ついにこうなったか!! 会社分割の乱用認めず 最高裁『資産移転の取消可能』の判決
 
少し前の話になりますが、会社分割の取り消しを初めて示した最高裁判決が下されました。
 
最高裁第2小法廷は10月12日、「会社分割に伴う資産移転が債権者に損害を与える場合、
もとの会社の債権者は資産移転を取り消す権利がある」との判断を示しました。
 
債務超過の状態にある会社が会社分割(新設分割)を実施し、新設会社に収益性の高い
不動産を承継させることによってもとの会社の債権者が損害を被る場合に、当該債権者
は、詐害行為取消権を行使して当該会社分割を取り消し、その債権の保全に必要な限度
で新設会社への当該不動産の承継の効力を否定することができるとの判断。
 
事件は、大阪市の不動産会社が2007年に会社分割を実施し、それによって新設した会社
に不動産など収益性のある資産の大半を引き継ぎ、旧会社は対価として新設会社の
全株式を取得。旧会社の債権者である債権回収会社は、強制執行を逃れるための移転で
無効だと主張していました。
 
会社分割制度は、2000年の商法改正で導入され、現在は会社法で規定されています。
企業の事業再生を促すのが本来の目的でしたが、倒産寸前の企業が制度を悪用して
債務返済を免れようとする「抜け殻分割」と呼ばれるケースが相次いでいて、
今回の判決は制度の乱用に対する歯止めとなりそうです。
 
ちょいと法律用語を入れて言うと、
本件は、債務超過の状態にある会社(以下「旧会社」という。)が会社分割(新設分割)
を実施し、新設会社に収益性の高い不動産を承継させる一方、旧会社が新設会社の全株式
を取得した場合に、旧会社に対して債権を有する債権回収会社が詐害行為取消権に基づい
て会社分割の取消し及び当該不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を請求した事案。
 
最高裁判所平成24年10月12日判決は、
①会社法その他の法令において、新設分割が詐害行為取消権行使の
 対象となることを否定する明文の規定がないこと。
②新設会社に債務が承継されず、債権者異議手続(会社法810条)による保護の
 対象とされていない債権者については、詐害行為取消権によって
 その保護を図る必要性があること。
③詐害行為取消権の行使による取消しを認めても、新設会社の設立の効力には影響せず、
 法律関係の画一的確定を阻害しないことなどを理由として、
 新設分割の取消しと新設会社に承継された不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を
 認めた第一審、原審の判決を支持し、上告を棄却しました。
 
なお、平成24年8月1日に法務省・法制審議会会社法制部会が取りまとめた
「会社法制の見直しに関する要綱案」では、本件のような場合に、
旧会社の債権者が新設会社に対して債務の履行を請求できる旨の規定を創設し、
会社債権者の保護を図る方針が示されています。
 
解り易く話せば、
民法は、債務者が意図的に債権者の利益を害した行為(詐害行為)は取消を求められる
と規定しています。
本件では、会社の新設分割が詐害行為取消の対象に含まれるかが争点となり、一審・二審
とも「含まれる」と判断していたが、他の訴訟では下級審の判断や学説は割れていました。
 
債務超過となっている会社が新設分割を行うことにより、一部の優良資産や事業等を承継
させた後、分割会社を清算するという再建手法が採られることが見受けられるが、
中には濫用的な会社分割であるとして訴訟に至っているケースも多い。こうした中で
最高裁はこのほど、濫用的な会社分割に初めてメスを入れる判断を下した訳です。
 
原審の大阪高等裁判所では、新設分割は財産権を目的とする法律行為であり、
会社法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者については
詐害行為取消権の行使が否定されるべき理由はなく、新設分割は詐害行為取消権行使の
対象になり得ると判断。被上告人(債権者)の請求を認めていました。
 
今回の最高裁も、
「会社法その他の法令において、新設分割が詐害行為取消権行使の
対象となることを否定する明文の規定は存しない」、
「新設分割により新たに設立される株式会社に債権に係る債務が承継されずに
保護されない債権者については、詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある」
と指摘しています。
 
9月7日に法制審議会が取りまとめた「会社法制の見直しに関する要綱」には、
民法上の詐害行為取消権に加えて、会社法において、残存債権者が詐害的な会社分割に
係る行為を取り消すことなく、新設会社等(承継会社)に対しても、承継した財産の価額を
限度として債務の履行を請求することができる旨が盛り込まれました。
会社法改正が行われた場合には、会社法でも濫用的な会社分割は認められなくなります。
 
以前のものですが、私の手元に「会社分割の手法」についてのセミナーを案内した、
某コンサル会社のDMがあります。
それを読みますと、
「新会社を作り、その新会社は現在の旧会社の借入を背負わなくてよい・・・・」、
要は、「無借金で事業を継続する方法がある」という安心感をアピールしているな、
といった印象を受けます。
 
このDMを過剰債務を抱えておられる企業の社長さんがお読みになると、
「そんな上手い方法があるのなら、是非知りたい」と思われるかもしれません。
実際にこの手のコンサル会社が実に多く存在し、随分と荒稼ぎをしておりました。
 
確かにこの会社法が出来た辺りでは、会社分割はかなり認められていました。
しかし、この会社分割という手法は、どんな企業にも適用できるものではなく、
諸条件がたまたま噛み合って成就するものであり、成功率は決して高いものではありません。
やり方によっては、かなり乱暴で債権者を怒らせる結果となっておりました。
 
私も、雇用される従業員と異なり、経営者には未払い給与の保証もなく、失業保険も無く、
何も無い状況下で生きて行く手段として、Good事業を切り離し、債権者の合意と
応援があれば、経営者が生きて行く可能性が残る良い方法だと思いました。
 
しかし、この法律の穴を利用してあまりにも悪用する人が多すぎました。
弊社のパートナー弁護士、司法書士などとの勉強会などでも、いずれ法律が改正されると
話していました。
我々のクライアントでも、以前のコンサルタント会社が余りにもチープな会社分割を行い、
その結果、国税と全面裁判になり敗訴し旧会社の税金を支払わなくてはならない裁判事例も
あります。
 
借りた金がそう簡単にカットされるのなら、過剰債務に苦しむ世間一般の多数の企業は、
いずこも苦労しないわけで、普通に考えれば、債権者(金融機関)がそう簡単にカットに
応じるわけがないのです。
 
貸した金、借りた金は双方ともに重みがあるものです。
借りた金は払うのが基本的な考えであるべきです。
 
返済ができなくなれば、借り手企業の血を流すような厳しい経営努力があって、
その果てにその努力を債権者企業が認めてくれて、債務のカットを
たまたま手にすることができた、というようなものだと思います。
企業の本来の目的は、「収益力の向上(回復)」であり、それによって債務の返済を
履行する。そういった姿勢こそ評価すべきものだと考えます。
 
会社分割や債務のカットなどは、心得ちがいをして企業目的とすべきものではありません。
 
債権者(金融機関)としても、経営者のそういった誠意と厳しい経営努力を認識してこそ、
はじめて債権のカットといったような措置にも応じるものではないかと思います。
 
今回の判決により、悪質な債務者の債務逃れの道が一つふさがれたことは、
歓迎すべきことです。