「ぽつん」

 

そして

 

「ぽつん」

 

ウンスの頬に

二粒の

Rainが

 

落ちた。

 

熱くて

頬が焼け焦げそうになる

 

そんなRain。

 

 

「痛い」

 

ウンスの胸が

チェ・ヨンがいるそこが

ぎゅぅうっと

締め付けられ

 

その先の喉まで閉まり

息が

止まりそうで

 

瞳を閉じたままのウンスの脳に

チェ・ヨンの

これまで何度みたか分からない

あの男の瞳が

描き出される。

 

 

声が…でない。

 

息が…できない。

 

ムリで

何も………。

 

すべてが

ムリで

 

できない。

 

 

ムリで

 

ムリで

 

 

無理で……。

 

無理で。

 

無理で。

 

 

閉じたままの瞳から

ウンスの叫びのような

雫が

 

ぼろぼろと

あふれ出し

 

鼻からも

あふれ

 

それらが合わさり

ウンスの喉へ

その先の胸へと

落ちていく。

 

 

激しく震える唇。

 

なのに

声などでなくて

 

ただ、

動く唇が

宙をさまようだけ。

 

微かに

ようやく開いた唇。

 

だがその中にあるはずの

息を

その下の喉に

チェ・ヨンがいるはずのそこに

落とすことができず

 

喉は閉まり

それを許してくれず

 

そこを鳴らすだけで

息ができずに

 

意識が遠のいて

いく。

 

 

一人

どこなのか分からない場所を

彷徨っている。

 

そんなウンスに

 

訴える。

 

いくつもの

チェ・ヨンの

あの瞳が。

 

 

自分を見つめ

何かを言いたそうにして

でも何も言わずに

ただじっと

自分を見つめるだけの

あの男のいろんな瞳が。

 

 

何も言わず

打ち震えている

チェ・ヨン。

 

自分をじっと遠くから

見つめるだけの

チェ・ヨン。

 

怒っているような

チェ・ヨン。

 

拗ねているような

チェ・ヨン。

 

諦めようとしている

チェ・ヨン。

 

甘えたそうにしている

チェ・ヨン。

 

今にも泣きだしそうな瞳をして

それを吐息に変え

自分の中に

押し戻そうとしている

チェ・ヨン。

 

 

「ヨ……ン……」

 

 

ようやく少しだけ

開いてくれた

自分の喉が

その言葉を

 

唯一のその言葉を

 

「これが、最後」

 

まるでそういうかのように

ウンスの唇にのせることを

許して

くれた。

 

 

できるはずなどないのに

そんなこと

これっぽっちも

思っていないのに

 

気づいたら

言葉にしていた

 

 

「忘れて」

 

という、言葉。

 

 

決して言ってはいけない言葉で

それが今のチェ・ヨンを

どうしてしまうか

誰よりも分かっていたはずなのに

言ってしまった

その言葉。

 

いや、正確には

口に出ていた

と言ったほうがいい

その言葉。

 

思いとは真逆の

言葉。

 

 

天界ではいつもそうだった

ウンスのその行為。

チェ・ヨンと出会うまでは

ずっとそうだった

ウンスの癖。

 

怖くて

 

これ以上

苦しめてしまうことが

我慢できなくて

 

思ったこととは

違うことを

口にしてしまう。

 

あの男たちとの

時も

そうだった。

 

そうならないように

それ以上にならないように

二人の間で

どうしていいかわからなくて

 

自分から

思ってもいない言葉を

告げた。

 

その男たちと

今目の前にいる

チェ・ヨンは

 

比べようもないのに。

 

この男を

これほどまでに

愛しているのに。

 

自分は一体何をしているのか

 

分からない。

 

 

ただ、

その雫を

躰中からあふれださせ

 

息が止まるような

実際止まってしまっているような

 

そんな感覚を

罰として

カンジルしか

ない。

 

でも、

そうするしか

できない。

 

今の自分には

そうするしかできずに

 

気づいたら勝手に

自分の唇が

そう

言っていた。

 

 

白い肌は

ますます白くなり

 

そして

蒼くなり

 

ウンスは

そのまま

 

チェ・ヨンの

あの瞳の中に

溺れていった。

 

まともに見ることなど

できるはずのない

 

だが、そんな瞳を

ずっと見ていたい

 

そんな瞳を

向けてほしい

 

あの男の

愚直なまでの

真っ直ぐな感情を

さらけ出した

 

瞳の中に。

 

 

ふわりと浮かんだ

ように微かに感じた

その躰。

 

どこかへと

向かっているような

自分の躰。

 

 

だが、ウンスには

それが現実なのか

そうでないのか

分からない。

 

ただ、そんな感覚が

しているだけ。

 

宙に浮かんでいるような

そんな

温かい感覚。

 

だが、自分の芯は

急にぽっかりと

穴が空き

隙間風が

吹き込むような

そんな感覚もカンジテいて

 

再び

自分の頬を

Rainが

雫となって

伝っているような

そんな

カンジがした。

 

 

 

 

「Rain」

 

天界でこの男を

ずっと待っている時

 

必ずそう言い

手を天に差し伸ばせば

幻ではあったが

来てくれた。

 

決して触れてはくれないが

 

必ず来てくれて

自分の悩みを

聞いてくれて

自分を困らせた

男たちを成敗すると言って

聞かなかった。

 

「Rain」

 

ウンスとチェ・ヨンを

二人をつなぐ

大切な

その言葉。

 

「Rain」

 

 

「Rain」

 

「Rain」

 

 

そう言いながら再び

宙に浮かんでいるような

自分の躰は

 

 

あの男の瞳を求め

脳裏に映し出される

その男のもとへと

 

じっと自分を

真っ直ぐに自分を

見つめる

 

チェ・ヨンのもとへ

 

行った。

 

 

 

 

「Rain」

 

 

 

「ヨン……」

 

 

 

 

言葉にしたいのに

することのできないそれを

 

何度も

何度も

 

何度も

何度も

 

 

繰り返しながら。

 

大丈夫

 

行きましょう

 

もう、あちらへ。

 

大丈夫ですゆえ…

 

大丈夫

 

大丈夫……。

 

馬鹿ですね。

 

インジャは。

 

ムリなことを

言うからです。

 

分かったでしょう?

 

そのようなこと

土台、無理なのだということが

 

インジャ……

 

 

 

ですが

すみませぬ。

 

すべては

俺がいけないのです。

 

インジャをこのようにまで

追い込んで。

 

すみませぬ。

 

インジャ

 

すみませぬ。

 

 

俺を

許して

 

くれます…か……?

 

許して

くれるで.......しょうか

 

 

 

インジャ……