をかけた。
「はい、チーズ」
その人は、突然のことにとまどったような表情を見せたが、
青年は構わずシャッターを切り、カメラを私に返してよこした。
「ちょっと何、今の」
その人は彼に歩み寄って笑顔を見せ、二人は親しげに話し始めた。
お兄さんか弟なのかな。
それとも……
その人の横顔を見つめていた私のもとに戻ってきた父は、
そんな私の様子に気づきもせず、私の手にチケットを握らせると、
すたすたとスタジアムの中に入っていってしまった。
しかたなく父の後を追う私に気づいたその人が、
一瞬何か言いたげな顔を見せたのがわかったが、
そのとき私は、なにか言葉にし難い恥ずかしさに包まれて、
振り返ることができなかった。
その後も奇妙な緊張感に苛まれていたせいか、
試合の内容はほとんど記憶に残っていない。
ただ、写真を撮ってくれた青年のタイムリーが決勝点になって、
彼のチームが勝利したことは覚えている。
それがまた、なぜかやけに恥ずかしかったのだった。
試合の後は、もう一度あの人に会えるかもしれない、という淡い期待と、
むしろもう会いたくない、という感情がないまぜになって、
早々に帰路についてしまった。
そうして、私の手元には、一枚の写真が残った。
今でも、あのスタジアムの前を通りかかると、
あの人にまた会えるような気がして、
嬉しいような、照れくさいような、
懐かしい感情に襲われるのだ。

model:月島冬禾さん
写真をスマホのアプリで古い感じに加工したらこういう雰囲気になったので…
全てフィクションです念のため。
ていうか微妙にぴゅあを引きずっている感←
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