あのオトが
チェ・ヨンの躰の隅々まで
染み渡っていく。
チェ・ヨンを司る
不均衡なその肉体の
末端まで
そのオトで
満たされていく。
いろんなオトを
いろんな場所で
いろんな心でもって
聞いてきた
迂達赤隊長 チェ・ヨン。
ウンスの
トクン
トクン
トクン
という
規則的なようで不規則な
チェ・ヨンの躰ほどに不均衡な
そのオトが
チェ・ヨンの頬に
強弱な波とともに
伝わっていく。
自分自身で
自分の生の肌で
そのオトを感じ
その動きを捉え
チェ・ヨンの
喉へと滑り落とす。
そんな時をしばし
過ごした
チェ・ヨン。
徐々に
その男の鼓動は
いつものように強まり
その男のオトを
奏で始めた。
肌を重ねてなくても
見るだけで
その動きが分かるほどの
チェ・ヨンの鼓動。
ウンスの安否が心配で
息を切らせ走ってきた
あの時のような
そんな呼吸を
し始めている。
「だが、今ここではだめだ」
チェ・ヨンはそう
天性のカンカクで感じていた。
止められるのか。
鎮められるのか。
待てるのか。
チェ・ヨンにも
その先が分からない。
自分がどう行動してしまうのか。
分からない。
何も、分からない。
ただ、今は、
自分の感情の
赴くままに。
それだけを、決めていた。
ようやく王から
王命とまで言われ
得たこの大切な刻。
チェ・ヨンにとって
多分。
「自分の人生の中で
大きな転機になるであろう」
そうカンジている
この刻を
チェ・ヨンはいつもの自分で
簡単に制してしまいたくは
なかった。
ただ、それだけ。
あるがままの自分。
迂達赤隊長ではない、自分。
本当のチェ・ヨン。
何も飾らず
何も纏っていない
真っ裸な
ただの一人の若い男。
そうで、ありたかった。
今のこの刻を。
新たな年を迎える
この瞬間を。
目の前にいる
ユ・ウンスを
愛してしまった
チェ・ヨン。
初めて知ったコイが
初めて知る愛に変わり
何も知らぬ男は
ただ、突き進むしか
なかった。
その自分の気持ちに
気づいてしまった
その刻から
その男は
がむしゃらに
必死に
全力で
他の男を
無理やりにでも押しのけ
自分のものにした。
これほどまでに
愛してしまった
この男の愛。
だが、やはり
過去の自分はそうすぐに
変えられるものではなく
この愛もまた
我慢することの方が多く
そんな刻ですら
チェ・ヨンは愛していたが、
だが、今は
自分をさらけ出し
自分のすべてで
嘘偽りのない自分で
ユ・ウンスに
向き合いたい。
・・と、
そう想う。
改めて
あの樹を見つめたその刻に
そうだったのだと
自分を納得させている
その男。
チェ・ヨンの邸宅に根を張る
大きな樹。
チェ・ヨンとウンスの
思い出の樹。
その樹を片方の瞳で
チェ・ヨンはずっと
見つめていた。
ウンスの胸に甘えるような
瞳はすでに
そんな色に変わっているのに
だが、その女には瞳を遣らず
ずっとその樹を見つめている。
静かな大晦日の
柔らかな空気を
その樹とともに
しばし
感じていたい
と願うチェ・ヨン。
ウンと出会ってからではなく
幼少の時から溜め込んできた
感情の波が一気に吐き出され
自分の女の前で
また一つ醜態を
見せてしまったと
先ほどのからの一連の
自分のふるまいを
どう挽回すればよいのか
どう弁解すればよいのか
すぐに答えなどでるはずもなく
その静かな時間に
身を任せるしか
なかった。
そんなチェ・ヨンを
何も言わずに
包み込んでくれている
年上の自分の女
ユ・ウンスの胸を借り
ただ、だた、今は
そうして静かに
していたい。
そうして過ごした
半刻の刻。
だが、それも
チェ・ヨンの鼓動が
終わりの刻を
告げようとしていた。
今まで聞いてきた
いろんなオトが
チェ・ヨンの脳裏を
駆け巡る。
天界のいろんな場所で
聴いたいろんなオト。
それは崔家の草原と湖に
さざ波と荒波を交互に立て
チェ・ヨンとウンスの
躰に鞭をあてた。
脳ではなく
その躰で
その心で
がむしゃらに
互いを感じ求める二人。
いろんなオトとともに。
そのオトの波が
高揚していくのと
同じく
チェ・ヨンの躰もまた
大きく、艶やかに
変化し始めた。
拗ねて甘え
じっくりと
躰の隅々まで
ウンスのオトを行き渡らせた
その男の躰は
自分の女の胸に
埋もれていたその頬を
ようやく持ち上げさせ
その女の瞳を
下から
求めた。
「I love ……you……」
うわずる声で
つい
ウンスの大好きな
天界の愛の言葉を
ささやく。
「見て」
下から
ウンスの瞳を
あの漆黒の瞳で
見つめる。
「欲しい」
突然のことに
戸惑いさまよう
ウンスの瞳を
摑まえる。
「You and me.」
「Always」
「俺とお前」
「いつも一緒だ」
そう、ウンスの瞳を
ようやく
捉え、捕まえ
天界の言葉でささやき
高麗の言葉を胸のうちで
願った
瞬間
チェ・ヨンの
ぷるんと反る唇に
自分の欲しかった
欲しくて欲しくて
欲しくて・・・・・・
どうしようもなかった
あの女の
キラキラヒカル
唇が
ひらりと
舞い降りた。
その男の反る唇に。
インジャ…。
待たせました。
待ちましたか?
インジャ…。
これからの二人の
あの場所へ行くために
俺の元を離れるな。
決して。
よいですね。
俺がお護りいたしますゆえ。
インジャ。
俺から、離れては
ならぬ。
俺から
離れては・・・・・。