白い砂にまみれ

消えゆくようにこの場所で

二人の愛を

 

これまで幾つも重ねて来た

やるせないその愛を

 

また、いつものように

 

差し伸べては押し戻し

さらけ出しては隠し

進もうとしては諦め

 

そんなことしかできない

チェ・ヨンとウンス。

 

 

「面倒なことは、一切致しませぬ」

 

 

だから自分はそうだったのだと

 

チェ・ヨンはウンスを

自分の胸に抱きながら、

これほどまでにその頬を真っ白にして

涙を流す自分の女を見つめ

そう、想った。

 

 

「ただ、避けていただけだったのだ」

 

「自分をぶつけては、やはり怖くて勝手に戻り」

 

「自分の想いを

ただの瞳だけで何も言わず主張し

それでもこちらを向いてくれたこの方を

一人、置き去りにして………」

 

 

「こんなことになってしまうから」

 

「この方にお会いした時から」

「俺は………」

 

 

「一目見た時から……そう……………」

 

「怖かったのです」

「あなたに溺れていく自分が」

 

「分かっていたのです」

「どうにもならなくなることが」

 

「だから……拒絶しようとして……いたのです」

 

 

「愛など知りませぬ」

「恋すらも………」

 

「知りませぬ」

 

「何一つ、知りませぬ」

 

「抱いたことがなかったのです」

「そのようなもの、一度も」

「この心に」

 

「捨てていたのです。そのようなこと」

 

「あるはずがない、いや、あってはならぬと……」

 

「これまでは………………」

 

 

 

「面倒なのです」

「自分が傷つくことが」

 

「怖いのです」

「自分が自分でなくなることが」

 

 

「俺は………………………」

 

「面倒な………」

 

「男………なの………です………」

 

 

「インジャをこのようにして」

「俺のインジャを、こんなにして」

 

「俺は………俺………は………」

 

「俺という男は………」

 

「何度あなたをこうして泣かせれば」

 

「よいの………でしょう………」

 

 

「俺は………………」

 

「なんて馬鹿な」

「愚かな………………」

 

「面倒な………」

 

 

「男なの………でしょう………」

 

 

「インジャ………」

 

「すまぬ。インジャ………………」

 

 

「インジャ………」

「ウンス………………」

 

「私を忘れてなどと」

「できもしないことまで言わせ………」

 

「泣かせ………息すらもできぬほどにさせて」

 

 

「俺は………………」

 

 

「俺という男は………………」

 

 

 

 

堪えきれず、ようやく一つになり

だが、結局その先へ進めず

 

「そんなに辛いのなら

二人でもうどこかへ………」

 

と言うはずの女に

 

ついに

 

「自分を忘れて」

 

とまで言わせてしまったチェ・ヨンは

 

自分がこれまで

どれほどこの女に無理を強いてきたのか

そのことを思い返していた。

 

 

口に出してしまった

言ってはいけない言葉。

 

そんなことできるはずないのに

自分を想うあまり

 

「忘れて」

 

と言ってしまったその自分の言葉に

やはりそんなことできるはずがないと

打ち震え、息ができぬまでに真っ白に、

そして蒼くなってしまった

自分の女。

 

 

意識の遠のいている自分の女を見つめ

胸にそっと抱き上げ

自分たちの、二人だけの

あの場所へ向かおうとしている

チェ・ヨンは

 

自分がどれほど

この胸に抱く女を

ただ、じっと見つめることしかせず

その瞳で

我慢ばかりをさせ

泣かせ

自分までも殺させ

この高麗に閉じ込めて来たことを

悔いた。

 

 

「逆であったら、どうであろう」

 

「立場が、逆であったら」

 

「俺に、できるのだろうか」

 

「インジャが今、俺にしてくれていることが」

 

「俺は、あの天界で、できるのか」

 

「俺は………………………」

 

 

そうも考えてみる。

 

そして、首を

横に、振った。

 

 

「無理………だ………」

 

「インジャほどにはできぬ」

 

「それにこの高麗で生きることが

どれほど大変なことか………………」

 

 

「自分は………負けている………」

「完全に」

 

「インジャの想いに………」

 

「負けて………いる………」

 

 

ウンスの

 

「自分の方がどれほど

あなたを愛しているか

知らないでしょう?」

 

「ねえ、知らないでしょう?」

 

「ねえ………………………」

 

という心の叫びが

こうして砂を踏みしめ歩いている

チェ・ヨンの躰中にこだました。

 

 

「気遣ってあげねば」

 

「もっと、もっと、もっと………………」

 

 

「この方を、俺の元で」

「俺の中で」

 

「いさせてあげねば………」

 

「俺の側で安心して眠れるよう

して差し上げねば………………」

 

「命令などできぬ」

 

「命令など」

 

「俺が、請うのだ」

 

「インジャに………………」

 

「俺の側に、お願いだから

いてはくれぬかと」

 

 

「俺の………側に………………」

 

 

「俺の………………」

 

 

「この方は、強がっているが

すぐに壊れてしまう

俺がいなければ生きてはいけぬ

そのような方なのだ」

 

「この方は………」

 

「インジャは………………」

 

 

「俺が………そうさせたのだ」

「この方を」

 

「俺が………………」

 

「そのような女にしたのだ」

 

「インジャを」

 

「ウンスを」

 

「俺なしでは生きてはいけぬ

そのような心と……躰……に……」

 


インジャ

すまぬ

 

このような男で

俺は………………