漆黒の深い谷に

 

すぅぅぅぅぅうぅううっ

 

と堕ちていく

二人。

 

そんな真っ暗闇の中でさえ

 

ウンスは

チェ・ヨンの頬を伝う

一つの筋を

すぐ見つけ

 

薄ぼんやり

だが、白々とヒカル

その手の甲で

 

撫でた。

 

そろそろと。

 

どうしようもなく波を打ってしまう

そんな手の甲で。

 

 

広くて厚みのある

だが滑らかな胸の中に

 

「離してなるものか」

 

と、そんな姿で

自分の女のすべてを

すっぽりとしまい込んでいる

チェ・ヨン。

 

だが、その瞳は

まっすぐ前を

その漆黒の宙を

見つめていた。

 

珍しく不安そうな

そんな瞳で。

 

いや、珍しくなどない。

その男の瞳は

本当はいつも

そんな瞳をしていた。

 

だが、それを

奥に隠しているだけ。

 

その表に

無表情を張り付けて

いただけ。

 

 

だが、

その男が見つけた

その男の女は

 

そんな男の頬を流れる

誰にも見つけられるはずのない

その筋を

 

このような暗闇の中でも

すっと手を伸ばし

 

「大丈夫………」

 

そう言いながら

撫でる。

 

 

「また………」

 

チェ・ヨンは

心の中に

その言葉をしまいながら

 

 

いつも当たり前のように

 

自分の来て欲しい場所に

自分の来て欲しい時に

 

すっと届くその女の手を

 

つかんだ。

 

 

半円を描くその軌道が

見えるほどに

 

ゆっくりと

静かに

自分の女を見降ろす。

 

つかんだその手を

頰ずりしながら。

 

 

不安そうな瞳を

その奥に隠し

微笑む。

 

あのチェ・ヨンの

瞳で。

 

 

何も見えず

何のオトもしない

無の空間。

 

だが、二人は

二人のすべてが

見え、聞こえ、

カンジていた。

 

 

ウンスの手の甲に

そっと唇を

寄せる。

 

 

「インジャ………」

 

「すまぬ………」

 

 

ウンスの瞳が

歪む。

 

 

「すまぬなんて

言わないで」

 

「すまぬなんて」

 

「それは、私なのに」

 

「私…なの…に………」

 

 

チェ・ヨンは何も言わずに

その女の腕を

再び自分の胸にしまい込み

ぎゅぅぅううううぅっと

その女のすべてを

抱き直すと

 

「もう少しですゆえ……」

 

「瞳を…閉じて……」

 

 

「俺…を……信じて……」

 

「俺を………」

 

「信じるのです」

 

 

「何が……あっても……」

 

「よい……ですね……」

 

 

そう言い

再び無の世界へと

堕ちていった。

 

 

「ばさんっ」

 

 

強い衝撃とともに

跳ね返るチェ・ヨンの躰。

 

すべてを自分の躰で受け止め

ウンスはその男の中で

弾んだだけ。

 

静寂が二人を包む。

 

鳥がさえずり

蝶が舞っている

温かい空気の心地よい

そんな場所。

 

刻が流れる。

 

 

だが、何も言わない。

 

チェ・ヨンが言葉を

言わない。

 

 

何も

言わない。

 

 

自分を包んでいる

自分の男の躰の力が

少しずつ抜けていくのに

不安を感じ

 

 

「ヨ………ン………?」

 

そう、呼んだ。

 

「ん? 」

 

いつもなら

そう言ってくれる

あの声がしない。

 

 

「ヨン………………」

 

 

「ヨン?」

 

「ヨンっ」

 

 

胸に耳を当てる。

 

 

「ヨンっっっっっ」

 

 

その男の頬に

 

Rainが

 

ぽつっ

 

と一つ、

 

落ちた。

 

 

 

 

あの草むらで

愛し抜いた

あの時。

 

自分の愛の欲深さを

知ってしまった

あの時。

 

チェ・ヨンは

そんな自分と

 

そんな自分が

 

愛して

愛して

 

愛して

愛して

 

愛して

 

愛して

 

愛して………

 

 

止めることなどできない

自分の愛する

その女の姿を

 

見つめていた。

 

 

どうしようもなく

あふれ、流れ落ちる

涙。

 

どうしようもなく

痛く、切り刻まれる

躰。

 

 

どうしようもない

この

愛。

 

チェ・ヨンの

愛。

 

 

そんな自分を

チェ・ヨンは

あの樹の影から

見つめていた。

 

そこにある躰とは

違う

 

別の

 

躰で………。

 

見つめていた。

 

 

 

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インジャ……

 

 

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インジャ……

 

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インジャ……