草原の草が
左右に荒々しく舞う。
チェ・ヨンの足元を
激しく蹴ちらす。
これでもかと
いうほどに
その男の細すぎる脚を
鞭のように
打ちつける。
大地が揺れる。
樹々が騒ぐ。
風が覆う。
その男ごと
その土の中に
呑み込もうと
するかのようにーーーー。
低いビートが
うねりをあげながら
その男の躰を
巻き上げていく。
抗う
チェ・ヨン。
躰のすべてをよじり
その場に残ろうと
必死に
もがく。
唯一逞しい
上腕で
自分の分厚い胸を
だがその先は
真っ直ぐに
すとんと落ちるしかない
滑らかな肌を
抱きしめる。
「ああああああああああああっ」
叫ぶ。
自分の躰を抱きしめるのは
自分ではないはず。
自分のこの躰を抱きしめるのは
ただ一人
自分の女
ユ・ウンス
だけなはず。
なのに、
ここに、いない。
先ほどのあの
ウンスの言葉は
幻聴だったのか。
あれほどまでに
初めてと言えるほど
いや、初めて出会い
無理やり高麗に連れてきて
力づくで抱きしめて
あの死角で
刺客のように
突き上げ
自分のものに
した
征服した
あの刻のように
ようやく
自分の心を躰を
正直に
表してくれたのに
ここに、いない。
初めて知った
自分の
男。
初めて知った
自分の
女。
初めて
カンジタ
躰の底から
激しく渦巻く
戦慄くほどの
歓び。
カンジル。
カンジスギテ
躰すべてが戦慄き
芯から振れて
おかしくなりそうで
いや、すでに
おかしくなっていて
何度も何度も
打ち付けた。
己を。
心地よすぎる
自分の女。
ありえないまでの
温かさ。
すべてを包み込み
すべてを受け入れてくれる
この初めての
世界。
カンジタコトガナカッタ。
チェ・ヨンの
ハジメテ。
何も知らないのに
躰が勝手にそうしていて
気づけば
これでもかと
上げては落とし
ウンスの髪が濡れ
纏わりつき
束になって
自分の頬を
叩きつける
もっと
もっと
もっと
そんな息遣いが
恥ずかしそうに
ためらう中に
はっきり聞こえ
チェ・ヨンは
完全な男に
なった。
「俺のこと、アイシテルカ」
「俺のこと、ホシイカ」
「俺のこと、知りたいか」
「俺のすべて、ほしいか」
何度も何度も
自分の瞳で
詰問した
あの刻。
伝う。
自分の舌が
這う。
もう、這い尽くすところが
ないまでに
ぬめる。
自分の女の躰のすべてを。
なのに今
あの刻そうした人が
ここに、いない。
あの刻以上に
伝えてくれた
あの言葉をおいて
どこかへと
また
消えてしまった
「ウンスっ」
「どこだっ」
「どこなのだっ」
「俺を、俺を」
「俺をっ」
「一人にしないで」
「くれ・・・」
「お前がいないと」
「俺は」
「生きては、いけぬ」
「お前がいないと」
「俺は」
「何もできぬ」
「お前がいないと」
「俺は」
「一秒たりとも」
「息が」
「できないのだっ」
「ウンスっ」
「俺を・・」
「一人に・・・」
「しないで・・くれ・・・」
「俺の手を、俺の頬を、俺の髪を、俺の腕を」
「お前の一番好きな」
「俺の胸を」
「なぞってくれ」
「俺のすべて」
「くれてやるから」
「俺のすべて」
「お前のものだから」
「俺は・・俺は・・・・・・・・」
「ウンスっ」
「どこだっ」
「早く」
「来いっ」
「俺の、前に」