「公平、あんたは優しいから、悪い女に騙されやすい。内地に行っても気をつけるんだよ。

特に酒場で働いている子は男に慣れているから。お酒はほどほどにね。」

 

 

 

 

おばあちゃんごめん。その約束、守れそうにもないよ。

 

本日4件目のスナックで自分より若い女の子とカラオケをしつつ、二年前、就職で地元を離れる時に祖母に言われたことを思い出していた。

 

 

 

 

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「良い感じの大学を卒業して 良い感じの企業の研究職に就いて 良い感じのお嫁さんをもらい 良い感じに生活したい!!」

 

 

なんて幸せな夢を見ていた時期が俺にもあった。

 

 

学生時代の俺は、恋愛事には縁が無かったものの、成績もそこそこ良く、友達(男)も多く、今の時代には珍しく「学校楽しい!!」と思える人間だった。

 

「玉木」という苗字から、周囲からは「たまちゃん」と呼ばれ

最初はそんなあだ名が嫌ではあったが、卒業する頃には自分の名前を呼ばれてもしっくりこない程度には好きになっていた。

 

早く働きたくて仕方がなく、就活の時も心躍らせながらエントリーシートを書いたものだ。

 

 

 

学校を20歳で卒業し、念願叶ってピカピカの新社会人!県外での新生活、期待しかないぜ!!

 

 

 

 

充実するはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それなのに…

 

 

 

 

 

 

なんだこのザマは!!!

 

この街の性比どうなってんだ??アラブか?もしくはカタール??と思うほど男しかいないし

街中歩いてたつもりなのに油断するとすぐ山奥のド田舎に突入して抜け出せなくなるし

残業ばっかりで生活不規則になるし近くに友達どころか同い年もいないし…

 

 

 

 

21歳。

その若さが、周りから子供扱いされることに不満を感じると同時に、唯一の救いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「近頃の若者は…!!」 から始まりそこから延々と過去の武勇伝を話し始める上司はどこの会社にもいると思われる。

 

噂には聞いていたが実際に目の当たりにすると「こ、これか…!!」となぜかテンションが上がる。

 

新入社員というものは組織の中の最底辺であり、自分の基本情報を根掘り葉掘り聞かれ、ちやほやされるのは1週間だけ。

それ以降は「まだまだ使えないなコイツ」と、言われずとも肌で感じることが多々ある。

 

 

入社して数ヶ月目も仕事の要領がまだいまいち掴めず、少しでも失敗する度に罵声を浴びせられた。

休憩時間もほとんどなく、毎日残業続きだが眠れない日々。

 

学生時代はストレスなんて感じたことがなかった。

今になって知る。「これがストレスか」と。

 

 

食欲も湧かず、体調にも悪影響が出てきた。吐き気を催し手足の痺れが止まらないこともあった。

休日はだらだらと過ごすだけの日々。

 

 

 

なにより精神的負担になるのが 飲み会 である。

厳密に言えば新入社員半年目くらいの飲み会はまさに地獄。

 

お酒は好きな方だ。しかし会社の飲み会。出てくる話題は仕事の話ばかり。

 

 

仕事が少し身についてきた頃からの飲み会は、上司からグチグチと文句を言われ、

「だからお前はダメなんだ!!」となぜか人間性まで否定される始末。

 

 

そんなやかましい酔っぱらい上司には、焼酎水割りと見せかけて水の水割りを注いでやるのが最近のストレス発散だ。

もう透明な液体だとなんでもかんでも焼酎に見えてくるのだろう。水で酔いが進んでいる。

 

 

 

さらに新人は3次会まで連行されるのがうちの会社のシステムだ。

そして3次会は主任の行きつけのスナックと決まっている。

 

 

 

 

まだ年末は先のことなのになぜか行われた忘年会。

その日もまた問答無用で連れてこられてしまった。

 

 

 

俺を含めて4人の3次会。

主任を含めた上司は皆、俺の親父と同じくらいの年齢だ。

 

もう俺も店員にも顔を覚えられている。

 

 

「あら~~!!たまちゃ~~~ん!!元気してたぁ??」

 

 

 

55歳のスナックのママ。色気全開でベタベタ触ってくる。近い近い。

この店に若者が来ること自体珍しいらしく、すごく気に入られてしまった。

髪色は目がチカチカするほどのオレンジ。俺の給料じゃとても買えなさそうな高価なドレス。

そして匂いが店中に広がる香水。

 

俺は笑顔で軽く会釈した。

 

 

そこから1時間半ほど上司達の取引先への愚痴を聞き、その店を出た。

 

 

 

店を出るときは必ずママがお見送りをする。

 

「ありがとうございましたぁ。 たまちゃん、また来てねっ」

 

文の最後にハートマークがついてるんじゃないかと思うほどのラブリーなトーンで見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

店を出ると、あんなに騒がしかった飲み屋街から、人気が一気に無くなっていた。

 

3次会まで付き合ったがまだ物足りず、俺は「もう帰ります」と嘘をついて一人で飲み直すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日を境に、いやその店を境に、俺の社会人生活が少しずつ変わることになる。

 

 

 

 

夜風が冷たい。

 

 

そろそろ11月が終わろうとしていた。