大きなリムジンの中でシャンパンを
酌み交わしている長身の男4人と
きれいで可愛らしい女4人
その中でも一番若そうに見える
ク・ジュンピョが
自分と同じような背格好の
だが 髪型がそれぞれ違う
男たちの肩を叩きながら
「お前ら 普通じゃねぇ」
「お前ら 面白すぎる」
そう言って回っている
昔風の格好をして
先ほどから古風な物言いをしているのに
いまだかつて誰も見たことのないような
熱烈超人的超吸引キスを皆の前で披露した
チェ・ヨン
ク・ジュンピョはそのチェ・ヨンの前に座り
自分のシャンパングラスを差し出すと
「ほらっ」
そう言い 乾杯しよう というような
ジェスチャーをしたが
チェ・ヨンはそれをちらっと見ただけで
きれいにカットされ
リムジンのシャンデリアの光で虹色に輝く
クリスタルグラスを じっと見つめている
そしてその味 舌で感じるように
一口飲むチェ・ヨン
「うまい」
そう一言呟くと 細口グラスのシャンパンを
一気に流し込んだ
大きな喉仏が ごくりと大きく動く
先ほどの熱烈超人的超吸引キスでそうなったのか
男なのに 唇が艶やかに赤く
そして てらてらと光っている
隣の女性…古風な服を着ているが
現代の匂いを感じさせる美しい女性
「ウンス」と呼ばれているその女性の残り香が
その男の唇にまとわりつき
シャンパンの香りとともにこちらまで
漂ってくるような
そのような妖艶な顔
色気がありすぎる その男
思わずク・ジュンピョは
くっきりとした二重の瞳を
ふかふかなソファーへと落とした
その男 古風な男「チェ・ヨン」と言う男が
あまりにも美しすぎて 眩しすぎて
神々しい感じがして 見ていることができなかった
躰中から発せられている不思議なオーラ
その男の躰をそのオーラが包んでいる
そして そのオーラのようなものは
隣のウンスをも包み込み
二人は隣同士座ってシャンパンを飲んでいるはずなのに
まるでチェ・ヨンがウンスを抱きかかえ
シャンパンを口移しで飲ませてやっているかのような
そのような姿が 幻が
ク・ジュンピョには 一瞬 見えたような気がした
映画のワンシーンのような幻想的な映像
美しすぎる でもなぜか 哀しくも見えるような
その切ない二人の愛
そのようなチェ・ヨンとウンスが
そこにいたような気がして
思わず目をぐりぐりっとこするク・ジュンピョ
大きな瞳をこれでもかというほど見開き
意を決して再び二人を見つめた
だがそこには先ほどと同じように
空のシャンパングラスを
手持ちぶさたに持っているチェ・ヨンと
周りの男たちを品定めするように見回している
ウンスがいるだけだった
「おい チョン・チノ」
近くにいた仕事仲間のチノに声をかける
「お前 見ただろ?」
チョン・チノは
『何を言ってるんだ?』
そのような表情で
チノ特有の怪訝そうな顔をしながら
ク・ジュンピョを見る
「見ただろ? あの二人」
顔をチノの耳元に寄せてそう囁く
「お前 今見てたじゃないか」
「あいつら 見てただろ?」
チョン・チノは隣に座っているパク・ケインに
「こいつ何いってるんだ?」
そういう表情を見せた
パク・ケインが言う
「見た 私………」
「そうだろ? 見ただろ!!」
パク・ケインに飛びかかろうとするような
勢いで話しかけるク・ジュンピョ
思わずチノが 細そうに見えて
実はきれいに筋肉がついている右腕で制した
「お前 俺の妻に何するんだ」
「俺はただ…そうだろ?見ただろ?って」
「お前の妻に確認したかっただけだ」
「なあ そうだよな?」
「見たよな?」
「俺だけじゃないよな?」
「あいつら…絶対…チェ・ヨンってやつ
あの隣の女…ウンスとかいう女性抱いてただろ?」
「そ…そ…それ…で…あい……つ……」
「こんなに大勢いる前で……」
「く…く…く…」
「なんだ お前」
「自分の名前も満足に言えないのか?」
そうチョン・チノが間に入る
「違うのよ……」
今度はジャンディがジュンピョの隣にやってきて
黒いソファーに腰をおろすと言った
「口移しで飲ませてたのよね」
「あのチェ・ヨンっていう人」
「キム・タンなんか目じゃないわ。あの人」
「そうよね。なんか古風だけどすごく…素敵よね…」
パク・ケインもうっとりした顔で
チェ・ヨンを見つめている
そんな妻と彼女を恨めしげに見つめる
チノとジュンピョ
2組の男と女が自分を見つめ
自分のことについて何かを話している
そのことにとっくに気付いていたチェ・ヨン
そんなことがうっとうしく
こんなことくらいであのように
ひそひそと囁くなど煩わしく
ウンスの耳に 先ほどのてらてらと赤く
光っているその唇を伏せ合わせると
「もう一度 見せてやるか?」
「俺たちの…あの口づけ……」
「ここは天界だ。誰も俺たちを知る者はいない」
「よいだろう?ウンス」
「なあ?よいだろう? もう一度…」
「俺……もう……ずっと辛かったのだ」
「高麗で……」
そうあの切ない瞳で
甘える瞳で
ウンスを見つめるチェ・ヨン
先ほどまで憮然としていたあの顔が
急にこのような瞳になり
今さらながらに顔を真っ赤にして
ドキドキするウンス
何も言えなかった
このようなこと 高麗では決して
軽はずみに言うような
チェ・ヨンではなかったから
先ほどからのあの積極的な態度
まるで 周りに見せたがっているかのような
自分たちの愛を誇示したいかのような
チェ・ヨンに
ウンスは…何も言えなかった
ここなら 思い切り
人目をはばからずに
この天界なら
ソウルじゃないここアメリカなら
アメリカのボストンなら
私たち 思いっきり自由に
愛し合うことができるのかしら……
ウンスはそんな二人の新しい愛を想像して
涙が出そうになっていた
チェ・ヨンと思いっきり愛しあえる
戦いとか 迂達赤とか 隊長とか
そんなこと一切になしに
「私 この人に抱きつくことができる」
そう思うと…
ウンスは思わずチェ・ヨンに抱きつき
そしてチェ・ヨンは
その大きな温かい手でウンスを抱きしめ
髪を 何度も何度も撫でた
数年後に二人は緑の中で
だだっ広い一面の芝生の中で
二人だけで過ごす
その光景が 緑の中で愛し合う二人が
今 このリムジンの中に広がる
まるで白いスクリーンに映し出されるかのような
そのような光景
ジュンピョとチノ
ジャンディとケインが見つめている
二人の 切ないまでの深い愛に浸っている
まるで涙を流しているかのような
躰が心が胸が 全身が震えているような
そのような深すぎる愛を
切ない愛を
2組の男女が まるで映画をみるような
顔つきで じっと見つめ
じっと 感じていた
愛を
愛することを
本当の愛を
愛こそが人間の全てだということを
リムジンの端では久しぶりにあった
イ・ユンソンとキム・ナナが
二人で楽しそうに話をしている
2組の男女とチェ・ヨンそしてウンスとは
また別の世界で
二人の世界の中に入り込んでいた
「俺 あんな黒マスクをして
お前に撃たれたことあったよな」
「そうね… 私あの時…」
「なんだ?」
「あの時…撃った時……」
「どうした…泣くな…」
「もう終わったことだ」
「もういいだろ?俺たちこうして……」
そう言うとユンソンがキム・ナナの肩を
引き寄せぎゅっと抱きしめると
その顎を 上に引きあげ
ナナのくりくりっとした瞳をじっと見つめ
先ほど階段の上でした時のように
右から 左から
キム・ナナの柔らかい唇を奪い
そして…先ほど見たチェ・ヨンのあのキス
それをユンソンは少し真似てみる
ちゅぅぅぅぅつぅううっ
ナナの唇をいつもよりもっと強く
もっと強く
もっとたくさん
もっと もっと……
ユンソンはソウルで一人
夜の高速を飛ばしていた自分を思い出し
流した涙が風とともに後ろに流れていったのを
思い出し
キム・ナナの唇を
どんどん どんどん
激しく奪いながらも
その時の想いがあふれ出て
寂しすぎた自分の人生が走馬灯のように
脳裏を流れ
だが 今ここでこうして
愛しくてしょうがないキム・ナナを
抱き 思いっきり口づけしている自分に
この上ない喜びを感じ
寂しさへの別れの涙
嬉しさをリアルで感じる涙を
そのくっきりと美しい涙袋に滴らせ
そしてその透明な雫は キム・ナナの頬を伝い
白く細い首へと落ちていった
ただ ただ その雫したたりながら
二人は 互いの唇を重ね
二人の心の中で
「あいしてる」
そう囁きあっていた
何度も
何度も
何度も………
俺 もう一人じゃないんだな
俺 もうこんな顔しなくてもいいんだな?
だめか?
寂しくなくても
こんな顔みたいのか?
たまには……
ナナ……愛して……る……
(2016年7月18日UP版)