震える唇で
自分の女に
ほんの微かに触れ
触れた瞬間
ぴくんと躰が跳ね
思わず
離してしまった
チェ・ヨン。
ウンスの瞳を
いつものように
じっと見つめてやることすら
できず
あの樹の影から見ていた時のように
漆黒のそれを
すっと伏せた。
これが
今の精一杯の
チェ・ヨンの愛。
あの死角で
この湖で
がむしゃらに自分をぶつけた
チェ・ヨンは
今
ここにはいない。
自分を丸裸にし
自分の痛みを露わにし
自分をアイシテくれた女を
その唇で
包んでやることが
どうしようもなく
怖くてできない。
本当は求めてやまない
その女を
抱くことが
怖くてできない。
時間が。
刻が。
チェ・ヨンには
もう少し
必要だった。
ただ
ひたすら
大事に、それは大事に
この、大切な目の前にいる女を
この、どうしようもない
自分の胸の中へと
しまい込んでしまいたい
そう、切に願う
チェ・ヨン。
瞳を伏せたまま
祈る。
「俺とともに」
「永遠に」
「生まれ変わってもなお」
「俺とともに」
「俺だけと……ともに…………」
新しい年がやってこようと
している今この時
チェ・ヨンは
そう、祈り続ける。
自分の女を胸に抱きながら。
瞳を閉じて
その愛してやまない
茶色の髪を
そろそろと、震える指で
撫でながら。
背中を
あの温かい大地から
生まれ来る湯水に撫でられ
躰を
温かい白い砂で包まれ
決して寒くはないのに
むしろ暑いほどなのに
なのに
チェ・ヨンは
うち震えながら
そう、祈っている。
その疲れ果てた
心で。
ウンスが必死にアイシテくれた
その胸で。
「俺は、これほど本気になったことが
あっただろうか」
チェ・ヨンは
ウンスの髪を
「触れてよいですか……」
と、本気でそう言っているような
そんな表情をしながら
恐る恐る
だが
そろそろと
撫でながら
考えていた。
「いや……」
「ない…………」
そうすぐに、唇にする
チェ・ヨン。
その男のこれまでの本気は
ただの見せかけで
その男の持つ力は
そのようなものでは全くなく
それは
これまでの足元にも及ばないほど
半端なくすごいもので
結局振り返れば
その男が持つ力の
万分の一も
だしていなかった。
そんな見せかけで
どうにかなっていた。
だが、ウンスに出会い
なぜか分からぬが
ただ必死にいつも自分に向かって来る
その女を見つめるうちに
自分というものが
まったく
分からなくなっていった。
どうすればよいのか
何をすればよいのか
どう伝えればよいのか
すべて分からず
ただ見つめ
結局その瞳を伏せ
だが、結局は
我慢ならずに
がむしゃらにいくしかなく
そうしてはすまない
という気持ちに
苛まれ
どう向き合えばよいのか
どう愛せばよいのか
どう包めばよいのか
どれが普通なのか
自分に普通があるのか
果たして、そうできるのか
このように刻がたっても
まだチェ・ヨンには
そのすべてが分からず
瞳を伏せることしか
できない。
あの樹の影から見つめ
ふっと
微笑んでいる刻が
一番幸せだとさえ
思ってしまう
そんな男。
ウンスは
チェ・ヨンの
潤いをわずかに取り戻し
すとんと平らに落ちているのに
厚く腕の全く回りきらない
その滑らかな胸の上に
頬を寄せいてた。
緩やかに
チェ・ヨンの腕が
自分を抱いている。
触れるか触れないか
くらいの
そんな弱さで。
そのような中で
ウンスはいつものように
ずっとチェ・ヨンの心を
聞いていた。
チェ・ヨンの指が
自分の髪を
微かに梳くように
撫でるたびに
躰が熱くなっていく。
その熱さが
チェ・ヨンに
分かってしまわないかと
心配でならない。
心地よすぎて
ともすると
眠くなってしまいそうな
自分の男の胸は
一つになっている刻と
同じくらい
ウンスにはたまらないもので
本当は
その心臓は今にも
止まってしまいそうな
ほどだった。
この男の瞳はいつも
自分の心を動けないように
その場所に打ち付け
こんなにも焼き焦がしているのに
「分かっているのだろうか」
「このことを」
その中に永遠に埋もれてしまいたい
とさえ想うチェ・ヨンの胸に
頬をぴたりと合わせながら
そんなことを想っている。
「分かってない」
「何にも分かってない」
「チェ・ヨンなんかより
私の方がどれだけ
チェ・ヨンをアイシテルかなんて」
「分かってない」
「全然分かってない」
「何にも分かってない」
そう想うと
自然に涙が込み上げて
その胸に落としてしまいそうで
慌ててごくんと喉をならし
自分の躰の中へ
落とし込む。
無理矢理に。
「こんなところで
泣いたら
また、ヨンが
おかしくなっちゃう」
自分より年下の男は
こんなにも強く勇ましく
頭脳明晰でしかも
優しすぎるのに
自分には
あまりにも
不器用で
真っ直ぐで
融通が効かず
頑なで
ウンスは
いつものように
「はあっ」
と一つ
ため息をついた。
だが、想う。
そんなところが
これほどまでに
自分をどうしようもなくさせているのだと。
あの男の
「だめです」
「無理です」
「なりませぬ」
という
否定ばかりする瞳が
本当は
好きでならない。
狂ってしまいそうなほど
あの瞳が好きで
あの匂いが好きで
あの背中が好きで
この胸も
唇も鼻も耳も髪も
脚も手も腕も
すべて好きで
自分のものにして
いつも閉じ込めておきたい
そんなことまで
想ってる。
本当は。
あの典医寺の
自分の部屋の窓に
頬杖をつきながら。
「あの人といたいのに
どうして
自分はここにいるんだろう」
「あの人に会いたいのに
どうして
自分は側にいられないんだろう」
「あの人に」
「あの人に」
「あの人に……」
暇があると自分の頭は
今にもおかしくなりそうで
その髪をいつも
かきむしっていた。
「でも…ヨンは…そんなこと」
「知らない」
「私、一度も言ったことないし」
「そんな素ぶりもみせないようにしてるし」
「負担…かけたく…ない…し……」
「これ…以上……」
「この人には、いつも輝いていてほしい」
「この人には、いつも堂々と」
「涙なんて流して欲しくない」
「苦しんで欲しくない」
「言うことを聞くから」
「あなたの言うこと
なんでも聞くから」
「だから」
「そうして……」
「私は、あなたを」
「あなたより何千倍も」
「アイシテル」
「あなたなんかよりずっと」
「比べ物にならないほど」
「アイシテル……」
「私の方が」
「あなたを……」
「アイシテル」
互いの心を聞きながら
だがそれが本当なのかと
まるで信じられず
肌をただ合わせるだけで
打ち震えている二人。
衣を脱ぎ捨て
生まれた時のまままの姿で
透き通る肌を微かに合わせ
白い砂に埋もれている
二人。
刻が…流れる。
今はまだ大晦日なのか
それとも明けて
新しい年がやってきているのか。
分からないほどの刻を
二人はそうしてそこで
その肌と肌を
ただただ
重ね合った。
瞳を閉じている二人。
互いの胸の声を聞いている二人。
ふわりと躰が宙に舞っているような
感覚を
いつしか二人は覚えていた。
白い砂の隙間から
ぼこぼこっ
ぼこぼこぼこっ
と、大地の湯が
湧き始めていたのだ。
チェ・ヨンの躰を
チェ・ヨン自身を
直接その湯が刺激する。
次から次へと
容赦無く湧き出て来る
その湯の塊。
なんどもやり過ごしていた
チェ・ヨンは
次第にその湯をカンジ始め
気づくと
再び、唇をわずかに開き
眉間に切なそうなシワを寄せ
ついには
「あぁっ」
と吐息をウンスに落とした。
チェ・ヨンの甘く
だが精錬なあの匂いが
ウンスを包み
その女を弛緩させる。
我慢できずに
震えながら
その男にしがみつく。
チェ・ヨンは
不意にしがみつかれた
その躰を
大きく反らせると
「イン…ジャ………」
「あそこへ……」
「行き……たいの…です…が……」
「イン…ジャ……」
「こ…こ……で………」
「よい…です…か………」
そう、掠れた声で
懇願すると同時に
自分の女を
自身に打ちつけた。
あの荒々しい
チェ・ヨンで。
そのままその男は
ウンスを突き抜けるまでに
愛し
そしてようやく
見つめた。
自分の女を。
自分を抱き包んで
いてくれる女を。
強靭な腹筋で
肩を
顎をあげ
腫れた女の唇から
引きちぎるほどの音をたてて
吸い切る。
何度も何度も。
吸う。
自然に出る
自分の女のそれを
自分へと呑み込んでしまうように
一つになり
そしてチェ・ヨンも
狭すぎるウンスに
吸い込まれ
唸り声をあげながら
砂浜を二人
転げた。
白い砂を
その肌に
張り付けながら。
ウンスを見下ろす
チェ・ヨン。
湧きだす湯が
今度はウンスを
果てまで感じさせる。
ぼこぼこぼこっ
ぼこぼこっ
勢いよく吹き出す湯に
刺激され
弓のように細い体を
しならせる。
「カン…ジ…テ……」
「俺…を……」
「ヨン……を……」
チェ・ヨンは
それだけ
言うと
弓矢のように反る女の
細腰を掴みあげ
チェ・ヨンを
存分に
ぶつけた。
「すま…ぬ………」
「イン……ジャ………」
そんな言葉の雫を
自分の女の胸に
落としながら。
俺を
カンジテ…………・・・