Rain

 

Rain

 

 

 

Rain・・・・・・

 

 

 

その言葉を白い息に

隠しながら

大股で桟橋を駆けていく

チェ・ヨン。

 

ウンスに見せたくて

この

美しいRainを。

 

その躰に

カンジテ欲しくて…。

 

この天の恵みを。

 

 

 

躰に一枚

羽織っただけの

黒の薄い衣が

はらりと舞う。

 

チェ・ヨンの

躍動する滑らかな胸に

弾かれた雫。

 

熱すぎるその躰に触れた瞬間

チェ・ヨンだけが持つ匂いとともに

蒸気となって

湖へ舞い落ちる。

 

 

先ほどまで

久しぶりに

思う存分

心の底から愛し合った

二人。

 

 

チェ・ヨンしか持たない

清廉で甘い匂いと

チェ・ヨンのものでしかない

ウンスの匂いが

入り交じり

 

今それが

駆ける男の濡れた胸から

まき散らされていく。

 

 

その男の駆けた軌道が

崔家の湖の宙に

チェ・ヨンのアトとなって

描かれていく。

 

 

「インジャ」

 

 

早く、あの女の元へ戻りたくて

焦れるチェ・ヨン。

 

すぐそこなのに。

 

チェ・ヨンが駆ければ

すぐなのに。

 

二人が心から

向き合い

愛し合える

あの場所は。

 

隠すことなく

自分のすべてを

互いへの愛のすべてを

さらけ出せる場所は

 

すぐそこなのに。

 

 

その距離があまりにも遠く感じ

チェ・ヨンは

一人外へ抜け出てきたことを

悔やんでいた。

 

 

「今までそのようなこと」

 

「ここでは一度も

したことがなかった・・・の・・・に・・・」

 

と、口にしたところで

 

 

心臓が止まりそうになるほど苦しくて

狂いそうにまでなった

あの

刻のことを

 

つい

想い出してしまった。

 

 

「ヨン・クォン……」

 

 

今、思い出さなくてもよいのに

頭がおかしくなりそうで

いや、実際おかしくなって

ウンスをあれほどまでに

いじめ抜いてしまった自分。

 

その時のことを

 

悔いて

 

悔いて

 

悔いて・・・・・・。

 

 

そのキオクは

心の奥底にしっかりと

封印したはずなのに。

 

 

あの刻のように

ウンスと

自分が求めるまま

存分に愛し抜き

 

幸せそうに眠る

自分の女を見つめながら

 

 

なぜか分からぬが

チェ・ヨンは

一人

桟橋まで行き

風に吹かれたくなった。

 

 

火照ってどうしようもない躰。

 

滾る想い。

 

 

もう一度

いや、一晩中でも

愛したいのに

愛し抜きたいのに

自分のものに

存分にしたいのに

 

また・・・自分のエゴで

激しくしすぎたせいで

芯から疲れ切ってしまったのか

 

チェ・ヨンの胸の中で

あの自分の邸宅では

見ることのできない

本当に幸せそうな顔をして

可愛い寝息を立てている自分の女を

今、起こしたくはなかった。

 

ぐっと堪えてでも

束の間の安眠を

ウンスに与えたかった。

 

だが、どうしようもなく

熱くなる自分の躰。

 

我慢できずに

ちょっとだけ

そう想い

あの思い出の桟橋へと

歩いてきた。

 

 

 

そこで

過去の自分に出会い

今の自分があることに感謝し

恵みのRainを一心に受けて

 

再び

自分の女の元へ

急ぎ戻り

愛をぶつけようとしていたはずの

その男の足が

 

一歩

二歩と

 

鈍り

 

そして

崔家の寝所の

扉の前で

 

ついに

止まってしまった。

 

 

この扉を開ければ

すぐそこに

愛し抜きたい

女がいるのに

そうしたかったはずなのに

躰はそう、求めているのに

 

心がついていかない。

 

どうしても

一歩が

手が

 

前に出ない。

 

 

「なぜ・・・」

 

「今・・・・・・」

 

 

「なの・・・だ・・・・」

 

 

チェ・ヨンはうなだれ

扉に手をつき

 

天を仰いだ。

 

 

大きな漆黒の瞳の中に

雫が降り注ぐ。

 

痛いのに

わざと瞳を開きっぱなしにする

チェ・ヨン。

 

その形が

どう落ちて

どう瞳を流れ

躰の下へと流れ落ちていくのか。

 

そんなことを考えながらも

 

その雫とともに

あのキオクだけ

消え去ってはくれぬかと

 

それよりももっとひどい

ミョン・ノサムの記憶を

自分の女から

消し去ってくれぬかと

 

 

天に願う。

 

 

 

「お願いです・・・・・・」

 

「あの人を・・・・」

 

「自分のものだけに」

 

「自分の記憶だけに」

 

 

「しては・・・くれぬ・・・か・・・・」

 

 

「お願い・・・で・・・す・・・・」

 

 

 

 

ただ愛したい

それだけ

なのに・・・・・