変化さんとスケジュールを立ててから、1ヶ月は経っただろうか。

変化さんとは、相変わらずいい距離感のまま。

本当はもっと触れ合ったりしたいけど、変化さんは私の夢を叶えるためにいるわけだし。

そう思うと我慢するしかなかった。変化さんの本当の気持ちが見えないままでは。

そのこともあって、私は仕事に全力を注いだ。

今まで、仕事をお座なりにしてきたわけじゃないが、今まで以上に頑張った。

変化さんと立てたスケジュールを達成するため。そして、変化さんに向ける自分の気持ちをかき消すように。

「宇野さん…」

「ん？」

「なんだか…最近頑張りすぎな気がします。」

「…そうかな笑いつも通りだよ？」

柴田くんにそう声をかけられた時は、頑張れてるんだ、周りからもそう見えてるんだと嬉しくなった。

「いつも以上に仕事に…なんていうんでしょうか…」

力が入ってるってことだろう。

「土日の出勤もいつも宇野さんが出てますし…体壊さないか心配で…」

「大丈夫、大丈夫！やりたくてやってるから。」

「そうですか…」

「…私ね…叶えたいことがあるの。」

「目標ってことですか？」

「うん。」

柴田くんは心配そうに私を見つめ、パソコンのキーボードに視線を戻した。

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「はい、みんなお疲れ〜。今日、花金だし、飲みに行くかぁ〜。」

部長の一声で、部署のメンバーで飲みに行くことになった。

まぁ、今週の土日は久々に出勤ないし、ごほうびがてら飲むのもいいだろう。

「宇野さん…始まりましたよ…部長の花金誘い…」

「これは仕方ないことだから、観念して行こう。櫻田さん笑」

「はーい…」

「あっ、櫻田さん。展示会ありがとね。ずっとお礼言うの忘れてた…1ヶ月くらい前になっちゃったね笑」

「宇野さん、忙しそうだったので、私も声がけできずにすみません！どうでしたか？」

「最高だったよぉー！櫻田さんのおかげで新しい目標も決まったし…」

「それは良かったです！目標って、なんですか？」

「まだ内緒っ。」

「えぇ〜笑」

あからさまに残念がる櫻田さんが少し変化さんに見えて、知らず知らずうちに口角が上がってしまった。

「あっ、そういえば、どなたといったんですか？」

「ん？変…あっ、友達だよ。友達もすごく喜んでた。」

「それは良かったです！」

佐藤さんと柴田くんに急かされた私たちは、急いで会社を出ることにした。

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かんぱーいっ！

少し経つと、恒例となった部長の絡みに、佐藤さんと櫻田さんが餌食となっている。

「また始まったね…笑」

「そうですね笑」

それは他人事ではなく、その後、私と柴田くんもしっかりと絡まれた。

そして、部長の話がつまらなすぎて、私はいつも以上にお酒を流し込んでしまったのだった。

「あの…宇野さん。」

部長の絡みから解放されて、柴田くんが話しかけてくる。

「ん？」

若干頭がフラフラする。

「…酒の勢いで聞いちゃいますけど。あの…彼氏とかいるんですか。」

単刀直入な質問だった。一緒に出かけた経験のある今では、彼らしいと思う。

「…彼氏かぁ。いないって言った方が…いいかな笑あっ、でもね…」

「…」

「好きな人はいるよ…。ずぅーっと、隣で支えてくれてる人。…付き合ってないけど笑」

「…そうなんですか。」

お酒が回っているせいか口が止まらない。

「…一緒に住んでるんだけどね。その人、どう思ってるのかなぁ〜私のこと…笑」

変化さんは私のことどう思ってるのかな。

たまたま私だっただけ。たまたま私が変わりたいと口にしただけ。

「…そんな曖昧なやつ、…やめたほうがいいですよ。」

「…そんなこと…」

「あっ！宇野さんっ！！」

櫻田さんが私に呼びかけてくれたときは、すでに遅し。

柴田くんとの会話の途中で、私は眠りについてしまった。

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「お前らは、２次会くるよな？」

「えぇ〜」

「おい！佐藤！強制参加！櫻田も来るよな？」

「えっ、あぁ、はい…」

「柴田〜、宇野をよろしくな！うちのエースなんだから、大事にしろよ！」

部長は満更でもなく、櫻田さんと佐藤さんは地獄にでも連れて行かれるような顔で２次会へと向かった。

「言われなくても、大事にするわ…好きな人なんだから。」

「う…」

「宇野さん、大丈夫ですか？家どっちでしたっけ？」

「ん〜、あっち…」

飲み会の半分を寝て過ごした宇野さんを立ち上がらせるのにだいぶ時間を使った。

宇野さんは若干具合が悪そうで。

こんな時に不謹慎だけど、酔った宇野さんは色っぽい。

何より俺の腕に包まれているのが宇野さんだなんて、夢みたいだった。

…キスの一つでもどさくさに紛れてしてしまおうか。

でも、宇野さんの好きな人がいるといった時の嬉しそうな顔を思い出すと、そんなことできるわけがなかった。

「はい…着きましたよ。」

「ありがとぉ…」

「鍵ありますか？」

「空いてるから、大丈夫だよ〜」

「空いてる？」

あぁ、そういや一緒に住んでる人がいるって。

宇野さんは、そいつが好きなんだ。…曖昧なやつを。

出てきたら、顔面パンチでも喰らわしてやりたい。宇野さんを不安な思いにさせて。

妙に緊張しながら、俺はドアを開ける。

「…変化さーん！ただいまぁ〜」

変わった名前。

宇野さんが声をかけると、中からドタドタと男性が走ってきた。

「…うわっ、みさこどうしたの？」

名前呼びかよ。妙にイラつく。

「見れば分かりますよね…。飲みすぎてフラフラなんです。たぶん…疲れもあると思います。」

すると、その男が俺を見て、目を見開いた。

「あっ、…君、柴田くん？」

「えっ…なんで俺の名前。」

「聞いてたよ。みさこからいろいろと。」

落ち着いた笑顔もまた余裕で。心がかき乱されるようだった。

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初めて、柴田くんを見た。

スラッとしてて、イケメンで。

きっとみさこを好きな男。

改めてそう思うと、なんだか柴田くんがみさこに触れてるのが嫌で。

みさこの腕を持って、引き離した。

「ありがとね。あとは、大丈夫だから。」

精一杯、落ち着いた口調で。

「…変化しゃん。…久しぶりにさぁ、お酒飲んだらさぁ、こんなことになっちゃったぁ…笑」

みさこはたぶん、酔いすぎて理性が保ててない。

今までにないくらいべったりと抱きついてくる。

「うわうわ…めちゃくちゃ酔っ払ってるじゃん笑」

そんなことされて、俺もどうにかなりそうだが、柴田くんの前ではそうはいかない。

「柴田くん、ありがとねぇ〜」

そんな男たちの葛藤も知らないみさこは、柴田くんにお礼を言い、一人でてくてく、リビングへ向かった。

「あっ、みさこ一人で行けんの？」

「うーん、大丈夫！」

あれは、ヤバそうだ。

「柴田くん、ありがとう。じゃ。」

「あの…」

「ん？」

「…みさこさんのこと本気じゃないなら、やめてもらえますか。」

真っ直ぐな瞳だった。

本気で好きなんだな。みさこのこと。

俺は本気じゃないと思われてるのか。なんだかカチンときた。

今までにない感情が湧く。

「…心配しなくても、俺は本気でみさこのこと…」

「…変化さーん！早く！」

「あっ、うん！今、行くよ〜。」

まだ、柴田くんは俺をまっすぐと見つめたまま。

「…みさこが呼んでるから。じゃ、失礼します。」

扉を閉じて、無理やり終わらせた。ちょっとずるいやり方だけど、仕方がなかった。

リビングに向かうと、ソファに横たわって寝ているみさこがいた。

「寝てるし笑」

さっき、俺は柴田くんになんて言おうとしてただろう。

俺は本気でみさこのこと。

この言葉の続きはなんだっただろう。

変わろうとしてるみさこを応援してるのは本気だ。一点の曇りもない。

でも…柴田くんが言ってるのは、みさこに対する「好き」の気持ちが本気かということ。

ソファの横に腰を下ろす。

「寝顔…ようやく見れた…笑」

赤くなった頬を優しく撫でてみる。

「変化さん…」

小さな寝言だった。

「はぁ…可愛すぎ。」

心の底から、そばにいて守りたいと思った。

支えるだけじゃなかった。俺の気持ちはもう。

「…好きだよ。みさこ。」

初めてキスをした。

お酒の匂いと俺と同じ香りのシャンプーの匂いが混ざった。

愛おしくて、おかしくなりそうだった。

でも、きっと、俺は一生、自信を持って、柴田くんに向かって、本気でみさこの好きだと伝えることはできないだろう。

今後訪れる自分の運命は、そんなことは許してはくれない。

だから、今だけは。今だけは、その運命に気づかないフリをして、もう一度、キスをした。

変化さん⑨ おわり

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こんな顔して、「だから、今だけは。今だけは、その運命に気づかないフリをして、もう一度、キスをした。」と思ってて欲しい渚。

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愛してるのに、愛せないみたいな儚げな芝居をするにっしー、本当にグッときます…

今回は、男性目線も入れてみましたが、どうでしたか？

また違った楽しみ方をしていただけてたら、嬉しいです！

それでは、また次回お会いしましょう！！

渚でした(^^)