チェ・ヨンは、歩むその長い脚を止め
自分の胸に抱く
自分の女を見つめ
そして、その唇に
キス
をした。
口づけではない
チェ・ヨンの
キス。
ウンスが好きな
「I love you」
の言葉を胸で唱えながら
ウンスの好きな
「キス」
をする。
青ざめるまでになっていた
自分の女の頬が
ようやくほのかな紅をさした。
「ふっ」
と、嬉しそうな微笑みを
口元に浮かべるチェ・ヨン。
「イムジャ……」
「イムジャ」
「俺の、イムジャ」
「俺なしでは、無理でしょう?」
「俺とともにでなければ
生きられぬでしょう?」
「俺がいなければ、だめなのでしょう?」
初めからこの言葉を言っておけば
このようにさせてしまうことなど
なかったのに。
そう、悔やみながらも
その言葉を楽しんでいる自分がいる。
それを詰る自分もいる。
「俺は…イムジャを…いじめたい…のか…」
「いや……」
「俺がいじめられているのだ」
「イムジャに……」
「イムジャ…」
「ひどい……」
「俺に、忘れて…などと」
「これで何度目なのだ」
「その言葉を俺に言うのは」
チェ・ヨンは思い出していた。
あの時のことを。
行き場のなかった二人の思い。
「頑なにこの方を……」
「天界にお返しするまで……」
「そうできもしないことを、自分に課して」
「俺がその言葉しか言わぬゆえ」
「イムジャも、意固地になって」
「私が帰ったら、私を忘れてなどと」
「二人でできもしないことを」
「互いに言って、互いに傷つけて」
「どれほど…傷ついたか…」
「どれほど…傷ついてきたか…俺たちは…」
「俺…たち……は……」
「そして……これからも……」
「そうするしか…できぬの…だろう……」
「きっと」
「俺たちは」
「そういう愛し方しか、できぬのだろう…」
「そうだろう? イムジャ…」
「そうでしょう? イムジャ…」
「イムジャ…いい加減、起きてください」
「知っておるのです」
「イムジャが、嘘寝をしてることくらい」
「イムジャ…」
「よいのですか?」
「このまま行ってしまっても」
「イムジャは…抱かれていたのですか?」
「この俺の胸に…もう少し……」
「この俺が」
「このチェ・ヨンが」
「これほどまでに、話しているのですよ」
「イムジャに」
「この俺が」
「あれほど何も言えなかったこの俺が」
「こんなにも」
「イムジャに」
「自分の気持ちを、言っておるのに」
「その瞳、開いてはくれぬか」
「俺を、見てはくれぬか」
「その瞳で」
「イムジャ」
「でないと……してしまいますよ」
「俺から……」
「よいのですか?」
「我慢できるのですか?」
「俺の我慢、どれだけと思っておるのです」
「足りませぬ」
「まったく、先ほどとその先のあれでは」
「まったく」
「だめなのです」
「イムジャ」
「ですゆえ」
「瞳を」
「開けて……」
「ぷっ」
もう、こらえきれずウンスは吹いた。
先ほどまで本当に息が止まっていた
その女が、今はこのように頬を赤くして
笑っている。
チェ・ヨンの腕が
その女の鼓動をすぐに
呼び戻していた。
「イムジャ」
「なりませぬ」
「いってはなりませぬ」
「俺と一緒でなければ」
「なりませぬ」
「俺の側にいなければ」
「ならぬのです」
「イムジャ…」
「どれほど詫びれば許してくれるのです」
「どうすれば、許してくれるのです」
「俺がこれほどまでに」
「この俺が…チェ・ヨンが…ヨンが……」
そう、その腕と胸で
ウンスに呼びかけ
撫で、さすり、腕に抱きあたため
ぎゅぅっと抱きしめたいのを我慢して
壊さぬように、自分の女を
ギリギリのところで抱きしめて
その女を呼び戻した。
チェ・ヨンには自信があった。
先ほどまで壊れに壊れ
自分が自分ではなくなり
いったいどこまで堕ちていってしまうのか
自分でも制御できず
ウンスを苦しめたその男。
だが、なぜかこの時だけは
自信にあふれていた。
その女の一番好きなもの。
それがないと、生きてはいけぬもの。
「それは、チェ・ヨン、自分自身なのだ」
ということを、悟ったから。
「自分がそのように、この女を
させてきたのだ」
そう、確信したから。
「自分の匂いと自分の色に染め上げた
自分の女」
「チェ・ヨンがウンスを愛するよりも
チェ・ヨンを愛していると言う
自分の女」
「その愛は、あなたなんかより
全然優ってる」
そう言い切る、女。
チェ・ヨンはようやく
自信を取り戻した。
その男が本来持つ、自信を。
この男が自信を取り戻すと、
この世の誰も、もう勝つことなどできない。
誰がなんと言おうと、チェ・ヨンが
一番になる。
「イムジャ」
「俺が好きなのでしょう?」
「俺よりも」
「まったく俺よりも、俺を
愛しておられるのでしょう?」
「そうでしょう?」
思わず吹き出したウンスだったが
「果たして、失敗した」と
そう思った時すでに遅し、だった。
チェ・ヨンはきっと
ずっとこの言葉を
繰り返すに違いない。
この先ずっと。
耳にたこができるほど。
いや、それではすまされない。
その言葉を逆手に、
あれやこれや
要求してくるはず。
だから、ウンスはその瞳を
開けることができなかったのに、
ついに、見つめてしまった。
自分を抱く男の瞳を。
その腕と胸が、あまりにも
恋しくて。
愛しくて欲しくて。
たまらずに、見つめた。
そして気づくと
自分の手がその男の頬を
包んでいた。
「そうよ」
「悪い?」
「私はあなたが好きなのよ」
「愛してるのよ」
「あなたよりも何千倍も、何万倍も」
そう、あの勝気な声で言いながら、
だが、少し掠れ上ずる声が
のどの求めるオトを
隠しきれない。
だからその手が、
チェ・ヨンの頬をこれ以上ないまでに
優しく包み
そして、大好きな
チェ・ヨンの唇に
キス
をした。
あの男の唇を
大きく割るために。
吐かせるために。
その男の本当の愛を。
自分に懇願する、チェ・ヨンの愛を。
Rain31
-2018年2月13日00:49UP Ver.
追記
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Rainシリーズが一気読みできます。
私自身・・はて、どんな話だったか・・
と思ってる節がありますが・・
汗汗・・・
お暇あるとき
ご興味あれば・・。