「賃金の支払が遅れている」「残業代が支払われていない」など労働トラブルは年々増加
しています。「業績不振で残業代が支払えない」「人件費を減らさないと経営が立ち行かな
い」など、やむを得ない事情を抱える事業者も多く、双方とも深刻な問題となっています。
意外と会社経営者はこの労働に関する法律や規則を知らない方多い事に驚きます。雇う側
も雇われる側も立場はフィフティーフィフティーなのです。
 
 最近、私のクライアント企業でも同様の問題が発生しました。飲食業の会社で従業員の
数も多く、多店舗展開をしているのですが、出店スピードに従業員の技術が追いつかず、
味の低下がありお客様が離れて行きました。売り上げは半減し、借入金の返済が出来ず、
私の元へ相談に見えられました。すぐさま経営改善計画書を作成し銀行へリスケの申し入
れを行って、程なく了承されました。これから改善計画に則り改革を行おうとする矢先に、
一人の従業員が退社?なのか、クビ?なのか、良く解らない状況で出社しなくなり、内容
証明が送られ、そこには出社しなくなった事情が脈々と書かれ、社長を恨むような内容が
書かれていました。そして「未払い残業賃280万円を支払え」支払われないなら労働基準
監督署へ訴える!と。
 
 この内容に関して会社の就業規則、賃金規則など見せていただきましたが、そもそも社
歴10年の会社ながら、1年前まで就業規則が無く、昨年作成したものの、どこかの雛形を
そのまま使っており、飲食業の就業形態の特殊性を配慮しておらず、雇用契約書もあった
り無かったり、賃金規定もとりあえずはあるものの、賃金台帳も存在しませんでした。ま
た、三六協定など労働者側との取り決めも無く、労働基準監督署への提出もされていませ
んでした。
 
 この社員が訴えている未払い残業の280万円が正しいのか否かの審議はさておき、社長
はこの責任を重く考えて対応しなければなりません。
 
 労働者と使用者の間で生じるトラブルには、「賃金の支払が遅れている」「時間外労働の
賃金が支払われていない」「一方的にシフトを変更され、賃金が減った」「他の社員の前で
罵倒され、上司から理不尽な扱いを受けている」など様々なものがあります。労働問題に
関しては、法テラス、弁護士会、社労士会労働紛争解決センター、都道府県労働局など多
数の相談機関が設けられています。
 
 会社側(使用者)が気をつけないとならないのは、解雇・賃金未払いの労働条件に関す
るもの、職場の安全衛生・健康管理に関するもの、労働保険に関するもので、それらの結
果、会社の業務遂行体制に労働基準法、労働安全衛生法などに違反する行為があると判断
されると、労働基準監督署の調査が行われます。
 
 「労働基準監督署」と言うと一般に「労働問題の駆け込み寺」というイメージを持ち警
戒している経営者も多いと思います。しかし、実際にはその権限には限りがあり、全ての
労働トラブルを解決できるわけではありません。労働基準監督署の調査は、労働基準法・
労働安全衛生法・最低賃金法に違反しているかどうかを目的として行われますが、民事紛
争に関する内容については調査の対象となりません。したがって、例えば労働者を解雇し
た場合でも、解雇が労働基準法に違反していない限り、調査の対象となることはありませ
ん。解雇と同様、賃金や賞与のカットなどについても、労働基準法の定められた手続きに
乗っとって行っている会社に対して調査される事はありません。
 
 最近は景気のせいもあり、会社もギリギリの苦しい経営を行っている場合が多く、労働
者に無理をさせるケースが増えているようです。労働者は弱者救済を求め法令違反の申告
を労働基準監督署へ行い、申告監督という立ち入り調査が行われるケースが増えています。
 
 経営者はそのような場合でも、慌てないように日頃から、就業規則や時間外労働の三六
協定の届出はもちろん、賃金台帳、出勤簿や労働者名簿などを整備し保管しておくことが
大切です。
 
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