中国のシーズン途中の移籍ウインドウは先週木曜日で終了した。だが果たして、スター選手の中国移籍の噂はこれで一段落することになるのだろうか? ここ数カ月、その手の噂はうんざりするほどに聞こえてきたが、そこにある程度の実体が伴っていたこともまた事実だ。
実際にこの2カ月間だけで、ディディエ・ドログバ、ルーカス・バリオス、フレデリック・カヌーテ、ヤクブ・アイェグベニ、セイドゥ・ケイタといった選手たちが極東の新天地開拓を目指して旅立っていった。他にも大物選手ではフアン・ロマン・リケルメやティム・ケイヒルにオファーがあったし、フランク・ランパードに対してある中国のクラブから手取りで週給29万ユーロという驚異的な条件が提示されたことも先日明らかになった。様々な観点で、中国は新たな注目の的となりつつある。上り調子のリーグとして、キャリアの最後にもう一稼ぎしたいスター選手たちの新たな移籍先となっていきそうだ。
ここ最近の中国スーパーリーグの急成長には目覚しいものがある。サッカー界の「眠れる虎」と見られていたこの国はその信じられないほどのポテンシャルを発揮しつつあるが、同時に、それが長期的にサッカー界のパワーバランスにいかなる影響を及ぼすかという不安が感じられるのもまた当然のことだ。
中国スーパーリーグの台頭により、キャリア終盤の選手の最後の稼ぎ場として、カタールのスターズ・リーグやUAEのプロ・リーグ、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)などとの比較が持ち上がってきた。だが、中国が最近獲得した新加入選手たちの質には注目せずにはいられない。ほんの数カ月前にチェルシーでチャンピオンズリーグ決勝を戦い、ゴールも決めたドログバ。昨季のプレミアリーグで17ゴールを記録したヤクブ。バリオスもヤクブ同様まだ30歳手前の選手であり、この2年間ボルシア・ドルトムントのリーグ連覇にかなりの貢献をしてきた。まだまだ十分に第一線でやれる選手たちだ。
選手名 クラブ
推定年俸
ディディエ・ドログバ 上海申花 1519万ドル
ニコラ・アネルカ 上海申花 1519万ドル
ルーカス・バリオス 広州恒大 823万ドル
ヤクブ・アイェグベニ 広州富力 785万ドル
ダリオ・コンカ 広州恒大 700万ドル
モイゼス 上海申花 350万ドル
ジョヴァンニ・モレノ 上海申花 300万ドル
ダヴィ 広州富力 200万ドル
フレデリック・カヌーテ 北京国安
200万ドル
クレオ 広州恒大 150万ドル
中国の各クラブに、長期的にこういった巨額のオファーを出し続ける意思があるのかどうか、という点での疑問は残る。大型契約を利益へと還元させたクラブの例がまだ存在していないからだ。だが、中国の多くのクラブのオーナーたちにとって、利益をあげることは大きな問題ではないのかもしれない。クラブのオーナーは巨大な資産を擁する不動産業者であり、尽きることのない資金源を持っている。それでもやはり、サッカー選手への大型投資は中国において比較的新しいビジネスである。カタールやUAEなどの国の例は、将来的にはこういった投資が先細りすることを示している。
中国の成都謝菲聯、重慶力帆で監督を務めた経験を持つローリー・マッキンナ氏は、Goal.comの取材に対し、中国スーパーリーグが成長を続けていく上で現在の選手獲得のやり方が持続可能なものであるかどうかはまだ判断しきれないと語った。
「(大物選手の獲得が)長期的な好影響をもたらすものかどうかは分からない。選手たちは1年や2年だけ滞在し、そこに住み続けるのは困難だと判断するかもしれない。ロンドンやフランスや、スペインに住むのとはわけが違う。中国に落ち着くのは簡単ではない」
マッキンナはクラブ経営陣が選手選考に介入し始めたことが原因で重慶の監督を退任し、5月にオーストラリアへ帰国した。
またマッキンナは、ドログバやバリオス、ヤクブらが成功を収めることが現在の方針の継続に大きく影響するだろう、としながらも、彼自身はそれを疑っているとも付け加えた。一例として、ニコラ・アネルカの上海での最初の6カ月間は順調とは程遠いものだった。アネルカ自身はわずか2得点にとどまり、チームは降格圏付近に低迷している。
「アネルカの試合は何度も見たが、自分のペースでやれていないようだった。周囲の一部に自分とレベルが合わないような選手もいるようなリーグに移籍するのは簡単なことではない」とマッキンナは語る。
現在の中国スーパーリーグは1チーム5人の外国人枠を設けているが、アネルカの例が示すように、これがビッグネームの選手たちの活躍に制限をかけている。この点は現在の中国サッカー界で特に盛んに議論されている話題のひとつであり、外国人選手の獲得のために散財するよりも若手の育成組織を充実させるために投資するべきなのではないか、という意見が強い。マッキンナによれば、育成組織は今のところ「存在していない」とのことだ。
昨季のリーグ王者であり、今季も首位に立つ広州恒大は、現在の外国人選手への大型投資の流れを作ったクラブと見られると同時に、中国の多くのクラブが模範にしようとしている対象でもある。この広東のクラブはもともと2部リーグで戦っていたが、巨大な資金力を持つ恒大房産グループが2010年2月に経営を引き継ぐと、国内の特に優秀な選手たちを獲得し、ダリオ・コンカなどの質の高い選手で外国人選手枠を埋めて、すぐさまピッチ上で成功を収めることができた。最近ではマルチェッロ・リッピを新監督に迎え、アジア王者の座を目指すAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも9月にアル・イティハドとの準々決勝を予定している。
広州恒大の成功によって、中国の他のクラブはその後を追い始めた。それが可能であったのも、ケイタの新天地となる大連阿爾濱やヤクブの加入した広州富力も含めて、中国スーパーリーグの多くは不動産業者がオーナーとなっているからだ。だが、オーナーの豊富なポケットマネーに支えられる広州恒大も、サッカークラブそれ自体としてはさほど利益を生んではいない。彼らのピッチ上での成功は、クラブに資金をつぎ込み続けたいという許家印オーナーの意思に全面的に依存している。
大物外国人選手の獲得の動きに繋がったもうひとつの要因として、近年の中国サッカー界で発生した八百長・贈収賄問題への厳格な取締りも挙げることができる。6月には元中国サッカー協会副会長の南勇氏とその前任者の謝亜竜氏に懲役10年半の判決が言い渡され、その他にも選手や関係者を巻き込んだ事件が複数発生していた。中国がその汚名を払拭しようとしていることは間違いない。それ自体は中国におけるサッカーの健全化に向けた正しいステップであり、スーパーリーグに対しての投資は名誉の回復を急がせようとする動きだとマッキンナも考えている。
「中国はプライドの高い国家であり、八百長問題を酷い恥だと感じているため、積極的な対応を図ろうとしている。クラブが大型補強に動いたのは、そうするだけの資金があったからだ。彼らはサッカーを宣伝し、中国で一番のスポーツにしようとしている。ビッグネームを連れて来るのもその意図の表れだ」
様々な理由により、中国のクラブは大金を消費する体質となっている。ただ、将来的にも投資を続けていくための動機が彼らにあるのかどうか、という点はまだ判断しかねる部分だ。中国スーパーリーグは現在のパワーバランスを覆し、本当の意味で世界のトップリーグのひとつになることができるのだろうか。

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